11システムアシスト
「まずは魔力を知覚してもらいましょうか」とジルさんは俺の近くの席に座わり直した。
「モネさんは精霊憑きの武器の適性を持っていたので、魔力を所有していることは検査しなくても分かる事実です。なので、魔力検査は飛ばします」
月霞を光らせた時点で、俺はその武器に宿る精霊との契約を済ませているそうだ。精霊との契約には魔力を使うため、その事実が判明したらしい。
「初めにシステムの力を借りて生活魔法を発動するのが適切ですかね?」
生活魔法は殺傷能力が低く、魔法初心者が覚えやすいので、現在の俺にぴったりな魔法だと説明を受けた。
それにしてもシステムの力?とはなんだろう。
「システムアシスト機能。これを使うと強制的に熟練の達人の動きに近づける便利な力です。ですが…」ジルさんは言葉を続ける。
現実ではそんな機能がありませんので使い損ですと断言した。
「でも~」
スイさんが口をはさむ。
「自分の動きと達人の動きを比べることはできるから、僕はシステムアシストいいと思うけど~」
「それ豪の前で言ったらスイ、殴られるよ」
あははそうかも~とスイさんはChapさんの言葉に軽く笑ったけど、あの巨体に殴られると考えただけで俺はぶるッと震えるのだが。
「豪は自分の動きを阻害されること嫌いだからなシステムアシスト否定派だろ。因みに俺も嫌いだわ」と伊吹さんまでシステムはアシストを否定した。
「…達人の動きに近づけるかもしれないのに何がダメなんですか?」
「再現できるっても…な」
伊吹さんは髪を弄りながら俺の疑問に答える。
「システムアシストは体のぶれを正して俺の体で考えられる限りの最高効率で敵に攻撃することが出来るかもな…でも」
「そんな早いだけの単調な動きなんか躱すことも受け流すことも楽勝だろ」と伊吹さんは馬鹿にしたように笑う。
「何のために頭ついてんだよ。考えるためだろ」
途中で自分の意志で攻撃をやめられなくなる欠点もあんのに誰が使うかと吐き捨てた。
「と、このように伊吹さんは昔、システムアシストを愛用して、痛い目を見たので説得力があります」
詳しい利点と欠点を教えてくれたのがその証拠ですとジルさんは言った。
「ジルうるせーぞ」
* * * * *
「さて、システムアシストについては理解したということでモネさん。スキルボードからシステムアシストをONにしてください」
「分かりました」
俺が思考するとスキルボードが現れてシステムアシストのページが表示された。
「魔法の項目で特定のキーワードを発すると魔法が強制発動すると書かれているところだけONですからね」と俺は念を押されながら作業をする。
ここかな。
そう思いOFFからONに一部を変更した。だが、特に変わったことはないのだが…。
魔力も感じないし、体が熱くなったりもしない。
「変更したんですけど魔力感じませんよ?」
「それはそうだろ」
魔法名を唱えて、魔力を体の内から外へ引き出すプロセスをまだしていないから魔力を感じるもないと言われた。
「そうですね。"魔力10を捧げ、1メートル圏内クリーンを発動"」とジルさんが発すると体にスッとさっぱりした感覚が広がった。
「おぉ!」
なんか丸テーブルも心なしかピカピカしている気がする。
「生活魔法とは言葉の通り、日常生活を便利にするための魔法です。簡易的な光を生み出したり、体を洗浄する『クリーン』といったものが使えます。これらはマザー機が生み出される前の時代からあったとされ、一般大衆でも使える魔法ですので…」
異世界人の俺でも使える可能性が一番高いとか。それでも政府が勇者の記録を独占しているのでマザー機なら検証しなくてもモネさんが魔法を使えることを知っているかもしれませんねとジルさんは付け加えた。
生活魔法の基本的な使い方を説明を受けて少し理解できた気がする。ドキドキと俺はジルさんから魔法を発動する許可を待つ。
「モネさんが待ちきれない様子なので呪文を教えましょうか。『魔力10を捧げ、手元にライトを発動』と唱えてみてください」
俺は深呼吸をして、言われた通りに唱えてみた。
「魔力10を捧げて手元にライトを発動」
すると自身の心臓の近くから急に熱を感じ、小さな光が俺の手にまとわりついた。
(これが魔力か)
驚きと喜びが入り混じった感情が湧き上がった。
「やった…!俺にも魔法が使えた!」
その光景を見たジルさんは「ええ、素晴らしいです。これでモネさんも魔法使いの仲間入りですね」と満足げに頷く。
スイさんも微笑みながら言葉を添えてくれた。
「これから練習を重ねればもっと複雑な魔法も使えるようになるよ~」
一方、伊吹さんは
コソッ
「ジル。お前、魔法の布教が出来て嬉しそうだな」とジルさんに語りかけていた。
「えぇ。モネさんだけか分かりませんが異世界人も魔法が使える可能性が出てきました」これでもっと魔法が発展するとジルは心の中で思うのであったのだ。