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17.藍は予想できなかったタイプの陰険なイビリにお怒り炎上したらしい

 

「大体さ、メイベルいなかったしハンスも南部の砦に行くからって、婚約申請書にサインしてと言われた時には、一回あっちに帰して、って言ったんだよ? でもさ、ハンスが自分はすぐに出なくちゃならなくて、準備する時間がないから、ごめん、待ってって、お願いだ、とかいうし。そもそも一度帰してもらう時に、こっちにもう一度来たら婚約するって約束してたから」

「はあ」


 フローは、念のために軽く鼻梁を摘まむ。スパイなんだから閨の実施トレーニングまで受けていると思われるのに、妙に恋愛シチュに弱い。


「ひとりでいても、何もやることないじゃないね、まあ、別にいいけどさ、一日中パソでゲームとかやってて、ほとんど部屋にいたわけよ。動くと警備の人や侍女やメイドみたいな人たちが大変そうだったしさ」

「いや、藍、それは彼らの仕事ですから。侯爵家の養女で、ローエングリム卿の婚約者ともなれば、大体何やっても問題ないですよ? お庭の散歩でも、刺繍でも。あとは、孤児院の慰問とかでもよろしいですし、戦時ですので侍女とご一緒に軍服をお縫いになるとか、まあいろいろ」

「あーそうかー、縫物なら少しくらいできたのになー、刺繍はできないけど」

「どなたかからそういうお話はありませんでしたか?」

「なかった」


「そうでしたか、侯爵夫人もお忙しかったとのことですし、藍が異界の人だからどう接していいかよくわからなかったのでしょうね」

「そうかぁ、侯爵夫人が帰っておいでになっているときに面会を求めて、何かやれることはないですか、とかお聞きすればよかったんだね。失敗したわー。私、どうしようもない横着者だと思われたのか、そっかー」


 藍は遠い目をしてしまった。

 貴族制のある世界では、身分ある人がやることに逆らえない。ということは、侯爵夫妻もエアハルト夫妻も留守で、長女エカテリーナが嫁している状況では、養女藍が屋敷のトップだということだ。誰も藍を邪魔しない。まして、藍にはまだ決まった侍女もおらず、乳母娘のような親しい人もいない。つまり、誰も貴族婦人ならどう振舞うべきなのか教えてくれる人はいないということだ。


 まあ、この条件なら、どんな日本人がそこにいたとしても、まず“貴族としての正しい行動”はわからないだろう。別に藍が特別鈍いわけではない。だが、それは確実に藍の評判を落とした。


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