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小屋をでる!



 ***




「うっし、行くとするか!」


 明るくなって活動を始めた。

 戸を開けて外に出ると、周辺全て見渡す限りやたら大きな木しかなくて思わず遠い目をする。


 ——今度は遭難とか勘弁して欲しいもんだな。


 山というのは本当に厄介で、どこに向けて歩くかで命運が決まる。

 遭難して死ぬか、運良く人里に降りられるかのどちらかしかない。

 小屋には腹を満たす食料は何もなかったので、この体の主は無理やりここへ拉致られてきたのだろうと考える。


 ——さて、どっちだ?


 昨夜、雨は降っていなかったので、痕跡くらいはある筈だ。しゃがみ込んで足跡を確かめる。左側に大きめな靴跡が何足分も残っているのが分かり、その跡を辿るように歩き出した。

 一応何かがあった時用としてこの小屋にまた辿り着ける様に、落ちていた木の枝を拾い集める。それから周りの地形なども頭に入れていく。


 別れ道には目印になるように木片を置いた。

 ここは確実に山の中だ。中腹くらいの深さはある。また途方に暮れた。


「合ってるといいんだけどな」


 体感で一時間。変わり映えのない景色を見て、足を止めた。

 一向に人里に降りられる気がしない。

 判断を間違えたかと思案してみるも、他に案もないのでそのままひたすら歩く事に決定する。更にまた一時間を経過した時だった。


「町……あった。良かった。つうかやっぱここ日本じゃねえな」


 一人ボヤいた。

 廃村や地図にない村とかの可能性も考えたが、明らかに建物の形状が違う。

 土で作ったような丸みを帯びた家は、雪で作る鎌倉を連想させた。きちんと四角の家もあるが、大きな窓枠や家の外壁に均等に木の板が打ちつけてある。


 防犯機能を備えたシャッターの代わりかも知れない。道もアスファルトではなく、土のままだ。

 ボケっとして道に立ち尽くしていると、ニヤニヤしたソバカスだらけの男がやってきた。


「なんだ、レヴイ、お前戻れたんかよ。さすが特殊能力持ちのオメガだな。それにその尻軽ぶりは親譲りか? また今日も好きなだけ犯してやるよ。淫乱なお前がもっと満足出来るように人数増やすように提案してやろうか? まだまだ発情期真っ最中だから男が欲しくて堪らないだろ?」


 ——レヴイ、か。


 この体の主の名前が分かった。

 しかし、男の下品な口振りが無性に癇に障り、気がついたら思いっきり腕を振りかぶっていた。男の鼻っ柱に向けて、体重を乗せて拳を繰り出す。

 偉そうなセリフを吐いていた割に、たったの一撃で伸びてしまった男を邪魔にならないように、足で蹴って道の端に転がす。


「くっそ、痛え。この体見かけ通り本当に貧弱だな。俺の来世かもしれない体が貧弱とか笑えねんだけど?」


 これまでは喧嘩では負け無しだったのに残念過ぎる。殴っただけで拳が砕けたが、それも束の間で再生していく。


「はー……よわっ、体鍛えよ……」


 今この体が何歳かは知らないが、せめて昔みたいな体にはなりたかった。

 身長もだいぶ違う。目線が低過ぎて違和感があるからだ。


「とりあえずコイツの家見つけるか」


 目新しい作りの家ばかりだ。

 この町がどんな町なのかも調べる為に、キョロキョロと周りを見渡し、観察しながら歩いて回る事にした。


 さっきの男をのしたところを見られていたのか、こっちを見ながらヒソヒソと会話をしているのが分かり、気分は最高潮に落ちていく。


 ——何だ? 何で見られてる? アイツら全員はっ倒していいのか……?


 頬肉が引き攣る。

 この視線の種類は覚えがあった。親に捨てられたからだとか、まともな親じゃなかったから乱暴だとか、好き勝手に想像して周囲から向けられていた視線と同じだ。


「あのさー、言いたい事あんならハッキリ言えや!」


 大きな声で言うと、それぞれが家の中に慌てて入って行った。


 ——何だアイツら……。


 面白くない。息を吐き出したのと同時に頭を切り替えて、暫く歩いていくと店が並ぶちょっとした広間に出た。


 ——商店街みたいなものか?


 食事が出来そうな場所も見つけたが、金を持っていなかった。

 食べ物があっても買えない虚しさで落胆する。切ない。


「うええええ、こんなの嫌っすー!」


 思わずピタリと足を止める。

 居酒屋っぽい店の前で、二十歳中頃の良い歳した茶髪の男が駄々をこねて、周りの迷惑も顧みずに大声で喚いている。


「なんでぇえええ、どこっすかぁああ! 兄貴が居ないっすぅううう!」

「妙な事ばっか言ってねえで働け! この馬鹿息子!」

「おれがいるとこは兄貴の側って決まってんだよ、クソ親父!」


 男の頭に拳骨が落ちる。


 ——どこにでもいるんだな、こういうヤツ。

 顔まで拓馬そっくりだ。遠い目をした。


『極道は怖いけど、おれは兄貴とずっと居たいっす!』


 そう言って拓馬は本当に極道の道に飛び込んできた。

 泣き喚いている男を半目になりながら見つめ、別の場所に移動しようと歩き出した時だった。泣いていた男がピタリと泣き止んだ。


「兄貴の匂いがするっす!」


 茶髪の男が弾かれたように立ち上がって周囲を見回している。


 ——お前は犬か! バカ拓馬か!


 ツッコミたくなったが無視した。ここに拓馬がいる訳がない。


 ——今世でも一緒とかどんな縁だよ。


 男の周りには十人くらいの人垣が出来ている。


「やっぱさっき二階から落ちて頭打ったのが悪かったんじゃないか?」

「何が変って、口調まで変わっちまってるもんな、可哀想に。記憶喪失というやつだろ」

「目が覚めてからおかしな事ばかり言ってるもんな。兄貴って言ってもカイルには兄貴はいない筈だろ?」


 ——兄貴はいない? カイル?


 周りからカイルと呼ばれた男を尻目に見る。匂いの元が分からなくなったのかまた泣いていた。


「まさか……いや、そんな筈ないよな……。拓馬が転生しているとか……? いやいやいや、マジでないない」


 転生したっぽいのと、特殊能力の件もあり、恐る恐る茶髪の男にまた視線を向けた。


「拓馬……?」


 聞こえないくらいに小さな声だったというのに、男には聞こえていたようで、ピタリと泣きやんだ。


 視線を真っ直ぐにこちらに向け、呼吸さえも忘れたように停止している。

 次第に顔が輝いていき、目を潤ませて物凄い早さで駆け寄ってきた。


「見つけたっす兄貴ぃいい! そんなお色気ムンムンになっちゃってハスハスして……「キメぇんだよ、この駄犬が!」……もっと優しくして欲しいっす!」


 まさかの本人だった。



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