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85 最古の魔女が聞いて呆れる

「シャホルさん、どうしてここへ?」


アスワドさんをパッチャの横に寝かし、ついでに手の深い傷も治癒魔法で治した。

そして、怒っているシャホルさんと向かい合わせでソファに腰を下ろしたのだ。


「ノワール」


「はい、何でしょうか?」


ものすっごく怒ってるんだけど。

私、何かした?

ううん、何もしてないって声を大にして言える!


「どうして私を誘わなかった?」


「え?」


「この後に及んでとぼけるのか。貴様、死にたいようだな」


いやいや、ちょっと待って。

誘うって何に?

シャホルさんを誘わないといけなかった何かをしたんだよね?

全く心当たりがなんだけど……今だって旅行中……って、旅行のこと?

それ以外ないよね?

だって、旅行以外で日常と違うことしてないものね?


「本当にすみませんでした。シャホルさんの予定をおうかがいして計画を立てるべきでした。ただ――


「ただ?」


これ、返答間違えたら殺されるやつだわ。

いや、死なないけどね。

数年ベッドの上なだけだけど、痛いのは辛いから絶対に嫌だ。

でも、本当のこと以外の回答が思い浮かばない。

チックショー!


「ネーロさん相手に喧嘩を売ろうと思っていまして、すぐに旅行に行きたかったんです」


「ネーロか……アスワドの仇というわけでもあるまい。貴様、ここに来て事態を知ったのだろう?」


「え、はい、そうですがって、シャホルさん、知ってたんですか?」


刺すように私を見ていた視線が下がり、再度上がる時には怒気は瞳から消えていた。


「何のことだ?」


嘘下手か!

ルーフスが「あちゃー」という顔を両足で隠しているけど、顔の1個は隠れていないから丸見えだっていうこともツッコみたい。

頭3つあるんだから前足2本で隠せんがな! って言いたい。

でも、ツッコんだから最後、絶対に怒りのボルテージが上がる。

また機嫌が悪くなる。


それに、いつも隠し事が上手なシャホルさんがポロっちゃうほど、さっきは激怒していたということになる。

私に平和を愛する心は消えているかもだけど、それでも平和が1番面倒くさくないと思うので、シャホルさんに合わせよう。


「いいえ、何でもありません。シャホルさんを旅行に誘わず申し訳ございませんでした」


「貴様、謝ればいいと思っているだろ」


「いいえ。シーニーに伝えて、海の幸をふんだんに使った料理を用意してもらいます」


「それだけか?」


「いいえ、アピオスとカッシアに貝殻を使って何か作ってもらいます」


「他には?」


「……何をお望みでしょうか?」


お願いだから、私が叶えられることにして。

後、グロいことや痛いことも除外してくれたら嬉しい。


真っ直ぐ見てくるシャホルさんを、固唾を飲みながら見つめ返す。


「ノワール。アスワドがどうして倒れたか分かるか?」


え? 急に話題変わった。なんで?


「分かりません」


「貴様、本当に知識が偏りすぎだ。もう少し賢くなれ」


「ううっ、すみません」


海でアスワドさんにも似たようなため息吐かれたなぁ。

私、今「バカ」って思われているんだろうなぁ。

ってかさ、ノワールがバカなら、元の私なんてミジンコ以下だよ。

顕微鏡で見ても「脳みそないな」って言われて終わりだわ。


「もしアスワドが暴れていたら、この屋敷もアスワドの森も焼け野原になっていただろう。そして、アスワドはまた姿を変えていたかもしれんな」


「その懸念があって、怒りを抑えていたんですか?」


「だと思うぞ。アレは、魔女の中で誰よりも自分の感情に正直だからな。それなのに暴れなかった。過去の暴走がアスワドの汚点として染み付いているということだ」


うん。なるほどなんだけどさ。

シャホルさん、いつから見ていたの?

どこにいたの?

シャホルさんの眷属って、ケロベロス・豚・虎・リス・ワニ・蝿だよね?

1番可能性がありそうなのは蝿だけど、見てないよ?


「ネーロは、アスワドの暴走を狙っていたのかもしれんな」


「え? え? どうして?」


「さあな。ただな、ノワール。私は思うんだよ」


「何をでしょう?」


「最古の魔女が聞いて呆れる、とな」


皮肉たっぷりに鼻で笑ったシャホルさんの面持ちは、嫌悪感を隠そうとしていない。


「貴様、ネーロに喧嘩を売ると言ったな」


「はい、泣かせようと思っています」


「なら、アスワドの分も仕返ししてやれ」


アスワドさんはアスワドさんで、ネーロさんにカチコミに行きそうな気がするけど……

怒りで我を忘れるかもしれないから、行かない選択をするってこと?

でも、そんなこと分かんないよね?

それなら、行かせるなってこと?


「アスワドさんの分ということは、やっぱり私にも関係しているんですよね?」


アスワドさんのことも気になるけど、本当にこの部分ははっきりさせたい。

私の敵は誰なのか?

どうしてあんなことをされたのか?


「どうだろうな。喧嘩すれば分かるだろうよ」


答えてくれないか。


「もし違ったとしても、銀色が欲しいだろうものを取り返せるんだから、貴様にはやる価値があるじゃないか」


「ポプルスの欲しいもの?」


キョトンとしてしまうと、呆れたように息を吐き出された。


「貴様の蜘蛛は、いまだにネーロの屋敷に入れていないのか?」


「入ろうと思えば入れますけど……不可侵が……」


「貴様、どこまでバカなんだ。バレなきゃいいだろ、バレなきゃ」


あ、はい。そういうことですね。

真面目に守るのはバカなんですね。

はい、すみません。


「喉が渇いた」と言われ、シャホルさんとのお喋りは終了した。

食い下がろうとしたが、睨まれたので大人しく引き下がっている。

きっともう何を問おうが、答えてくれないだろう。

「旅行が終わったらランちゃんにお願いをするか」と、ネーロさん以外の屋敷も調べてもらおうと決めたのだった。




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