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95 グースが語る過去

目的地に到着し、窓の外から中の様子を窺う。

目当ての人物が1人になったタイミングで、窓を軽く叩いた。


「ノワール?」


不思議そうに見られたので、笑顔で手を振る。

口パクで「開けて」と伝えると、すぐに窓を開けて迎え入れてくれた。


「1人か?」


「グースと2人っきりで話したいことがあってね」


「怖いな」


言葉とは裏腹に可笑しそうに笑っているグースの横を通り抜け、ソファに腰かけた。

グースはドアの鍵を閉めてから、向かい側の席に着いている。


「ちなみに、誰にも秘密か?」


「グース次第かな」


「なるほど。交渉か」


「そうよ」


不敵に微笑むグースに、私も勝ち気な笑顔を浮かべる。


「では、強欲の魔女様。何と何を交換してくれるんだ?」


「私から差し出すのは、平民でも手が出せるあらゆる薬よ。作り方を教えてもいいわ」


目を皿にするグースの顔が面白くて笑うと、グースは体を揺らした後、真っ直ぐ見つめてきた。


「いくら必要だ?」


「必要なのはお金じゃないわ」


「俺の命は、まだやれないぞ」


「いらないわよ。ただこの国が矢面に立ってしまうから、それを了承してほしいのよ」


「どういうことだ?」


「この国から各国に売り捌いてほしいってこと。だたし、売るのはガーデニア国・フクシア国、後、嫌だけどリアトリス国。売り上げは全部この国のものにしていいわ」


「どうしてその3ヶ国だけなんだ?」


「他は敵かもしれない魔女と繋がっている国だからよ」


アスワドさんが結界を張っている国は、ガーデニア国とリアトリス国。

そして、味方寄りと思いたいシャホルさんが結界を張っている国がフクシア国。

今の時点でヒタムさんとムスタさんの名前は一切出てきていないけど、もしかしたらがあるかもしれない。


「ということは……チェルナー、いや、カーラーは敵ということか?」


驚いたり慌てたりしないグースは奇妙だった。

一緒にカーラーさんの屋敷に行き、和解とも思える会談をし、何事もなく帰ってきている。

それなのに、カーラーさんを疑っていることを不審に思っているように見えないのだ。


「ええ、色んな事がおかしいからね。まぁ、何よりポプルスにルクリアさんのかた、き……」


前触れもなく勢いよく立ち上がったグースに一驚してしまい、最後まで言葉を続けられなかった。

怒っているのに狼狽えているようなグースが珍しくて、グースを見上げながら呆然としてしまう。


「悪い」


グースは大きく吸い込んだ息を吐き出してから、再び腰を下ろした。

一瞬見た戸惑っていると分かる表情は、もうどこにもない。


「ノワール。ポプルスから聞けたのか?」


「聞いたのか?」ではなく「聞けたのか?」。

よっぽどルクリアという人物は、ポプルスにとってキーマンということだ。


「違うわよ。実は――


カーラーさんの屋敷であったことと、常日頃から髪の毛を欲しがられていることを伝えた。

グースは太ももに肘を突いて頭を抱えていた体勢から、「あのバカ」と悪態を吐きながら体を起こしてソファにもたれた。

グースの視線は、私を通り越して天井に向いている。


「ポプルスは、ノワールが知っていることを知らないんだな」


「言ってないからね」


「そうか。だったら、今から話すことは聞き流してくれ」


「分かったわ」


グースは、ずっと斜め上を見上げたままだ。


「俺がポプルスに助けられた時は、ポプルスとルクリアはまだ結婚していなかった。というか、付き合ってもなかった。でも、同棲はしていた。ルクリアはポプルスが世話になった老夫婦の孫らしく、老夫婦が死んだ時にその家を受け継いだんだそうだ。それで、時々遊んでいたポプルスと一緒に住み始めたらしい」


深い息を吐き出すグースは、眉間に皺を寄せている。


「ポプルスはあの見た目だからな。相当苦労したそうだ。実際、俺が厄介になってから知っている状況でも、村の3分の1の人間はポプルスに対して否定的だった。それでも腕はよかったから、診てほしいって来るんだよ。で、『来てやっているんだからありがたく思うべきで、金をせびるな』っていう輩がいた。それでもあいつは愛嬌を振り撒いて、きちんと薬代はもらってた。たまに診察代も払ってもらってたな」


「ひどい話ね」


「そうだな。でも、田舎ではよくあることだ。だから、ポプルスに村を出るように何回も伝えた。だけど、あいつは老夫婦の墓があることや思い出があることを理由に離れようとしなかった。子供の時に比べたらマシになっているから、この先認めてもらえることはあるってな。本当にバカだよ」


後悔が滲んでいるグースから、どれだけポプルスを想っているのかが伝わってくる。

命を助けてもらい、元気になるまで世話をしてもらい、その時期に見た目が人と違うって理由だけで苦労するポプルスを見てきている。

健気に笑顔で頑張っているポプルスに対して、歯痒い思いをたくさんしてきたんだろう。

あの時に無理矢理村から出していればと思っているのかもしれない。


「ポプルスに助けられた事故で、俺は家族を亡くしたからな。心配をかける相手がいなくなったんだ。だから、ポプルスに恩返しがしたくて、そのまま住まわせてもらった。田舎でも冒険者の仕事はあるから、働いて治療代と下宿代という形でお金を渡していた。楽しい日々だったよ。ルクリアという女がクソだと知るまでは」


え?

いやー、聞き間違いかな。

うん、きっと聞き間違いだ。




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