9談話室
「それと、ミキサーが無料貸し出しに置いてあったのでハーブを添えたブルーオーブとココナツミルクのスムージーも作ってみました」
このスムージーは青紫色の宇宙系飲み物だ。ココナツミルクはココナツオイルを買ったとき、気前のいい兄ちゃんがおまけしてくれたのだ。
「名付けて”星屑のスムージ”です」
「!」
そう俺が置くとChapさんが前にのめりんで、この飲み物を見た。
「おっ綺麗だな。こういうものがChapが言うところの映えっていうやつか?」
映え?商品・サービスのPRなどするインフルエンサーが使っている言葉だよな。
「これ記録していい?」
「えっ。別にいいですけど…」
俺は戸惑いながらOKを出した。
◎録音
「みんなおひさ」
今日は新しく入ったクラメンが料理を披露してくれたこと、その料理がすごく自分好みで視聴者に紹介したいから急遽カメラを回しているよとChapさんが空中に浮かんでいる小型カメラらしきものに喋りかけた。
コソッ
「ChapはNEOクランの広告&編集を担当しているんだ」
なんでも戦闘や日常の動画をアップすることでChapさんはNEOクランの雰囲気を世界に伝えてNEOクランに貢献していると伊吹さんは言う。それとお勧めの防具や服の個人的感想も記載しているらしい。
NEOクランが撮影を許しているのは、新人冒険者が魔物の倒し方やクランのシステムを参考してもらうためだとか。
「なんならモネも映ってもいいぞ」
「!?」
政府が運営している放送番組で異世界から召喚された物体について説明があったそうだ。だから俺が冒険者に保護されたことは公開されていると言っていい。
(プライバシーの侵害じゃないのかそれ)
それは伊吹さんも思ったらしく、勝手だよなと少し怒っていた。
「それとこれは俺の意見なんだが…」
Chapさんを利用して大々的に俺という存在を見せつけて知ってもらったほうが、NEOクランのアポを取らずに会おうとするバカがいなくて済むことや情報を操作が出来るとメリットを述べてくれた。
「なるほど」
伊吹さんの提案に俺は少し考え込む。確かに自分の姿を画面越しに公にすることで俺への無用な接触を避けることができるかもしれない。
しかし、一方で自分のプライバシーが完全に失われるのではという疑念もあった。
「そういう考えがあることは分かるんですけど俺的には少し不安が残ると言うか…」
その心配に共感するようデメリットもサブマスターは隠さず俺に教える。
「確かにな。その道はコメントで叩かれる可能性も残っている。だから最終的には、モネ自身の判断に任せるよ」
いつの間にか撮影が終わっていたChapさんも「あんたがやりたいと思ったらやればいい。その時は僕もサポートするから大事にはならないでしょ」と言ってくれた。
その言葉にゆっくりとだが頷く。
「少し時間をください。自分なりに考えてみます」
「そうだな」「そう」
伊吹さんもChapさんも俺の意見に理解を示してくれた。
「…ありがとうございます」
こうして丁度、話にも区切りがついたので、スムージの味の感想も聞いてみることにしてみた。
「あのスムージー、味もなかなか美味しかったぞ!」
「見た目も味も新鮮で楽しめたかも。あんたの料理の腕前、なかなかのものだよ」
えへへ。
なんだか胸のあたりがぽかぽかするな。
「次も期待しといてくださいね」
「おっ期待しとくな」
その後も俺は、どんな料理が地球にあったか手振りで伝えるのであった。
* * * * *
「羨ましぃいい!」
「羨ましい限りだぞ」
伊吹さんが談話室でゆっくりしていたクランメンバーに料理の話したため、大きな双子が騒ぐ事態を起こした。
因みにChapさんも写真をちらりと見せつけるようにしていたので同罪である。
「「おい後輩!今すぐ俺様達にグリーンカレーなるものをつくるのだ」」と無茶を仰るもので困ったものだ。
「カレンさん、メレンさん。ここにはキッチンがないから作れませんよ」
全体的に白い印象を与えるリルさんが俺に助け船を出してくれた。
「それに女性が地べたで駄々をこねるんじゃありません」と叱られていていた。
そうカレン先輩とメレン先輩は言葉遣いで誤解されるが女性である。水色のボブ髪で猫耳がチャームな気まぐれな性格で時々皆を困らせているそうだ。
今も双子が岩鉄にキッチンを増築できないか聞いてくると、部屋から走り去っていた。
「岩鉄って誰ですか?」
「昔からこの建物を修繕や改築してくれる隠居爺さんだよ~」
「あっスイさん」
「モネ君、昨日ぶり~よく眠れた?」
枕も布団もふかふかしてよく眠れましたとスイさんに俺はそう伝えた。それからスイさんはうんうんと嬉しそうに今日の俺の活動を聞いてくれたのだ。