第6話『沈黙のランチ』匿名女子
仲良しグループの中にある、静かな孤独。
彼女が笑ってる理由を、誰も知らない。
「ねー、ウチのクラスさ、思ったより静かくない?」
「わかるー、なんか陰キャ多くない?笑」
「てかA組の男子のが全体的に顔良くない? うちら終わったわー」
昼休み、教室のすみっこ。窓際でもない、壁際でもない。
“その場所”に、私たちはいつも4人で座っている。
食べるものはだいたいコンビニ。
話す内容も、もうパターンが決まっている。
話についていけないわけじゃない。
笑いのタイミングだって、ちゃんと合わせられる。
でも――なんか、疲れる。
私は、名前で呼ばれない。
「ねえ」とか、「そっち取って」とか、「それウケるね」くらい。
グループLINEでも、スタンプを押すだけで会話は回っていく。
いい子たちだと思う。意地悪じゃないし、悪口も陰口もない。
でも、私がここにいなくても、多分、何も変わらない。
ひとりでいるのは怖い。
でも、“ここにいるのに孤独”なのも、ちょっとつらい。
「あ、Bちゃんまた休み?」「最近ちょっと病み気味らしいよ?」
「えーまじ? LINE既読無視だったしな~」
「グループ抜けたら本気でやばいじゃん(笑)」
その言葉に、誰もが笑った。私も笑った。
でも、内心では(私も抜けたい)って思ってた。
なのに――何も言えなかった。
その笑いに逆らうのが、怖かったから。
午後の授業が終わって、みんなが帰る支度を始める頃。
私は、トイレに行くふりをして一度廊下に出て――
少し時間を置いてから、教室に戻った。
そこに、誰もいないことを知っていて。
静かな教室。机の間に残った鞄と、忘れられたペットボトル。
誰の声もない空間に、私はようやく息を吐いた。
誰にも見られていない場所で、ようやく自分の顔に戻れる。
窓際の席に、誰かがいた。
最初、それが誰か気づかなかった。
でも、姿勢と雰囲気でわかった。
羽山 真尋。
このクラスで、特に話したこともない男子。
でも不思議と、“誰よりも見ている”ような目をしていたのを、私は知っていた。
彼は、こちらを見なかった。
紫陽花の方を見ていた。
それが、なんだか少し救いだった。
声をかける理由もない。
でも、あの静かな背中を見ていたら――少しだけ、泣きそうになった。
私のことなんて、きっと彼は知らない。
でも、もし話しかけられたら、泣いてしまいそうで。
だから、そっと教室を出た。
(だれかと話したい)
(でも、何を言えばいいのかわからない)
それが、今の私の“嘘”だった。
笑ってる間ずっと、誰かに気づいてほしいと思ってた。
でも、それも言えなかった。
笑ってる人ほど、苦しいこともある。
彼女の笑顔が、本物でありますように。