表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/35

第6話『沈黙のランチ』匿名女子

仲良しグループの中にある、静かな孤独。

彼女が笑ってる理由を、誰も知らない。

「ねー、ウチのクラスさ、思ったより静かくない?」

「わかるー、なんか陰キャ多くない?笑」

「てかA組の男子のが全体的に顔良くない? うちら終わったわー」


 昼休み、教室のすみっこ。窓際でもない、壁際でもない。

 “その場所”に、私たちはいつも4人で座っている。


 食べるものはだいたいコンビニ。

 話す内容も、もうパターンが決まっている。


 話についていけないわけじゃない。

 笑いのタイミングだって、ちゃんと合わせられる。


 でも――なんか、疲れる。


 私は、名前で呼ばれない。

 「ねえ」とか、「そっち取って」とか、「それウケるね」くらい。

 グループLINEでも、スタンプを押すだけで会話は回っていく。


 いい子たちだと思う。意地悪じゃないし、悪口も陰口もない。

 でも、私がここにいなくても、多分、何も変わらない。


 ひとりでいるのは怖い。

 でも、“ここにいるのに孤独”なのも、ちょっとつらい。


 「あ、Bちゃんまた休み?」「最近ちょっと病み気味らしいよ?」

 「えーまじ? LINE既読無視だったしな~」

 「グループ抜けたら本気でやばいじゃん(笑)」


 その言葉に、誰もが笑った。私も笑った。

 でも、内心では(私も抜けたい)って思ってた。

 なのに――何も言えなかった。


 その笑いに逆らうのが、怖かったから。


 午後の授業が終わって、みんなが帰る支度を始める頃。

 私は、トイレに行くふりをして一度廊下に出て――

 少し時間を置いてから、教室に戻った。


 そこに、誰もいないことを知っていて。


 静かな教室。机の間に残った鞄と、忘れられたペットボトル。

 誰の声もない空間に、私はようやく息を吐いた。


 誰にも見られていない場所で、ようやく自分の顔に戻れる。


 窓際の席に、誰かがいた。

 最初、それが誰か気づかなかった。

 でも、姿勢と雰囲気でわかった。


 羽山 真尋。


 このクラスで、特に話したこともない男子。

 でも不思議と、“誰よりも見ている”ような目をしていたのを、私は知っていた。


 彼は、こちらを見なかった。

 紫陽花の方を見ていた。

 それが、なんだか少し救いだった。


 声をかける理由もない。

 でも、あの静かな背中を見ていたら――少しだけ、泣きそうになった。


 私のことなんて、きっと彼は知らない。

 でも、もし話しかけられたら、泣いてしまいそうで。

 だから、そっと教室を出た。


 (だれかと話したい)

 (でも、何を言えばいいのかわからない)


 それが、今の私の“嘘”だった。


 笑ってる間ずっと、誰かに気づいてほしいと思ってた。

 でも、それも言えなかった。

笑ってる人ほど、苦しいこともある。

彼女の笑顔が、本物でありますように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ