2Side冒険者
「機嫌が悪い理由は察します。ですが他の冒険者の方を委縮させる行動は控えてください」
「…。」
こいつが無表情なのはいつも通りだが漏れ出るオーラが不機嫌さを物語っているな。まぁ俺も同感だけど…
俺は端末に表示された内容を見る。
_________________
不正改造工場摘発ミッション
〖成功率85%〗
〇施設のハッキング
〇施設の構造を政府に流す
〇235体の暴走機体の破壊
〇サージ博士の身柄確保
:
:
✕召喚阻止
__________________
突然、政府から依頼が舞い込んできたのが三日前。
俺たちのクランは今まで2回連続、政府の依頼を私用で断っていたから3回目は参加しないとクランを解散させるぞと圧力をかけられ、仕方なく参加した。
だから
やる気なんてものはなく、早くホームへ帰るために改造機体を派手に壊しまくっていたらマザー機に注意を貰うこととなるし散々な日になったわけ。
そう考えるとこの成果は上出来だろう。
「う~んでも…」
一つ不可解なことがある。
不正改造摘発ミッションの成功率に記載させられている項目に召喚阻止がある。これは結果が表示されるまでハッキング班も知覚できなかったものだ。
ザワザワ
「召喚なんてあったのか」
「くそー見逃してたか」
他の冒険者も召喚された物体はどうなったのか?などを政府に問い合わせているが…すべての回答が”政府が回収しました”の一言だけでそれ以上、深堀りできなかった。
「伊吹帰るぞ」
まぁ政府が召喚物を処理するなら俺には関係ないものか。
そう思っていた時期もありました
「ちょっ何それ?」
クラメンと今回の報酬を仮想空間で確かめていたら、クランマスターの端末から霧がかったガラス張りのカプセルが出てきた。
「…分からん」
ノルドが言うには施設制圧ランキング一位を取った報酬らしい。報酬ボックスに触れたら自動的に出てきたので避けようがなかったと淡々としていた。
確かにイベント報酬でドラゴンの卵を貰ったクランがあるけど、このカプセルの形的に人が入っていそうな予感。
ゴクリ…
「放出まで10分だそうだ」
あと、このカプセルは破壊不能オブジェクトであり、動かすこともしまうことも仕舞うことも出来ないとされている。
それを聞いたピンク髪のツインテールの可愛い容姿をしたチビが怒りをあらわにした。
「部屋のど真ん中にこんなのを置くなんて運営もバカっじゃないの!!」
「Chapうるさいぞ」
豪の言うとおりだ。Chapの声は甲高いから部屋に響く。
「ふん!僕は間違ってない」
そう言いながら忙しなくカプセルをチラチラ見てんだから説得力ねぇーよ。
「この容器の中には何が入っているのかな?縦の長さは3メートルない大きさだ。丁度成人男性の平均身長と合致するね。ここから導き出される答えはブツブツ」
何やらカプセルをペタペタ触れたりして物体の確認をしてやがる奴もいるし、クラメン全員がリビングに居座り続けるなんて珍しいな。報酬確認が終わるといつも部屋に閉じこもったり、訓練場に行くのに。
それだけこのカプセルの中身に何が入っているのか気になる証拠か。
「…。」
俺達が思い思いに時間を適当につぶしていたらノルドが声をかけてきた。
「…そろそろ10分経つぞ」
その言葉が合図だったのだろう。
カプセルがプシューーーと煙を発しながら消えたと思ったらChapより小さい子供が全裸で床に置かれていたのだ。
床に置かれた子供はとても苦しそうに息をしており早く助けなければいけないのだが、誰も動くことが出来なかった。
【おめでとうございます!】【NEOクランメンバーは勇者の保護者に認定されました】という変な称号が俺達に与えられたからである。
『はぁ?』
===========
異世界から召喚された勇者(生後28歳)
サージ博士が異世界から召喚した幼児。幼い肉体は召喚に耐えられず死亡したと断定。肉体は政府が回収及び魂の摘出に成功したためP-3施設の第一発見者であるNEOクランマスター:ノルドに勇者を譲渡することを決定。
追伸:異世界勇者の登場は1万年前から観測はされていません。書物に残る記録は少なくルギドの環境に適合するか分からないとされている。
===========
この世界ではすべての人類が亜人など長寿の血を引く。
平均寿命2000歳、平均身長3メートルであるルギドでは日本の成人男性は子供と言っていい。異世界はすべてにおいてビックであることがこの数字を見て分かるだろう。
生前の肉体のデータを基に作られたモネのアバターは身長165㎝で小柄だ。
「えっまさか…」
Chapもマザー機から送られてきた内容を呼んだんだろう。クラメン全員も驚きながら子供を見つめいたが、ノルドが誰よりも早く正気に戻り子供を抱き上げたのだ。
「とりあえず着替えだな」
クランマスターの冷静な判断に全員が頷く。
確かに全裸のまま放置するわけにはいかない。
「いや待てよ、勇者って…おとぎ話の話しだろ。異世界から召喚されて強大な力を持つとかいう?」
「…どう見ても普通の子供ですけどねぇ」
不健康そうな長身男が肩をすくめるがマザー機の認定を受けた以上、これは確実に“勇者”らしい。
「Chap、勇者のステータスは見られるか?」
「今、確認してる…」
Chapが端末を操作し、勇者——モネのステータスを表示する。
______________
個体名:モネ
年齢:生後28歳
健康状態:やや疲労気味
種族:???(適応中)
スキル:データ処理(未開放)
戦闘適性(不明)
______________
「何これ。ほとんど分からないじゃん」
「…情報が少なすぎる。とにかくこいつをベッドに寝かせてから考えるしかないみたいだな」
ノルドはそう言って子供を抱えたまま部屋を出ていった。残されたクラメンは顔を見合わせながら、今後の対応について頭を悩ませるのだった。