3事情聴取
「うぅ」
朝日が差し込む部屋で俺はゆっくりと目を覚ました。ぼんやりとした意識の中、天井を見つめる。何か大事なことを忘れているような感覚に包まれた。
「…ここは」どこだ?と疑問より先に
会社、遅刻する!という焦りが頭をよぎった。
「会社ーー!」
反射的に布団を蹴り上げて勢いよく起き上がったが、俺は瞬時にこの部屋の違和感に気づいた。
天井のデザインが違うのだ。布団が驚くほどふかふかで窓の外から聞こえるのは車の騒音ではなく、小鳥のさえずりと風に揺れる木々のざわめき。
「え?」まさか———
【異世界に召喚された】そんな突拍子な出来事が現実で起こる。そんなことがあり得るのか?理解が追いつかない。しかし、これだけは分かる。
「…会社へもう行かなくていいんだ」と俺は安堵した。そう考えるだけで少し肩の力が抜ける。
* * * * *
この部屋に扉をノックする音が響いた。
「起きたー?」
ドアの向こうから気が抜けそうな間延びした声が聞こえる。
この部屋の持ち主かな?
そう思い返事をすると扉が開いて大柄な男がこの部屋に入ってきた。
えっ
この人身長がすごく高いんだけど。それに頭に角?があって羊の亜人みたい。
「体調はどう~」
見た感じ白衣を着て聴診器をつけているし、お医者さん…?
「た、たくさん寝たから体調は平気」
「うんうん。確かに精神状態は良好になっているね」
虚空を見てそう彼は言った。
「…あなたは」
「僕~?僕はスイ。精神科医」
精神科医?
「そう。ルギドでは状態異常回復のプロフェッショナルって呼ばれてるんだよ~。カッコいいでしょ?」
精神科医は恐慌状態を直したり、挑発され怒り狂う仲間の精神を鎮める魔法が使えそうだ。流石、異世界ファンタジーだ。
「僕たちはマザー機にモネ君の保護を命じられた。だからモネ君はこれからここで一緒に暮らすことになる」
俺の保護者?自己紹介から情報量が多すぎて捌ききれないんだが。そんな俺の様子を見たスイさんは一つずつ確認していこうね~と言ってくれた。
「子供にこんなことを聞くのは僕の良心が傷むんだけど、クラマスにモネ君を合わせる前に事情聴取は終わらせとかないとね」
俺はスイさんからここが異世界であること。そして自分の状態をどこまで理解しているか聞かれた。
「俺はマザー機から俺の肉体が死んだことを聞きました」
それを聞いたスイさんは一瞬顔をしかめた気がするけど、直ぐに大らかな雰囲気に戻った。
「続けて」
促されるように俺が召喚された経緯、サージ博士が俺の死体を召喚したこと、保管機に魂を移すことで俺の消滅が免れたことを出来るだけ細かく説明した。
「…君は」
先程からスイさんは虚空で何度も何かを確認しながら俺の話を聞いていた。それは博士の論文に記載されたスキルボードではないかと思われる。他人のスキルボードは鑑定を持つ人は覗けるので健康状態でも見ているのだろう。
シーン
なんか居た堪れない空気に変わってしまった。
「…今のところ状態異常はないみたいだけど今後、気落ちしたりする可能性がありだね~」そう、スイさんに診察された。
「うーーん。モネ君にあまり無理はさせたくないんだけど~落ち着いているからいいかな?」
現状の説明いるかい?と聞かれたのでお願いする。
「僕が知っていることは政府が君の死体と魂を回収したことくらいだよ」
スイさんが説明する話は俺が把握している内容と被る。でも、それは施設で取り入れた知識が事実である証拠。
「そしてモネ君の意識は~仮想空間にある」
「仮想空間?」
「…仮想空間の説明難しいな」
スイさんは目を閉じて出来る限りの言葉を探す。
「仮想空間はコンピュータ上で創り出される立体的な空間のことを指すんだよ。僕たちの意識をゲームの世界に飛ばして制作したアバターを操作する。まるで現実世界のような訓練や生活?を味合えるすごい世界かな~」
21世紀には出来ると期待されていたVRゲームのことか。でも、ルギドはすでに一般的に運用されているんだ。
「仮想空間の概念は分かったかな? 実は、僕たち冒険者もこの技術を活用していているんだ」
「精神科医なのに冒険者?」
「そうだよ」
冒険者は誰でもなれるから結構の人が登録しているよと言われた。
「現実では魔物は機械生命体に駆逐され、魔物は仮想世界にしかデータとして生きてないんだ。だから研究や育成、そしてバトルをするために人類種は日々ここへ来ているんだよ~」寝泊まりしている奴も大勢いると笑っていた。
「まるでSFとファンタジーが混ざったような世界だ…」
ただ生きてくための費用は政府が保証してくれるけど、防具やアイテムを買うにもお金が掛かるから冒険者はクエストを受けて稼いでいるらしい。