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97 罪悪感と情

「ただ亀裂が生まれたのもこの頃で、ルクリアは村娘にポプルスとの一夜を求められたんだ。色がどうであれ、あの見た目だ。周りの目を気にして付き合えないが一度だけならって思ったんだろうよ」


「ルクリアさんは、自分の夫を差し出したわけね」


「ああ。でも、ポプルスが拒否した。絶対に首を縦に振らなかった」


「それで、距離が出来始めたの?」


「そうだ。ルクリアは村の女共から嫌われ、男共が庇うから村全体の雰囲気も悪くなった。そのままギクシャクしてルクリアと別れてくれたらと思ってたが、なぜか仲直りしたんだよ。魔物退治から帰ったらポプルスの髪が短くなっててな。理由を尋ねたら『女の子たちが髪の毛で和解してくれることになったんだって。ルクリアももう誰とも寝ないって約束してくれた』って言われたんだ。あの時は、2人がお互いだけになるのならいいかとしか思わなかったよ」


なるほどね。

こんな不可思議な和解があったから、グースは色々疑っていたんだわ。

チェルナー(カーラーさん)に髪の毛を欲しがられたってポプルスが話した時、怒っているような雰囲気だったものね。


「それに、誰の子か分からないけどルクリアの妊娠も発覚したしな。ポプルスとルクリアは手をとりあって喜んでた。やっと平和な日々になると思った矢先、ルクリアが体調を崩したんだよ。はじめは風邪だと思ったが、一向によくならない。高い薬を試したり、違う村から医者を招いたり、できることは全てやった。でも、よくなる気配はなく少しずつ衰えていった。そして、ルクリアは死に、子供は消えた」


「消えた? どういうこと?」


「そのままだ。それなりに大きかったお腹はぺったんこになっていた。でも、どこにも血は見当たらなかった。まるではじめから妊娠なんてしていなかったみたいにな。詳しく調べたかったが、ルクリアの死を発見した直後に奴隷商に連れてかれたんだよ。ポプルスが『せめて葬儀を』と泣き叫んだが、聞く耳なんて持ってくれない。当たり前だよな。俺たちは奴隷に落ちたんだから」


体重を預けるように背もたれにもたれたグースは、目を閉じた。

わずかに寄せられて眉根が、後悔を滲ませている。


「全部俺が悪かったんだ。ポプルスに相談された時、想いを伝えるように応援しなきゃよかった。もっと強く別れるように言えばよかった。何度も村を出ようと話せばよかった。ポプルスとルクリアが離れれば、ポプルスはあそこまで苦しまず、奴隷落ちすることもなかったんだ」


「もしかして……グースが一緒に奴隷に落ちたのも身請けを断っていたのも罪悪感からなの?」


「半分はそうだな。もう半分は情だ」


グースに相手がいないこと、ずっとポプルスを支えていたことから、考えれば分かることなのにとハッとした。

助けてもらった恩だけで、あそこまで親身になれるものじゃない。

愛想を尽かして離れていっても不思議じゃない。

それなのに、献身的にポプルスの側にいた理由の情なんて1つしか思いつかない。

「愛情」だ。


なんて絵になる2人なんだろうと顔を輝かせてしまったのか、グースに「違うからな」と速攻で否定された。

どうしてそっち方向で考えたと分かったんだろうか?


「俺は懐が深いだけで、クインスやタクサスだったとしても同じことをする」


「なーんだ。面白くない」


「少しは嫉妬してやれ」


「しているわよ。でも、ポプルスには内緒よ」


鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたグースを笑うと、グースは朗らかな面持ちで柔らかく微笑んできた。


「というか、グースは何一つ悪くないじゃない。ポプルスが盲目すぎただけでしょ」


「そう言ってやるな。あいつはあの見た目で、本当に苦労してきたんだから」


「それって、やっぱり……」


わざと目を見開き両手で口元を隠すと、すぐさまグースに「違うからな」と突っ込まれる。

肩をすくめると、短く吐き出された息が聞こえてきた。

1拍分顔を見合わせ、私もグースも頬を緩めてクスクスと笑った。


「俺はずっと後悔してたんだ。でも、今日で止めることにする。奴隷に落ちたから国を興すことになった。そして、ノワールに出会えた。きっとこの道が正解だったんだ」


「何を言ってんのよ。魔女と関わる道が正解なわけないじゃない。思い出作りくらいにしとかないと」


「思い出作りか。だったら、最高に楽しいものにしねぇとな」


大声で笑い出したグースが、いつもよりも眩しく見える。

誰にも話せなかった自責の念を吐き出すことができ、ある程度心が軽くなったのだろう。

グースの性格を考えると、きっと後悔が消えることはないと思う。

打ち明けることで過去を切り捨てられるのなら、今まで1人で抱えてきていないだろうから。


楽しそうに笑っていたグースだったが、ハタと気づいたように笑みを消した。


「なぁ、ノワール。俺の話にはおかしな点が多かっただろう?」


「そうね」


「ルクリアの裏側に、魔女がいたと思うか?」


「カーラーさんの話が本当ならいるってことだけど……でも、もしいるのなら何がしたかったんだろうって思うのよね。だって髪の毛が欲しいのなら、ルクリアさんを通さずポプルスから奪えばいいだけなんだから」


「それもそうか。あの青い鳥みたいな使い魔だっているんだろうしな」


ブラウのことね。

クインスから紹介ってなかったのかな?

まぁでも、ブラウはクインスを気に入っていて、クインスの所にしか手紙を持って行かないと思うから、グースは見るだけなのかもね。


「私も気になった点があるから、そのうち現場に行って調べてみるわ」


髪を渡したことよりも、消えた子供のこととかね。


「その時は連れて行ってくれ」


「嫌よ。ポプルスが五月蝿くなるじゃない」


拗ねるポプルスを思い浮かべたのか、グースは面白おかしそうに吹き出した。


「本当に、グースってポプルスが好きね」


「まぁな」


自信満々なグースに、もう「やっぱりそうなんじゃない」と突っ込まなかったのに、グースから低めの声色で「そっちじゃないからな」と念押しされた。




グースとの密会、もう少しだけお付き合いください。


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