第24話『好きの輪郭』三崎 いろは
想いに気づいた日。
でもまだ、“好き”とは言えなくて。
いつも通り。
でも、どこかぎこちない。
「……最近、クラスの空気、ちょっと変わったよね」
ぽつりといろはが言うと、羽山は一瞬だけ手を止めた。
そのあと、小さく「そうかもな」と返してきた。
その“たったそれだけ”が、なぜか寂しかった。
教室で、岸あゆみと視線が合う。
何も言われない。でも、明らかに“何かを知っている”目だった。
(あゆみは気づいてる。私が、羽山くんのこと……)
言葉にすれば、全部壊れる気がして、言えなかった。
誰にでも笑っていればいい。
空気を読んで、場を明るくすればいい。
それが、三崎いろはの“居場所”の作り方だった。
でも、羽山の前では、なぜかうまく笑えなくなるときがある。
“本当の自分”を見透かされそうで、
“嘘のままでいられない”気がして。
羽山が何も言わなかったこと。
教室で目が合わなかったこと。
あゆみの“なにも言わない視線”。
すべてが、静かに、重く、のしかかってくる。
(私が、気づかないふりをやめたら、この関係は……壊れちゃうのかな)
この気持ちは、ちゃんと“好き”なんだと思う。
でも、それを言ったら、きっと今のままじゃいられなくなる。
笑顔で隠してきた感情。
優等生のような振る舞いで、誰にも見せなかった揺れ。
全部が、彼の前だけでは隠せなくなっていた。
その夜、便箋を取り出して「羽山くんへ」とだけ書いた。
“好きです”
たった一行を書いて、くしゃくしゃに丸めた。
出さない。
出せない。
でも、たしかに書いた。
それが――今の自分の“答え”だった。
言葉にしないまま、確かにそこにある感情を、私は“好き”と呼んでしまいたかった。
言葉にできない気持ち。
それでも、伝わると信じたくなる。




