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96 ルクリア

「俺、ずっとポプルスとルクリアは付き合っていると思っていたんだ。毎日鬱陶しいほど好き好き言い合っていたし、『いってきます』や『ただいま』のキスもしていた。体を重ねている音や声を聞いてしまった時もある。だから、ポプルスが俺にルクリアとの関係を相談してくれた時に、ポプルスの背中を押したんだ。ポプルスは見た目のせいで悩んでいたから今更って思ったし、結婚していない方がおかしな状況だったしな。で、晴れて2人は結婚した」


グースは、ため息で言葉を区切った。


「俺が、はじめからルクリアはおかしいって気づいていたらよかったんだ。あのクソ女」


また、クソって言ってる。


「ルクリアっていう女はな、村で聖女のような扱いを受けていたんだ。誰にとっても優しく、怒ったりもしない。自分が食べる物に困るとしても他人に施しを与える。人と人との橋渡しもしていた。だから、村では人気者だったんだよ」


「そんな人間、本当にいるの?」


「俺もはじめは疑った。でも、本当にいつも笑顔で誰かを助けていた。だから、心優しいんだろうと勘違いしたんだ」


「どういうこと?」


「簡単な話だ。その行為はポプルスを苦しめていたんだよ。ルクリアが誰かに与えられる金銭だったり食べ物だったりは、ポプルスが頑張って得たものだ。ルクリアが見境なく与えるから、ポプルスたちは貧乏だった。ポプルスに『ルクリアを注意した方がいい』と伝えてみたが、ポプルスもルクリアに救われた側だからな。俺の忠告なんて無視だ。しかも、反対にルクリアがいかに優しいかを惚気てきた」


呆れたように息を吐き出すグースを、憐れみを含んだ目で見てしまった。

気づいたグースに苦笑いされる。


「俺はルクリアにも言ったんだよ。『ポプルスが汗水垂らして稼いだ物を人にあげるな。渡したいのなら自分で働け』ってな。そしたら、『困っている人が可哀想』だの『分けられる物を独占するなんて』だの返されて、しまいには『ポプルスのためなのに』って号泣された。『意地悪したら、その分ポプルスが虐められる。優しくすればポプルスも優しくしてもらえる』ってな。一体どこに目付けてんだよって思ったよ。

まぁでも、ルクリアなりにポプルスを想ってのことなんだろうと、もう何も言わないことにしたんだよ。ルクリアはこのことをポプルスに話して、俺はポプルスに『ルクリアの気持ちを知れてよかった』って感謝されたしな。ポプルスがいいなら、もういいかって思ったんだよ」


項垂れるグースが、苦労人にしか見えない。

よくもまぁ、愛想を尽かして離れなかったものだ。

私なら速攻で関わりを断つだろう。


「グース、お水でも飲む?」


サイドテーブルに置かれている水差しとコップを、魔法で浮かせて呼び寄せた。

コップに水を注ぐのも魔法でしていると、グースは肩の力の抜くように短く息を吐き出し、目元を和らげた。


「はじめから俺の水だけどな」


「まぁまぁ、いいじゃない」


自分の水も用意し、一口飲む。

同じように喉を潤したグースが、続きを話し出した。


「あれは、ポプルスが近隣の村に応援で外泊してた日だ。俺も遅くなってしまって、帰ってきたことを伝えようとルクリアの部屋に行ったんだ。そしたら部屋から話し声が聞こえて、ポプルスが帰ってきてたのかと思ったよ。でも、相手は村に住んでる男で、ルクリアはその男とヤってたんだ」


「浮気してたの? ポプルスよりいい男なんて、グースくらいじゃないの?」


グースが可笑しそうに「間違いない」と笑っている。


「浮気だったら、どんなによかっただろうな。男が帰った後にルクリアと話したんだよ。ポプルスに絞れないならポプルスと別れろって。そしたら、あいつ何て言ったと思う?」


「頭がお花畑の小娘の考えることなんて知らないわよ」


瞳を瞬かせたグースは、お腹を抱えて「小娘か」と笑い出した。


「何歳の時かは知らないけど、小娘でしょ。大人に見られたかったら100歳は越えないと」


「だとすると、俺はまだクソガキか」


「当たり前。ポプルスなんて中身がアレだから幼児よ」


再び大声で爆笑したグースは、息を整えながら目尻の涙を指で拭っている。

そして、「はぁ」と一息吐いてから話を再開させた。


「俺も耳を疑ったよ。男に『恋人ができなくて悲しい。人肌恋しくて死んでしまいそうだ。温めてほしい』と縋りつかれたんだとよ。しかも、他にも『練習させてほしい』や『ルクリアを諦めるために一度だけ』とかもあったらしい」


「あー、待って。気持ち悪すぎて、ポプルスの趣味を疑うんだけど」


「同感だ。ポプルスは知っていたからな」


「ポプルスの頭も腐ってたのね。バカじゃないかしら」


「俺も何回か『目を覚ませ』って言ったよ。ポプルスも一度別れ話をしてる。でも、ポプルスは『嫌だけど別れたくないから我慢する。ルクリアは俺のために頑張ってくれているから』って決めたんだよ。『好きだから、側にいたいから』ってな」


顔を顰めると、グースは肩を揺らして笑った。


「ルクリアさんって、抗えないほどの美人だったの?」


「どうだろうな。俺は好みじゃなかったな。けど、泣くだけで周りが勝手に味方になるような人物ではあったよ。ポプルスもルクリアの涙に弱かった」


喉が渇いたようで、グースは水を口に運んでいる。




ルクリアについては、次話までお付き合いください。


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