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拓馬ことカイルの家へGO!



 ***




 結論から言うとレヴイは妊娠はしていなかった。

 それ以前の問題で、レヴイは子宮に問題があり、孕まない体質になっているらしい。

 あれだけの再生能力を持っていながら子宮だけ治らないのはおかしい。

 自分の境遇を考えて意図的に操作している可能性が高いとみていいだろう。


 ——確かにそっちの方が幸せかもな。


 好きな奴とか、やりたい事とかあったのなら洒落にならない。その上で単に欲の吐き出し口として別所から連れて来られているのなら……。

 そこまで考えて、一つの可能性が出て来た。拓馬が言っていた闇オークションだ。


 そこで何処かのゲスに買い取られ、金を稼ぐ為だけの道具にされていたとしたら?

 勝手に怪我が治り、それ以上に再生能力もあるとなれば変態どものかっこうの餌食だ。

 レヴイの体はガリガリに痩せていて骨も浮くくらいだ。食を含めたまともな生活は送らされていない。


 逡巡している間に、診察は終わっていた。

 栄養失調にもなっていたので点滴を打たれて、医師には滋養のある食生活を勧められたが、金もない上に働き口もない。


 ——まずは資金稼ぎをしなくてはいけないな……。


 拓馬は先程からずっと剣呑とした空気を放っていて、今では呼吸をする度に吐き出す息が強力な呪詛になっているんじゃないかと疑いたくなる。


「おい、頭を切り替えろ。皆んなビビってんぞ」


 おかげで医者も看護師も恐怖で怯えていて、言葉も噛みまくって声が裏返っている。


「とりあえず暫くの間はお前んとこに泊めてくれ。知らない事が多すぎるし、金がいる。何処かで働き方を学んで金を稼ぐ方法を考えるしかねえ。拓馬、行くぞ」


「…………はい」


 ——ん?


 急に呪詛が消えて今度はメルヘンな花が飛び始めた。

 モジモジしながら視線を彷徨わせている拓馬を見やると、一秒前とは大違いの表情をしていたので顔を引き攣らせた。


「おい……いくら今の俺の見目が好みだからって、俺を押し倒すなんてトチ狂った事するなよ?」

「自信ないけど善処するっす……」

「すり潰すぞ」


 視線と声のトーンを下げてニッコリ笑って言うと、拓馬が股間を押さえた。


「今ヒュンってなったんで大丈夫っす」

「そりゃ良かったな」


 ——俺相手によく勃つなコイツ。そんなにこの顔が好みなのか……。


 消化不良でも起こしていそうな顔をしている拓馬を見て鼻で笑った。







 拓馬の家はさっきの居酒屋だった。

 家の中に入った瞬間、急に拓馬の体がまた外に吹っ飛んで地面に転がる。百八十センチ近い体を吹き飛ばすなんて物凄い力だ。


 ——すげえな、この親父。


 唖然と見つめる。


「カイル! 店の手伝いほっぽって何処行ってやがった!」


 ガタイの良い親父に再度拳骨を食らった拓馬は、頭を押さえて蹲っている。


 ——ありゃ痛そうだな。


 他人事のように見つめていたが、これから世話になりたい身としては、拓馬の肩身が狭くなるのは極力避けたい。


「すみません。記憶がない俺に付き添って病院に連れてってくれたんです。店の手伝いなら今日から俺もしますので怒らないでやってくれませんか?」


 性に合わないが己に出来る精一杯の媚を売る表情を浮かべて、拓馬と男の間に間に入る。


「アンタは?」


「それが全く思い出せなくて……。レヴイて名前だけは知っているんですが……町中を歩いてたら知らない人にそう呼ばれたので。でもそれ以外は全然……。身元不明だとやっぱり雇って貰えないですよね……」


 態とらしく視線を落とした。


「……そうかい。もし行くとこもねえんならカイルの部屋の隣が空いてるから使え。アンタ、オメガだろ。このバカ息子に襲われないように鍵もかけとけよ。鍵はこれだ」


 泊まる事を察してくれたらしい。部屋も貸してくれたので助かった。鍵束の中から一つの鍵を手渡される。


「良いんですか? ありがとうございます。たくさんこき使ってやって下さい」


 拓馬を、と心の中で付け加える。


「ルドだ。俺は周りからそう呼ばれている。以降はルドと呼んでくれ。ここは居酒屋なんでな、夕方過ぎからしか開けてねえ。朝はのんびりしてて良いぞ。仕込み始めるのは三時からだ」


「分かりました。ルドさんお世話になります! 働いた分の給金は要りません。その代わりにご飯とシャワーだけ貸して貰えると有難いです」


 羽琉が言うとルドの目が驚きに見開かれた。


「それだけで良いのか? 任せておけ。夕食を作っておくから先にシャワーでも使ってくるといい。場所は此処だ」


 ルドの後について、一階にある奥まった部屋に連れて行かれる。トイレも教えて貰い、頭を下げた。

 二人で着々と話を進めているのを拓馬がポカンと見つめている。


「俺、風呂行ってくるわ」

「へ? あ、はい……いってらっしゃいっす」

「服貸せ。着替えがない」


 拓馬ことカイルに言うと、慌てて二階に駆け上がったかと思いきや、動きやすそうな上下の服を持って拓馬が現れた。


「下着は?」

「ないっす」

「おい……てめえ……」


 地を這うような声が出る。拓馬が焦って左右に手を振った。


「ちょ、睨まないでくださいよ。マジで兄貴の分ないんすよ。そんな細っこい腰じゃおれのだとデカくて無理でしょ。明日買いに行きましょうよ」

「俺は金持ってねえぞ」

「それくらいおれが出すっすよ」

「サンキューな、たく……カイル」


 拓馬と言いかけてカイルと言い直す。何だか他人を呼んでるみたいで落ち着かないが、慣れるしかない。

 この世界では〝レヴイ〟であり〝カイル〟なのだ。

 それに現在の父親であるルドの前で拓馬と呼ぶわけにはいかないだろう。


「え……あ、はい……」


 カイルはどこか落ち着かない様子で視線を彷徨わせていた。


 ——どうかしたのか、コイツ?


 目を眇めてみせる。


「ほらカイル、お前は先にさっさとホールに出ろ!」

「へーい」


 ——これからはずっとカイルって呼ばなきゃいけねえのは慣れないな。


 それでも慣れておかなければ、いざという時にカイルと呼べなくなってしまう。周りからすれば「誰それ?」状態になるだろう。


 頭からシャワーを浴びて、手早く全身を洗っていく。やっと体が清められてスッキリした。

 外に出て体を拭くと用意して貰った服に着替えた。


 カイルが持って来た服は上下セパレートになった服で、ズボンのとこを布の帯で自分のサイズまで締め上げるタイプだった。

 こうして着てみるとやはりレヴイの体は本当に細すぎる。


 ズボンをとめる腰巻きの帯を何度も何度もぐるぐる巻きにしてやっと良い長さになった。

 トイレの度にこれをしなければいけないのかと思うとウンザリだ。

 先に出して貰えたまかないを食べて、それから拓馬のいるフロアに出る。


「ちょ、兄貴! 髪くらい乾かしましょうよ」

「ドライヤーなんてなかったぞ」

「あ、そか。こっち来てください。おれがやるっす」


 大人しくホールの隅っこによると、カイルが頭の上に手を翳して呪文のようなものを唱え始める。

 頭が暖かくなり始め、何処からともなく熱風を感じた。驚く事にたった数分で髪が乾く。


「お前何した?」


 直に触って確かめると、ドライヤーを使った後みたいにまだほんのりと熱を持っている。


「魔法っす。こっちの世界じゃ魔法があるんすよ。因みにこれは火属性と風属性と水属性魔法の組み合わせになりますね」

「ふーん。俺も使えんのかな。後で教えろ。おい、それよりお前も今日から俺の事はレヴイて呼べよ」

「えっ! 無理っす。兄貴は兄貴っ……「レヴイだっつってんだろ。ああ?」……ぐふっ! はいっす」


 鳩尾に拳を入れると、カイルが返事した。


「聞きたい事が山積みだ。仕事終わったらお前の部屋行くぞ。その前に俺は何をすればいい?」


「親父が作った料理を運ぶんすよ。この紙とテーブルに番号が書かれているから同じ番号のとこに置いていくんす。後は客からの注文を記入していく。これもテーブル番号と注文品を間違えないようにして下さい。間違えると親父にぶっ飛ばされるんで気をつけてくださいっす」


「分かった」


 ルドに手渡されたエプロンを身につけ、注文用紙を見ながら料理を運んだ。




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