16.さらに質問は続く。若干スパイ風味
「それでさ、そこからが問題だったんだよ」
「え、その荷物を運ぶ以上の問題がありえたんですか?」
「もう、フローったら。 メイベルがいなかったんだってば、もうその場で帰るところだったんだから」
「え?」
「一年は長かったんだよ。私は両親を亡くして、その後メイベルと出会って、メイベルと三年近く一緒に居たのよね。その時はメイベル、まだ猫だったけど。それでさ、こっちに来て人間になっちゃったあとも、本当にこの世でただ一人の大切な頼れる人だったの」
「あ、あの、こういう質問はどうかと思いますけど、元の世界ではご結婚は?」
「してない」
「えーっと……」
「恋人もいない! 婚約者も。ひとりっ子だったから兄妹もいない」
「う、す、すいません」
「どちらかと言えばハンスはかなりどうでもよかったの。メイベルと離れるのがいやだったの。
ただ、召喚陣を握ってるのがハンスだったし、こちらに来ればメイベルとずっといっしょにいられるなら、ハンスと結婚してもいいとは思ったわよ。だって、メイベルの夫のハインツは、ハンスの甥なんだもん。王都屋敷も隣だし、メイベルが赤ちゃんを産んだら教育係になれるって言うし」
「そうでしたか、それはどうもすみません」
「メイベルは、こっちに帰ってこなくてもいい、って言ってくれたんだけど、私が寂しかったの。ハンスだって別に悪い人じゃないし、婚約さえすれば、結婚は急がせないって約束だったし」
「はい」
「でさ、メイベルに会うのを楽しみに転移してきたのに、メイベル、いなかったの」
「ご領地ですか?」
「うん。よくわかるわね」
「それはまあ、諜報員ですし」
「一旦ファンデル侯爵家に荷物と一緒に運ばれて、閣下と夫人にご挨拶して準備してくださっていた部屋に入ったところで、メイベルが領地に行っているって聞かされたのよ。
あ、ここ諜報員なら聞きたいところかな、メイベルおめでただって」
「え? おめでた?」
「妊娠してるってこと」
「えー、それは知りませんでした!」
「この情報持って帰ると褒賞金出るかもよ?」
「はあ、まあ」
「こちらでは簡単な式を挙げただけだから、半年くらい前に領地に行ってそちらで盛大な式を挙げて領民に祝ってもらったらしいの。しばらく領城にいるうちに、メイベルの妊娠がわかって、それで動けなくなっちゃったんだって」
「そうですよね、お子が宿っておられては、馬車には乗れません」
「揺れるらしいもんね、私は乗ったことないけど。
で、メイベルに会いたいから、私が行くってことで話はまとまっていたの。それなのに」
「エインデルですね」
「そうなのよ、ひどくない?」
「まあ、いつ紛争になってもおかしくはない場所ですから。驚きというほどではありません」
エインデルは、この国グランツフォルの南にある国だ。国境の山脈地帯に鉱山があり、その領有権を巡って小競り合いを繰り返している。今回は、エインデル側が掘ったトンネルが運よく鉱物資源に到達、鉱石を運び出し始めたため、激戦になっている。恒例のやったりやり返したりの小競り合いではあるのだが、負ける訳にもいかない。グランツフォルの目的はエインデルが掘った坑道を潰すこと。この紛争は目的を果たすまで続くだろう。
「ハンスはすぐに出ることになって、ハインツも領城から直接南に向かったの。で、戦時だから馬車も馬も徴用されて私の分はなくなっちゃったのよ」
「そうでしたか、それはお気の毒に」
「ファンデル侯爵は城に詰めっきりでしょ、毎日何度も早馬が行き来するから、侯爵夫人も補佐に呼ばれて、ほとんどお帰りにならない」
「あ、わかりました。その隙を狙って、いびられましたね」
「よくわかるわねぇ」
「そりゃもう、貴族の性ですから」
「まだ婚約の契約にサインしただけで、お披露目さえしてなのに、嫁いびりとかひどくない?」
「あ、そっち方向からでしたか」




