第7話『余裕という仮面』佐久間 陽翔
明るくて余裕あるふり。
でも、心はそんなに強くない。
「ねぇ先生、それホントにテスト出るやつっすか〜? 夢に出ますよ〜!」
教室がどっと笑う。
佐久間陽翔は、自然に笑いながら声を張る。
こういうの、慣れてる。
ちょっと騒いで、空気を和ませて、「あーまた佐久間が何か言ってる」って笑われる。
自分の位置は、そういうところ。
盛り上げ役。明るい男子。ちょっとバカだけど、憎めないやつ。
それでいい。それが楽だ。
でも――ほんとはちょっとだけ、しんどい。
「あいつまたLINEの返信こなくてさ〜」
「陽翔ってマジで彼女できない代表じゃね?(笑)」
「いやいや、付き合ってないだけで何人に告白されたか……」
笑いながら誤魔化す。
みんなも笑う。でも、たぶん誰も信じていない。
それでいい。信じてほしくないから、最初から嘘にしてる。
でも、その笑い声の向こうで、誰かが静かに本を読んでるのが見えた。
羽山だった。
あいつは、いつも、そうやって“場”の外にいる。
うらやましいと思った。だけどそれは、思ってはいけないことのような気がした。
放課後。廊下に貼り出されたテストの順位表。
佐久間の名前は、下から数えたほうが早かった。
「おい陽翔〜、また勉強してねぇんじゃねーの?(笑)」
「さすがエンタメ枠!」
「いや〜期待を裏切らねぇ!」
笑いながら肩を叩かれる。
自分でも笑った。口角を上げて、「やべーな俺」と返した。
だけど、その瞬間、視界がほんの少しにじんだ。
努力してないわけじゃない。
ノートも書いてるし、予習もしてる。
でも、追いつけない。理解が遅い。
笑ってる顔の裏で、いつも「本当はバカだ」と思ってる。
“明るくてバカ”は許されるけど、
“暗くてできない”は、きっと誰にも見てもらえない。
だから俺は、笑うしかないんだ。
帰り支度をしていたとき、ふと視線を感じた。
顔を上げると、羽山がこちらを見ていた。
何も言わなかった。
ただ、目が合って、すぐに逸らされた。
それだけのことなのに、なぜか胸が軽くなった。
(……お前、気づいてた?)
言葉にはしなかった。できなかった。
でも、あの無言のまなざしが――なにかを許してくれた気がした。
笑って、俯いて、それでも誰にも気づかれなかった。
……それで、いいってことにしておいた。
余裕の仮面が、少し剥がれました。
次は、どんな“嘘”が見えてくるでしょうか。