2 廃病院
川沿いの道を歩いていくと、そこに廃病院があった。僕は生首の入った箱を抱えたまま病院の敷地に足を踏み入れる。壊れたドアから建物内へ。
廊下は窓が割れ、ゴミが放置されている。大便やエロ本や注射器や使用積みコンドーム、動物の死体まで落ちている。それらを踏まないように注意しながら進み、突き当りの衝立を回り込むと、そこに地下への階段がある。
階段を下りていくと、そこはバーのような空間になっている。カウンターがあり、その奥に酒の瓶の並んだ棚。ジュークボックスやビリヤード台がある。
ソファに座ってバドワイザーを飲んでいる白人の大男がいる。この男がジョニーだ。いつも薄汚れた白衣を着て、金髪で青い目をしている。年齢は30歳ぐらい。
「ジョニー」と僕は声をかける。
「ん? ナクか。調子はどうだ?」
「ちょっと困ったことが起こった」
「お金なら貸さないぞ。それとも女がらみか?」
「そのどっちでもない……いや、女はちょっと絡んでいるかな」
僕は箱の中の生首を見せて、宅配便でこれが送られてきたことを離した。
「なある。それは事件の匂いがするな」とジョニーは顎を撫でながら言った。
「どうすればいいと思う?」
「いい方法がある」
ジョニーはそう言って生首をむずとつかむと、その首の切断面に何やらコードを接続しだした。
「何をするつもり?」
「まあ見てなって」
生首とパソコンをコードでつなぎ、カチャカチャとキーボードをたたく。そしてエンターキーをタンっと強くたたくと、その瞬間、生首少女の目がぱちりと開いた。
「わああ!」
僕は驚きでしりもちをついてしまった。
「ここはどこ?」
生首の少女は目をぱちくりさせてそう言った。
「君は死んで、生首だけになっているんだ」とジョニーが説明する。
「私の体を取り返して。お願い」
「もちろんさ。ここにいるナクくんが必ずや君の体を取り戻してくれる」とジョニーは勝手に言ってウィンクをした。
こうして僕は少女の体を取り戻すことになったのである。