表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

●2 従者

 魔王の中の魔王。

 その力は果てしなく、紫眼の視線だけで命を奪い、爪弾くだけで大陸を消した。

 何者にも縛られず。何者をも従えず。

 ただ我が道を行く孤高の王。


 だが、いつからかその隣に立つ者が居た。


 金の髪の美しい人。

 孤高の魔王の隣で朗らかに笑い、冷徹なる魔王も隣人にだけは微笑みかけた。


「*****!」


 形の良い唇は魔王の名を紡ぐ。

 それに応えるように魔王は、その唇を塞いだ。












++++++++++++++








「んぐっ」

「はい、起きてくださ~い!」

 唇に当たる感触…それは柔らかくぷるぷるとしていて…間違いなく・・・


「ドラグンケロッグの目玉を食べさせるな!!」


 ぺっ!と吐き出されたそれが床にころころと転がっていく。

 人の拳大のゼラチン状の中に赤黒い何かが揺らいでいる。

 女性なら悲鳴を上げて飛びのく気持ち悪さだ。


「ああ、珍味をもったいない…」

 しかし寝台の傍らに立つ少年は、それを未練がましく目で追った。

「だったらお前が喰え!拾って食べろ、許す」

「別にいいです。遠慮しておきます。おはようございます。魔王様」

 あっさりと断り、少年は不機嫌そうな魔王に頭を下げた。

「リク、貴様…死にたいのか?」

「特に死に急いでいるわけではありませんが…所詮この身は卑小なる人の身。魔王様の気紛れで生かされている身ですから。殺されても文句は申し上げられません」

 口減らしに森に捨てられていたのを魔王が拾った。

 それは確かに気紛れ以外の何ものでも無かった。拾ったからと言って何か面倒を見たわけでも、食料を与えたわけでもない。

 だが幼い子供はしぶとく生きて、魔王の『従者』と自称するまでに育った。


「くそっ。せっかく久しぶりに我が愛しのシュザに出会えたというに」

「夢ですけどね」

 従者は辛辣だった。

「それよりさっさと起きていただけますか。魔界に日が差す時間は短いので、寝具を干しておきたいのです」

「放っておけ」

「万年床はカビの温床です。カビと仲良しの魔王なんて格好がつきません。カビ魔王なんて呼ばれたら指差されて笑われるだけですよ。せっかくの美貌も笑いの添え物になるだけです」

「貴様は……もういい」

 反論するのも馬鹿らしくなり、魔王は寝台から出ると漆黒のマントを身に纏った。

「あ、そのマントも洗濯に…」

「黙れ。それ以上言えば灰にするぞ」

「はい」

「……。……」

 魔王は蟀谷を押さえ、その場から消えた。



<従者>の名は『リク』それ以上も以下も無い。

 そして、魔王によって与えられた役職でもない。ただリクがそう名乗っているだけだ。

 魔王の身の回りを整え、城を掃除し、魔王を送り出し、魔王を迎える。

 何しろリク以外の人手というものがここには無い。

 孤高の魔王はただ一人の部下も持たない。

 部下が居る必要が無い。それほどに強大な力が魔王にはある。

 そして不要で余計なものを傍に置くほど魔王は慈悲深く無く、己を主と呼ぼうとした魔を瞬殺した。

 その帰り道で気紛れに拾われたのがリクだった。

 リクに掴まれたマントを振りほどくでもなく、歩調を緩めるでも無く、引きずるままに城に戻った。

 そして、棲み付いたというわけだ。


 魔王が気に留めるものは、今も昔もそして未来もただ一つだけ。


 儚く散った麗しの恋人だけだ。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ