5適性
「うわぁあ!」
すごい。石畳の通路に鉄でできてる甲冑があるなんて!ファンタジーだ。そうやってあっちこっちを見ていると…
「わはは」
何かが面白かったのだろう伊吹さんに笑われてしまった。
は、恥ずかしい年甲斐もなくはしゃぎ過ぎたか?
「…すみません」
咄嗟にそう言葉が出てしまった。
「なんで謝んの?」
Chapさんが不思議そうに質問してきたので、騒ぎ過ぎたから迷惑をかけたかもと返した。
「…初めて見たんだったらはしゃぐのも当然。だ、だから一々心配しなくてもいいだろ!」
プイっと顔を背けたけど、耳が赤い。言葉は少し強いが俺を気にかけてくれたことが分かる。いい人だ(※主人公が所属していた会社がブラックだったため、モネのいい人認定は基準が低いのである)
「そうだよ。子供が心配する必要はないよ~」
誰かが俺を抱き上げた。声のトーン的にスイさんだけど…わ、わぁ、高い!
「わっ!? ちょ、スイさん!?」
「はは軽い軽い〜これくらい全然だよ〜」
俺を抱え上げたままスイさんはくるっと一回転した。スイさんくらいの高さで見える視点はとても心臓に悪い。
…でも、少しだけアトラクションみたいで面白いかも。
俺とスイさんは一緒になってキャッキャと笑い合う。
「楽しいでしょ?」
やっと俺が笑ったことでスイさんは満足げになる。伊吹さんも肩を揺らしながら楽しそうにしてるし、Chapさんはちらちらとこっちを見ている。
俺の緊張は少しずつ、ほんの少しずつだけど和らいでいったのだ。
* * * * *
しばらくクラン内を歩くと購買みたいな場所に案内された。看板には「初心者キャンペン中」など初回占い無料と書かれていて店の外には色とりどりの剣や杖、防具が並んでいる。
「すごっ」
「おぉ反応いいな。ここはクラン御用達の雑貨屋でな。新人の装備を整える時はまずここに来るのが定番なんだ」
伊吹さんが腕を組みながらどこか誇らしげに言った。
「まだ戦って生計を得るか決めてないんだよね?」
スイさんの言葉に俺はこくんと頷いた。
「うん。でも…どんな武器があるかとか見てみたい」
「お。それなら見るだけでも十分さ。もしかしたら“適性”が反応するかもしれないしな」
「適性?」
「そうそう。触った時に反応があると、『その武器に向いてる』ってことがわかる仕組みになってるんだよ~」スイさんが笑顔で説明してくれる。
俺は店内に足を踏み入れた。木の床はぎしぎしと音を立て、天井からはランプのような明かりがぶら下がっていた。並べられた装備はどれも精巧で、見ているだけでワクワクしてくる。
(……あれ?)
ふと、奥に置かれた一本の弓が目に留まった。まるで自分を呼んでいるような不思議な感覚。
「それが気になるんですか?」
ジルさんが声をかけてきた。いつの間にか店に入ってきていたようだ。
「う、うん。なんか…引っぱられる感じがして」
「へえ。試しに触ってみるか?」
俺は恐る恐るその弓に手を伸ばした――
ぱぁっ
弓の全体が銀色の淡い光が灯った。
「…っ!」
店の空気が一瞬で変わった。皆が息を呑んでこちらを見ている。
「これは!」
「適性発動だな。しかもかなり曲者だ」
「モネ君の体に対して弓のサイズが大きいかと思ったけど、ものにしたら大きさが変わったね~」
確かに最初に見た時より小さくなっている。
それに俺の手の中にある弓からほんのりと温かさが伝わってきた。それが“自分の力になってくれる”という確信のようなものを教えていたのだ。
「…なんか、すごい」
手の中で淡く光る弓に見入っていると、突然、奥のカーテンの向こうからガラッと音がしてしゃがれた声が飛んできた。
「誰だい朝っぱらからうちの店で光らせてるのは――ってこりゃ噂の新人かい?」
カツカツと足音を響かせて現れたのは、年季の入ったエプロンを身につけた老婆だった。背中は少し丸まり、灰色の髪をきゅっとまとめている。だがその目は鋭く、まるでこの店で盗みをしたらとんでもない目に合いそうな眼光だ。
「ギルばぁさん。ちょうどいいところに来たな」
伊吹がどこか気まずそうに頭を掻く。
「モネ君がその弓に適性反応を示したんだよ〜」
スイさんが楽しげに補足する。
「へえぇ。へぇぇええ!…こりゃすごいね。弓の精霊も久しぶりの目覚めに喜んでるわけだ」ギルばぁさんは俺の手元の弓をじろじろと見ながら近づいてきた。
「で?お前さん名前は?」
「も、モネです」
「モネかい。いい名前だね。その弓はね、月霞って言うんだい」
ギルばぁさんはひどく懐かしそうに弓を見てこの武器の使い方など説明してくれた。
「昔、ある狩人が使っていた特注品でね。ん?妙に馴染んでいるじゃないか」
こりゃ当たりだよと言われた。
「当たり?」
「そうさ。店に長く置いてあったけどあんたみたいに光らせた子は一人もいなかったよ。精霊が選んだってことさ」
俺は思わず手元の弓を見つめ直す。
(この弓が……俺を選んだ?)
「へへっ、そう構えなさんな」
ギルばぁさんはニカっと笑うと、棚からボロボロの小さな革のポーチを取り出した。
「これは専用のメンテ道具だよ。新人キャンペーンってことで特別サービス!」
「えっ、いいんですか?」
「当然さ。あんたは、これからうちのご贔屓さんになる予感がするからねぇ」
どこか茶目っ気のある笑みでギルばぁさんは笑った。