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13常識



「…さん」



 

廊下を歩く彼の足取りは速く、俺は引っ張られるようについていくしかなかった。彼の横顔は険しく、何かを思い詰めているようだった。


 


「Chapさん!」


 

 

俺が大声を出して初めてChapさんは俺が駆け足になっていること気づいたのだろう。足を止めて深く息を吐いた。彼の手はまだ俺の腕を掴んでいたが、その力は明らかに弱まっていたのだ。



 

 

そして彼は静かな廊下で

 

「…ごめん。急にあんたのことを怒鳴ったりして」


別にあんたは何も悪くないのにと視線を落とし、申し訳なさそうに言った。


 




俺はその言葉に驚きつつも、彼の真剣な表情から本心であることを感じ取った。


 

 

 

「いえ、Chapさんが俺のことを思って怒ってくれたくれたのは伝わっていますから」



 

 

俺は微笑みながら答えた。


Chapさんはその言葉を聞いて少し安心したように俺の手を離したのだ。



 

 


「…気晴らしに外の空気でも吸いに行く?」


Chapさんはそう提案し、俺たちは並んで中庭へと向かった。

 


 


中庭に足を踏み入れると柔らかな陽光が降り注ぎ、色とりどりの花々が咲き誇っていた。中央には澄んだ水をたたえた噴水があり、水音が心地よく響いている。


 

 


石畳の小道が整然と敷かれ、所々に木製のベンチが配置されていた。

 


 


俺たちは噴水の近くにあるベンチに腰を下ろしたのだ。





しばらく沈黙が続いた後、Chapさんが口を開く。



 

「僕、今年で264歳になるんだ」


「…264歳ですか」

 



俺より断然、年上じゃん。そう考えると他の人たちはもっと年齢が上そうだ。


 

 

「そろそろ300歳ですね」


Chapさんは苦笑しながら頷いた。


 


「それでもルギドでは、まだ成人して判定だよ。政府から成人したという称号を貰ってないから」




「なるほど…」


 


Chapさんの話から俺は政府が人類種を管理しているという一端を垣間見た気がする。



 

「そんなまだ年齢的に子供な部類に入る俺より、年齢も身長も圧倒的に子供のあんたの方が苦痛耐性が高いなんて…そんなのダメだろ」

 


 

大人は何をしていたんだとChapさんは言うけど…



 

「俺は大人です」


「ちょっと僕の話聞いてた?あんたは子ど」「いいえ」

 



俺は彼の言葉を遮るように途中で被せる。



 

「Chapさんは俺の世界の平均寿命を知りませんよね」




「…。」


 


俺は、俺の世界の平均寿命は100歳も超えてませんでしたと真実だけを述べた。当然、Chapさんは困惑したが、俺が今、嘘をついても意味がないのでその話が真実であるということを納得はできないが理解したっぽい。


 


「俺達の人生は短いんです。ルギドより何倍も」


 


ルギドでは交通事故がない。ルギドでは現実での犯罪が少ない。ルギドでは病気で死ぬ人類種はほぼいない。

 

 


「文明に差があるんですよ。死人を蘇らせる技術なんか俺の世界にはない」


 


(この人に知ってほしい。どれだけ常識に違いがあるか。俺がこの世界の常識を飲み込むのがどんなに大変か)

 


 

「…そう。あんたはあっちの世界では大人だったんだ」


 


その言葉に少し俺は悲しくなった。あの世界はもう過去のことなのだと。




「それで、あんたのこれまでの経験からか分からないけど、僕より考え方や喋り方が成熟していると感じることがあったんだ」



 

Chapさんは微笑みながらそう言った。

 



(そうだ。あの世界での思い出は変わらないじゃないか)




「…Chapありがとう。俺の話を聞いてくれて」




「生意気」



 

それでも呼び方を変えろと言わないのは俺達の中が進展した証なのだろう。

 



その後、俺たちは中庭でしばらくの間、穏やかな時間を過ごすのだ。Chapが花の名前を教えてくれたり、ルギドの風習について話してくれたりした。俺は新しい世界のことを少しずつ理解し始めている自分を感じたのだ。

 



_______________



 

「ふむ。異世界では平均寿命は100歳以下。この話が本当の場合、彼は成人している状態なのか?興味深いな」


 

 

私の部屋は中庭に近い位置に現在する。窓を開けて少し執筆活動から手を休めて休憩をしていたのだが偶然、Chap氏と今話題の彼が話している現場をそこで私は目撃してしまったのだ。


 


これは盗み聞くしかないっ!と言わんばかりに窓に張り付いて話を聞いていたんだが…所々、聞こえない部分があったので残念で致し方ない。


 


「異世界転移もの」


指でペンを回しながら私は考える。


 


「ジャンルとしてはありなのでは?」




ニヤリと笑いアイディアが降って来たんばかりに紙に殴り書く。




…もちろん主役は彼だ。


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