19.イビリの中身に興味を失いつつあるフローのことは気にしないで、愚痴り続ける藍であった
「でね、聞いてよ、あ、聞いてなくてももういいや、はいこの紙どうぞ」
「あ、ありがとうございます。聞いてますよ、聞いてます、興味津々です」
「そう? ま、いいけど?
もらった部屋でヒッキーやってて、しばらくしたらハンスのおかあさん、ローエングリン伯爵夫人から手紙が来たわけ。この世界不便よね、電話ないし、ちょーっとお隣に行くだけでも招待の手紙が来て、返事出して、手土産用意して、輿の手配を頼んで、服装を相談して、一緒に行ってくれる侍女を選んでもらうとか」
「はあ、普通です。すごくきれいに書けますね、このペン」
「ペンの先に、すごくちっちゃい金属のボールが嵌めてあるでしょ、そのボールで、軸に仕込んであるインクがドバっと出ないで少しずつ出るように調整してあるの」
「あ、あります、あります、これですね。 で、正体のお手紙は?」
「フロー、字間違ってるよ、誤字報告くるよ。招待だよ。
でさ、手紙はそりゃもう美しい文字で、挨拶から始まっていかに夫人が私を歓迎しているか、ハンスの結婚相手が決まってどれほど喜んでいるか、とか書いてあって、その後に、暇そうで気の毒だから遊びにおいで、婚約式の説明とかしてあげるから、とーか書いてあった訳」
「美辞麗句の後ろに冷たい視線を感じますねー。 このペンって、インクの色は変えられますか?」
「そうでしょ、もちろん私だって、ヤル気だな伯爵夫人、って思ったわよ。 あ、色は色々あるけど、何色が欲しい?」
「えーっと、いつも使うインクと同じ色があると」
「黒でいい? 後で持ってきてあげる。 それでさ、さすがに婚約者のおかあさんの招待は断れないから、準備は整えて行ったのよ。お土産持って、ドレス着て、ちょっとお隣なのに輿に乗って、執事さんに頼んで侍女さんについて来てもらって」
「そこ間違ってますよ、藍。執事に命じて侍女を連れて、です」
「あー、なるほど。舐められるわけだよ私」
「行ってみたら、目をギラリと輝かせた老婦人が集団で待っていましたか?」
「え? それはコワイ」
「イビられたんですよね?」
「いや、だからさ、お茶会にまでたどり着けなかったって言ったじゃん。ただもう待たされたんだよ」
「はあ、そりゃまた珍しい」
「でしょ? 予想外。
応接間に通されて、お茶が出たでしょ、部屋にはエッシェンフォルゲン家からついて来てくれた侍女と、ローエングリン家の侍女がいたわけよ、長い苗字よね、ふたつとも」
「もっと長いのありますけど。ファンシントマールテンスダイクっていうんですけど」
「よく覚えてるねえ」
「仕事ですから」
「すっごいねー、もうなにもかもどうでもよくなっちゃうわー。テストのとき、名前欄に書ききれないわ~」
「はあ、まあ。 えーっと、待たされたんですしたね」
「あ、ちょっと待ってて、お菓子なくなっちゃったよね、ボールペン十色セットも持ってきてあげる」
ファン・シントマールテンスダイクは、実在するオランダの苗字です。ファン(van)が付くので、貴族の家名かも
タイの貴族名で、ノラニティパドゥンカーンというのも長いと思います。王の盾という意味だそうです




