6性能
「せっかく弓に選ばれたんだ。試し撃ちでもしていきな!」と裏庭の射場に案内された。
そこは一面緑色の芝生が敷かれ、朱塗りの的が遠くに見えるのが特徴的な場所だ。ここは風が心地よくてまるで本物の自然の中にいるように感じるな。
ブーーー
「…。」
【 背筋を伸ばして肩の力を抜いてリラックスしてください。顎を少し引くことで視線が目標物に自然に向きやすくなります】
現在の構えと理想の構え姿と比べられると確かに肩に力を入れ過ぎなの分かる。
【風向き:やや西側】
【風速のメーター:20㎞/h,強風】
観測される環境を俺は聞きながら感覚を研ぎ澄ます。俺には的まで不規則に伸びる緑色の線が見えた。
(なぜだろう。このタイミングで引けば真ん中に当たる気がする)
導かれるように弓を引く。
ダンッ
「おーこれはすげぇ。一発目で的に当てるなんて天性の才能か?」
「ふん、あたしの目に狂いはなかったってわけさねぇ。けど、当たったからって調子には乗るんじゃないよ」
少し離れた場所から見ていたギルばぁさんは、モネにずいっと指を突きつけてくる。その手は皺くちゃで節くれだっていたけど、力強さと厳しさを秘めていた。
「才能があるのとそれを扱えるのとは別の話だよ。その弓は道具じゃない。一緒に生きる相棒なんだ」
「…相棒」
俺は反射的にその言葉を繰り返す。
それを聞いたばぁさんは、ほんの少し口元を緩める。
「いい反応だ。よし、しばらくあたしがこいつに弓のいろはを叩き込むよ。文句あるかい、スイ?」
「ないよ。むしろ助かる〜」とスイはいつもの調子で肩をすくめる。だがその目は少しだけ真剣だった。
ギルばぁさんが俺の肩に手を置くが、驚くほどの握力にモネの体がビクリと跳ねる。
「明日から朝練だね。日の出前に来な。サボったら弓より先にあたしの杖が飛ぶよ」
「…っはい!」
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「さてと。少し俺達に慣れてもらったことでここの長であるクランマスターに会いに行くか!」
伊吹さんのその一言で場の空気が少し引き締まった。
「クランマスター…」
思わず声に出してしまう。
今までここで会った人たちはみんな優しくて、どこか安心感があったけど「長」って言葉にはどうしても緊張が走る。
「そんなに身構えなくていいよ。うちのボスは見た目怖くて変にオーラがあるけど中身はそこまで怖くないから大丈夫〜」
スイさんがそう言ってくれる。だけど見た目怖いって時点で不安は拭えないよ。
「まっ覚悟はしときなよ。あの人は数いる冒険者の中で最強に近い男だから」
Chapさんの妙にリアルな助言が逆にプレッシャーを増やしてくる。
俺は弓をアイテムボックス?にしまってクランマスターがいる執務室に向かって歩き出した。
しばらく進んだ先に他とは違う重厚な扉が現れる。黒い木に金属の装飾が施されたその扉はまるで試されているような気配を放っていた。
「ふぅ…」
小さく息を吐くと、伊吹さんが俺の背中をぽんと叩いた。
「大丈夫。気楽にな」
その一言に不思議と力を貰う。
ギィィ――
扉が開かれると、奥には広々とした空間が広がっていた。壁には世界地図やクランの紋章らしきもの、さまざまな武器が飾られている。
そして、その中央の執務机に座っていたのがーー
「よく来たな“異邦の子”。待っていた」
低くどこか包み込むような声だった。
黒のローブに身を包み、鋭い赤い瞳をした美形がこちらを見つめていた。目が合った瞬間、背筋が自然と伸びるけど…どこかで会ったような?
俺はクランマスターの姿を見て見覚えがあるような気がした。しかし、すぐには思い出せず、ただただその鋭い赤い瞳に引き込まれるように立ち尽くす。
シーン
俺が緊張していることが彼にも伝わっているのだろう。どう接すればいいか悩ましそうにしている。
「…調子はどうだ?」
「日本にいたころより体調はいいです」
「それは何より。新しい環境に順応しつつあるようで嬉しい限りだ」
クランマスターは立ち上がりモネに歩み寄る。彼は優しく肩に手を置き、微笑んだ。
「モネ。君がNEOクランに加わってくれることを心から歓迎する」その言葉と共に【個体名:モネがNEOクランに所属しました】と空中に文字が現れた。
「…僕、クラマスが笑ってるところ初めて見たんだけど」
Chapさんの狼狽した声がやけにこの部屋に響いたけど俺はそれどころではなかった。
この人、すごく綺麗なんだけど男の人なんだーと言う内容が俺の頭の中を埋め尽くしていたのだ。