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青の遺界

作者: 電子部品

目が覚めた時、僕は全てを失っていた。名前も、過去も、そしてこの世界の意味さえも。


周囲を見渡すと、青い空と海がどこまでも広がっている。


かつて大都市であっただろうこの場所は、今や膝下ほど水に浸かり、ビルの廃墟が無数に立ち並んだ影が水面に揺れている。


まるで巨大な墓標のようだ。


「ここは…どこなんだ…?」


自分の声が妙に響く。

誰もいない、この広大な水の世界で、僕はただ一人だということを改めて実感する。


わずかに覚えているのは、目が覚める前に見た夢のような記憶。大勢の人々がいた都市、笑い声や喧騒。


だが今はそのすべてが消え失せ、静寂だけが残っている。


僕はゆっくりと立ち上がり、足元の水を感じながら歩き出した。


ビルの間を進むと、かつての街並みがわずかに残っているのが見える。看板や店の跡、道路の標識。しかし、それらも全て錆びつき、朽ち果てている。


「一体、何があったんだ…?」


その問いに答える者は誰もいない。僕はただ、進むしかなかった。何かを見つけるために、そして自分がここにいる意味を知るために。


しばらく歩くと、壊れたビルの一角に奇妙な光を見つけた。

近づいてみると、それは古びた端末だった。電源が入っているのが不思議ではあったが、僕はその画面に注意を向けた。


「ログイン…パスワード…」


画面にはそんな文字が表示されていた。試しにいくつかのキーワードを入力してみたが、どれも正解ではなかった。諦めて別の場所を探索しようとしたその時、端末が突然反応した。


「アクセス許可。ようこそ、ユーザー。」


画面が変わり、様々なデータが表示された。地図、メッセージ、そしてビデオログ。その中の一つに目が留まる。


「これだ…!」


僕はビデオログを再生した。画面には、混乱した都市の映像が映し出された。人々が逃げ惑い、建物が崩れ落ちる。まるで終末のような光景だった。


「この日、世界は終わった…」


ビデオの最後には、そう記されていた。だが、それ以上の情報はなかった。僕は次の手がかりを求めて、さらに探索を続けることにした。


ビルの中を進むと、突然、背後から音が聞こえた。振り返ると、そこには犬のような形をした機械が立っていた。まるで動物のような形状だが、明らかに人工物だ。


「なんだ…?」


その機械は答えなかった。ただ、僕に向かってゆっくりと近づいてくる。僕は後ずさりしながら辺りを見回し、逃げ道を探した。


「どうすれば……」


その時、足元の水が一瞬、揺れた。そして次の瞬間、僕は何かに引き込まれるようにして、地下の空間に落ちていった。




暗闇の中、僕はしばらく意識を失っていたらしい。再び目を覚ました時、周囲は薄暗い光に包まれていた。どうやら地下の空間に落ちたらしい。


上を見上げると、かすかに地上の光が見えるが、ここからでは手が届きそうにない。


「ここは…どこなんだ?下水道……?違うか……」


僕は周囲を見渡しながら、慎重に立ち上がった。床は湿っていて、何かが腐ったような臭いが漂っている。壁には古びた配管やケーブルが絡みついており、かつてここが何かの施設だったことを示している。


「出口を探さないと…」


僕はゆっくりと歩き出した。地下の通路は迷路のように複雑で、どこに続いているのか全く分からない。それでも、何とか進むしかなかった。足元の水音が妙に響くのが不気味だった。




しばらく進むと、通路の先に微かな光が見えた。近づいてみると、それは古びた扉だった。扉の上には「管理室」と書かれたプレートがあった。


僕は慎重に扉を開け、中に入った。

部屋の中はほとんどが壊れていたが、中央には古びたデスクと見覚えのある端末が置かれていた。不思議には思いつつ、僕は端末に触れてみることにした。


「アクセス許可。ようこそ、ユーザー。」


また同じメッセージが表示された。僕は再び端末を操作し、データを探し始めた。すると、興味深いファイルが見つかった。


「プロジェクト・ネメシス…?」


そのファイルを開くと、詳細な計画書が表示された。どうやらこれは、かつての人類が行っていた大規模なプロジェクトの記録らしい。


内容を読み進めると、このプロジェクトが機械生命体の開発に関わっていたことが分かった。


「機械生命体…?」


その言葉に、先ほどの奇妙な機械が頭をよぎる。どうやら、あの機械もこのプロジェクトの一部だったのかもしれない。


さらに読み進めると、プロジェクト・ネメシスがこの世界と何らかの関係があることが示唆されていた。


「一体、何が起きたんだ…?」


その問いのためには、この端末だけでは不十分だった。僕は端末の操作をやめ、次の手がかりを探し始めた。その時、背後から再び音が聞こえた。


振り返ると、そこには別の機械生命体が立っていた。今度は鳥のような形をしているが、その目は冷たく光っている。僕は急いで端末を操作し、逃げ道を探した。


「早くここから出ないと…」


その時、端末の画面に新たなメッセージが表示された。


「緊急脱出口を開く。アクセス許可。」


僕はそのメッセージに従い、緊急脱出口を開いた。床が開き、地下のさらに下へと続く階段が現れた。僕は急いでその階段を降り始めた。


「早く…!」


機械生命体が迫ってくる中、僕は必死に階段を降り続けた。




階段を降りきった先には、広大な地下空間が広がっていた。天井からは無数のケーブルが垂れ下がり、壁には奇妙な模様が刻まれている。まるで異次元に迷い込んだかのような光景に、僕はしばし呆然と立ち尽くした。


「ここは一体…?」


足元には、古びた鉄製のプレートが敷き詰められ、その下からは機械のうなり声が微かに聞こえる。どうやら、この地下空間全体が巨大な機械装置の一部であるようだ。


「とにかく進もう…」


僕は慎重に歩き出した。足音が響く中、周囲に何かの気配を感じたが、今は立ち止まっている余裕はない。しばらく進むと、巨大なドアが目の前に現れた。ドアには「プロジェクト・ネメシス 中央制御室」と書かれている。


「ここが中心部か…」


僕は深呼吸をして、ドアを開けた。中には広い部屋があり、中央には巨大なコンソールが設置されている。コンソールの前には椅子が一つだけ置かれていた。


「ここで何かが分かるかもしれない…」


僕はコンソールに近づき、慎重に操作を始めた。すると、スクリーンに様々なデータが表示され始めた。世界の地図、施設の設計図、そして機械生命体の詳細な情報。


「これが…全ての真相か…」


読み進めるうちに、プロジェクト・ネメシスが目的としていたのは、人類を機械化することだったことが分かった。


動物を機械化し、寿命から解放された存在を生み出した人類は、自らをも寿命から解放しようとしたのだ。

人類はそれにあらゆる技術を尽くした。その結果、膨大なデータをも瞬時に処理できるような機能のついた存在を作り出した。


しかし、その計画は世界が崩壊の危機に瀕したために中止となったのだ。


「そんなことが……じゃあ、さっきの機械生命体たちはいったい…?それに、この世界は……?」


その時、背後から再び機械の音が聞こえた。振り返ると、先ほどの鳥のような機械生命体が現れていた。今度はその背後に複数の同型機が続いている。


「逃げられないのか…」


僕は再びコンソールを操作し、何とか脱出の手段を探した。すると、スクリーンに「緊急脱出口を開く」というオプションが表示された。


「またか…」


僕はそのオプションを選択し、緊急脱出モードを起動させた。すると、床に大きな穴が開き、再び地下へと続く階段が現れた。


僕は急いでその階段を降り始めた。機械生命体が迫ってくる中、必死に降り続けた。そして、ようやく階段の終点にたどり着いた時、そこには広大な地下空間が広がっていた。


しかし、今回は違った。その空間の中央には巨大な機械が鎮座しており、その周囲には無数のケーブルが絡みついている。まるでその機械がこの地下空間全体を支配しているかのようだった。


「これは……」


僕はその巨大な機械に近づき、その詳細を確認し始めた。その時、スクリーンに新たなメッセージが表示された。


「本体の起動を開始します。……エラー」


すると、巨大な機械がゆっくりと動き始め、その中心部から強烈な光が放たれた。


「これは………!!僕は…!!」
















目が覚めた時、僕は全てを失っていた。名前も、過去も、そしてこの世界の意味さえも。


周囲を見渡すと、青い空と海がどこまでも広がっている。


かつて大都市であっただろうこの場所は、今や膝下ほど水に浸かり、ビルの廃墟が無数に立ち並んだ影が水面に揺れている。


まさに誰の目にも触れることの無い墓標だ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


解説致しますと、主人公こそが機械化途中の人類で、現実世界で起こった世界の崩壊により遺された主人公くんの精神世界(サーバー)の話です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み終わった後、不思議な余韻が残る物語でした。 世界観も面白く、非常に良かったです。
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