4Sideスイ
「お話はここまで~」
僕は黒髪黒目の子供にそう伝え、席を外すことにする。
彼が情報を整理する時間を与えるのは持ちろんのこと…そろそろクラメンの誰かしらがこの部屋に押し掛けるかもしれないから一度、報告しに行かなくちゃいけない。
「じゃあ少しの間席を外すけど、いい子で待ってるように~」モネ君の頭を撫でながら僕は部屋を後にした。
コツコツ
「はぁ~憂鬱」
拠点内を移動しながら、僕はモネ君のことをどう報告するか考える。
拠点は広々とした石造りの建物。天井が高く、壁には魔法陣の装飾が施されている。そこではすでに数人のクランメンバーが集まっていた。
「スイ。例の子、どうだった?」
ソファに座っていた男がカップを片手に目を向ける。赤毛で軽装の鎧をまとった彼はクランのサブマスターである伊吹だ。
「精神的には安定してるかも~」
でも、自分の死を知っても取り乱さなかった異常さが目についた。もう少し不安がったりするもんじゃないの普通。
その疑問を不健康を服に来ているジルが「幼いから理解出来てないだけでは?」と欠伸をしながら答えた。
「うーーん。そうかな?」
あの年の割に自分の現状を頑張って飲み込もうとていたように見えたけど。
「で、あの子は今後どうするんだ? うちのクランに入れるって話だったけど」
「マザー機の指示では、モネ君の保護とサポートが最優先事項になってるね~」
「む…」
豪はじっとスイを見つめる。
「本人の意志は?」
「まだだよ~」
「そりゃそうだろ。目覚めたばかりなんだからこれから伝えればいいだろ。それでいいですよねボス?」
伊吹がクラマスに最終確認するよう問いかけた。
「あぁ」
「ん~あまりクラン内で特別扱いはしないけど、焦らずゆっくり馴染めるようにサポートしてあげようね!って感じ?」
「了解。とりあえず、クラン全員に伝えておくわー」
伊吹が立ち上がる。
「だが、あの子供は戦えるのか?」
豪の問いにスイは首を傾げる。このクランが戦闘系を生業とするものが多いからその疑問が出たのだろう。
「まだ分からないね。でも、戦うかどうかを決めるのはモネ君自身だから無理に何かを押し付けるのはナシだよ~」
「それもそうだな」
豪が納得したように頷く。
「じゃあ、しばらくはモネの様子を見つつ、クランの一員として支えていくってことで」
伊吹の言葉に全員が頷いた。
「じゃあ報告終わり~」と僕は堅苦しい雰囲気を飛ばした。
こうしてモネの新しい生活は、ゆっくりと動き始まるのだ——
* * * * *
スイさんが部屋を出ていって、俺はしばらくベッドの上でぼーっとしていた。
「…はぁ」
異世界転移、死んだ俺の肉体、仮想空間。
そして冒険者としてここで暮らすことになる話。
「俺、本当に死んでるのか?」
自分の手を握ったり開いたりしてみる。温度も感じるし感覚もちゃんとある。だけど、この体が本当に「俺」なのか分からない。
コンコン
ノックの音で思考が途切れる。
「おーい入るぞー」
扉が勢いよく開かれて赤毛の男、たぶんスイさんが連れてくると言っていた伊吹さん?が姿を現した。
「やっとご対面だな。俺はサブマスターの伊吹、よろしくな!」
で、でかいな。
「…よろしくお願いします」
「かたっ!」
伊吹は俺の肩をバンバン叩く。見た目通り力が強くてぐらりと体が揺れる。
そんな中、「ちょっ!そんな叩くとこいつにダメージ入るだろ!」ピンク髪の派手な容姿をした子が伊吹さんの手を掴んで俺を助けてくれた。
「悪い悪い」
軽く謝る伊吹の後ろからこの部屋に、もう二人ほど入ってきた。
ひとりは黒いローブを羽織った細身な男。どこか眠たそうな目をしていて手には分厚い紙束をたくさん持っている。
「ジルです。魔法系担当」
「よ、よろしくお願いします」
「はい」
そっけない。
もう一人は、無言で俺を見下ろしてくる屈強な男。
短く刈り込まれた黒髪に鋭い目つき。体格が違いすぎて威圧感がすごい。
「…豪だ」
「ご、ごうさん?」
「豪でいい」
それだけ言うと、彼は腕を組んで黙った。
(うわぁ。怖そうな人だな…)
どうやらこの4人もこの組織の人らしい。
「モネはこれからどうしたい?」
「え?」
「お前のことはうちで保護するって決まってるけど、俺としてはお前がどうしたいのかは聞いておきたいんだよ」
伊吹さんは「目覚めて間もない子どもに聞く内容ではないけど」と頭をかきながら言う。
子ども?俺の顔が童顔だから勘違いしてるのかな。確かにこの中では身長も…
そう俺が考え込もうとしたら
「ここは冒険者が集まるクランだよ~」政府から俺の生活費が保証されるとしても何か役職にはついた方がいいとスイさんに助言された。
「魔物と戦うのか。それとも生産でここを支えるのか」
「…!」
その言葉に胸がざわつく。
(戦う?)
俺はこれまで朝起きて会社に行き、ひたすらパソコンに向かって業務をこなしていた。魔法も剣も、ゲームの中の話だと思っていたのに。
「すぐに決める必要はない。」
豪が口を開いた。
「だがここで生きる以上、自分の役割を持つことは大切だ」このクランに身を置く限りは何かしらで貢献してもらうことになると言われた。
「まぁ~戦いたくなけりゃ後方支援でもいいぞ」
そう伊吹は軽快に笑ったのだ。