20.藍自身すらすでにかなりどうでもよくなってきているが、話は最後まで聞いてもらえるようだ
新しいお菓子は、鼻孔からの静脈流血とは関係なさそうなサラダ味ポテトチップスとフルーツグミだった。
「このお菓子、色がきれいですねえ」
「うん、フルーツ味なんだよ。緑はリンゴだったかな、紫がブドウで」
「オレンジはオレンジですか?」
「そうそう、食べてみて」
「……歯ごたえがビミョーですけど」
「うん、ぷにょぷにょしてるよね」
「甘くてほんのりとフルーツ風味ですね、初めて食べました」
「そうでしょ?」
「はい、これが十色ボールペンだよ、あげる」
「うわ、すごい。これ貰っていいんですか? うわー、うれしいです、書いてみていいですか? これって藍の世界のものですよね、すごいですね、今度帰るとき、私も連れて行ってもらえませんかね、一度行ってみたいです」
「あー、いいかも。フローとネズミーランドとか楽しいかなあ、行く前に一緒にネズミ-CD見てからの方が楽しめそうだなぁ」
しばらくボールペンで遊んでいたフローが、ふと気が付いた。こんなことではいけない、藍の話が途中だったではないか!
「それで、部屋に侍女二人と一緒に居たんでしたか」
「そーなのよ、最初はね」
相変わらず大型クッションに埋まりこみ、頭の下に両腕を組み、時々足をパタパタさせている藍は、フローが楽しそうにカラーボールペンを試しているのを微笑ましい気分で見ていた。妹か従妹に文房具をプレゼントして喜ばせているような、ひとりっ子だし、親戚とは住んでいる場所が遠くてあまり縁がなかった藍には今までなかった感情だった。
「それで、しばらくしたら若い執事が入ってきて、ファンデルの侍女に耳打ちしたわけ。で、侍女が傍まで来て、侯爵家の方で見つからない物があって、戦地に送るから急いで見つけたい、置き場所を知っているかと尋ねてきた、自分は知っているから一度帰ってくるがいいか、とか言う訳」
「代わりの侍女は?」
「来てない」
「ふーん、罠感満杯ですねー」
「だよね」
「次はローエングリンの侍女が退室するんですね」
「そのとーり! 侍女長が入室してきて、少々外しますが、御用の際はこちらのベルを、とか言うのよ」
「組織的行動による放置確定ですね。主犯は伯爵夫人ですね」
「どんだけ小娘だと思われてるのか知んないけど、さすがにわかるよね」
「えーっと? 藍は十七歳くらいですよね、小娘ぎりぎりじゃないですか?」
藍はぶすっとして答えた。
「二十九」
「ええー‼ まさか!」
「悪かったわね」
「い、いや、お若く見えることは悪いわけでは」
「ふん、経験不足で年の取り方が甘いんだ!」
「いえいえ、そういう意味では。おかわいらしい感じですし、小柄でお肌もピチピチですし」
「ま、なんだかんだで思いっきり舐められてることだけはわかったから、その場からバックレてきた。そんで、今ココ」
「はあ」
陰険な人っているよね、よく思いつくと思う
そういえば、小学生向けのマナーに過ぎないのに、誕生日会で頂いたプレゼントが気に入らなかったとき、何と言ったらいいか、とかいう心得が話題になっていたことがあって、PTAのおっかさんのひとりが言うには、「私のためにいっしょうけんめい選んでくれてありがとう」が正解なんだとか
どんだけ陰険な女なんだこいつは、と思って、この種の奴には絶対に近づかないようにしよう、と思ったのは私だけだったかもしれないな~、小学生のうちくらいは、好きでも嫌いでも、ありがとう、って言えばいいと思う




