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87 家族

「ねぇ、アピオス。私が何か知ってるわよね?」


頭の上にハテナを浮かべるアピオスに、勝ち気に微笑みかける。


「私は魔女よ。この世界にたった7人しかいない魔女の1人なのよ」


「はい」


「だから、安心して。絶対にアピオスの苦痛を消してあげるわ。私に任せなさい」


つまり、アピオスが今辛そうにしているのは、その呪いのような声のせいってことでしょ。

私は、強欲の名に相応しいコレクターなのよ。

アピオスの診断を先にしなきゃいけないけど、すぐに症状を緩和する薬を作って、大元を叩いてみせるわ。

私にかかれば解けない謎なんてない! ……うん、そのはずよ!


突然ドッバーと涙を溢れさせたアピオスは、しゃくりあげるように泣きはじめた。


「僕、ノワール様に、優しくしてもらってばかりで、僕、何も返せなくて、ごめんなさい、もっと頑張ります、もっと役に立ちます、だから、嫌わないでっ」


いつからというより、もしかしてずっと不安だったのだろうか。

3年面倒を見ると伝えているが、いい子じゃなければ3年経たずに捨てられると思っていたのだろうか。

捨てられなくても、嫌われたらまた奴隷だった時のような生活に戻ると考えていたのかもしれない。

心の傷なんて簡単に治るものじゃない。

両親に愛された記憶があったとしても、一度どん底まで落ちているのだから、今の幸せを手放しで喜べないのかもしれない。

最悪なことを考えて予防線を張るように、どうせまた落ちてしまうと心に留め置いていたのかもしれない。


いい子を演じているようにも無理をしているようにも見えなかった。

だから、アピオスの地の性格が優しくて頑張り屋さんだと分かるが、ずっと嫌われないようにと気を張りつめているのはさぞかし疲れることだっただろう。

それに、優しすぎて自分の気持ちよりも周りの気持ちを優先ばかりしていたのだろう。

その心労が溜まりに溜まって、心のキャパを超えたんじゃないだろうか。


泣いているアピオスを再度抱きしめ、今度はあやすように背中を軽く叩きはじめる。


「ねぇ、アピオス。あなたはまだ私が怒ったところや嫌いな人がいる時の様子を見たことがないから、私が優しいのだと勘違いしているのよ。

私はね、嫌いな人は殴るし、簡単に縁を切るわ。二度と会いたくないから脅したりもする。怒ったら、死にたいと思うほど痛めつけたりするのよ。本当よ。それに、まぁ、うん、他にも色々あるけど、アピオスに嫌われたくないから隠すわね。

そんな私が一緒に住み、魔法を教え、旅行までしているのよ。私に好かれているって胸張っていいくらいなのよ。それに、アピオスがもし床や地面で寝転んで手足をバタバタさせて『嫌だ!』や『あれが欲しいからくれ!』みたいに暴れたとしても、そんなことでアピオスを嫌いにならないわ」


「ぼ、ぼく、そんなことしません……」


「そうね。でも、そんなことをしても大丈夫ってことよ。現にポプルスなんて小さい子供みたいな時あるじゃない。だけど、私、森の中に放り出していないでしょ。森で迷子になって頭を冷やせなんてことしてないでしょ」


瞳をパチクリさせながら顔を上げるアピオスの頭を撫でる。


「アピオスが私を嫌いにならない限り、私も嫌いにならないわ」


「僕が、嫌いになること、ありません」


「だったら、アピオスが死ぬまで私とは相思相愛ね。嬉しいわ」


「死ぬまで……3年経っても、会えるんですか?」


ああ、これも不安の原因だったのだろう。

3年は長いように感じて、この半年があっという間だったように、すぐに別れが訪れる。

今どんなに仲良くしていても、3年経てば縁を切られて知らんぷりをされると思っていたのかもしれない。

それは捨てられると何ら変わらない。

そして、アピオスは「お兄ちゃんだから」と自分を奮い立たせて、負の感情を飲み込んできたんだろう。


「会えるわよ。アピオスたちは出入り自由にしておくから、会いに来てくれたら嬉しいわ。私からも会いに行くと思うしね」


「嬉しいです……僕、頑張ります」


「アピオスが頑張りたいなら頑張ればいいわ。私がアピオスたちに求めるのは、生きていく術を身につけること、好きな物ややりたいことを見つけること、健康で過ごすことだからね。まぁ、生きていく術を身につけるためには努力がいるものね。頑張るってことか。うん、そうね、頑張れ。でもね、私の好感度を気にして頑張るのは違うからね。そこだけは間違えないようにね」


「はい……泣いてしまって、ごめんなさい……聞こえてくる声が気持ち悪くて……」


「いいのよ。いつでも手を差し伸べてあげるわ。私にはどうってことないことばかりなんだから、アピオスは気にしなくていいのよ。偉大なる強欲の魔女の私にできないことなんてない。今も一瞬でアピオスの涙を止めてあげる」


ニコッと微笑んでから、アピオスのおでこにキスをした。

アピオスは湯気を出しそうなほど真っ赤になり、おでこを手で押さえている。


「涙、止まったでしょ」


「え、は、はい……でも、これは、恥ずかしいので、もう……」


「ごめんごめん。今度からは癒しが欲しい時にしかしないわ」


「癒し? 僕にキスすることが癒しになるんですか?」


「もちろんよ。シーニーたちもだけど、アピオスとカッシアは私の心の波を穏やかにしてくれるの。すごいことよ」


「シーニーたちと一緒……」


「そうよ。もうアピオスもカッシアも私の家族よ」


また大量に涙を放出し始めたアピオスを抱きしめ、アピオスが泣き疲れて眠るまで腕の中に閉じ込めていた。




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