81 ヘビのパッチャ
ランちゃんにシーニーとアピオスとカッシアを糸で結んでもらってから遊びを再開しようとした時、今日もアスワドさんの首に巻きついて眠っていたパッチャの瞼がゆるゆると開いた。
欠伸をして潤ませた瞳を向けてくる。
「ノワールしゃま、グリューンが大変失礼をいたちまちた。グリューンに代わってお詫び申ちあげましゅ」
ってことは、眠っていてもきちんと音を拾っているのね。
「アスワドさんが怒ってくれたから、もういいわ。それに、安全対策をとって遊ぶようにするから」
「許ちてくだしゃりありがとうごじゃいましゅ。それと、もち可能でしゅたら森を見ていただけましゅか?」
「パッチャ! 何を!」
「アスワドしゃま。森は魔女には必要不可欠でしゅ。シーニーたちを感ぢたからこしょ、ノワールしゃまの森は豊かだと分かりゅでしゅ。森を豊かにできたノワールしゃまなら解決方法が分かりゅかもちれないでしゅ」
「わたしはもう頭を下げたくないわ!」
「わたちが代わりに下げましゅ」
1人と1匹の言い合っている言葉に気になる部分があった。
シーニーたちの何を感じて、森の豊かさが分かるというのだろうか?
それに、魔女に森が必要不可欠とは何だろうか?
あの森は生まれた時から住んでいて、「ここが君の森だよ。大切にするんだよ」と言われた。
ただそれだけだ。
他に何の説明も受けていない。
「ねぇ、パッチャ」
勇気を持って、1人と1匹の言い合いに割り込んでみた。
案の定、アスワドさんから睨まれる。
「魔女に森が必要不可欠ってなに? 教えてくれたら森を調べてみるわ。治せるかどうかは分からないけどね」
「ノワール、あなた……バカでしょ」
そこは優しいって言ってほしいなぁ。
お人好しがしっくりくるんだろうけど、言われて嬉しいのは優しいだもんね。
「どうしてそんなことも知らないの?」
え? まさかそっちのバカなの?
「すみません。森について、ただ私の森ということしか知りません」
アスワドさんに呆れたように息を吐き出された。
パッチャは、瞳を丸くしながらも丁寧に教えてくれた。
「ノワールしゃま、魔女の森は魔女と眷属の力の源でしゅ。森が豊かになれば魔女や眷属の魔力や魔法の質が上がりゅち、体は強くなりゅでしゅ。もち怪我をちても、森にいりゅだけで癒されりゅでしゅ。もちもでしゅが、魔女が死ねば森は枯れりゅし、森が枯れれば魔女は人間になってちまいましゅ」
は? そんなに魔女と直径するものだったの。
知らなかったことが怖いんだけど。
「そうなのね。教えてくれてありがとう」
グリューンが謝りながらも言い訳をしてきたことも頷けるわ。
要するに、アスワドさんやグリューンたち眷属の力が弱くなっていっているってことでしょ。
それは焦るわね。
というか、ネーロさんも普通に親切で魔法かけてあげるくらいしたらいいんじゃないの?
ケチすぎない?
珍しい人間が必要っていうのも、本当かどうか分からないしさ。
ん? 珍しい人間……ネーロさんといえばポプルスなんじゃないの?
でも、アスワドさんが銀色を殺さずに持っていくってことないよね。
うーん、じゃあ、本当に珍しい人間が必要?
わっかんないわー。なーんでこんなにも分かんないことだらけなのよ。
知らないことばかりで、何を知りたかったのかも分からなくなってきたわ。
面倒くさがりが悩むからこういうことになるのよね。
とりあえず、ネーロさんにやり返すこと以外は、もうなんでもいいわ。
うん、そうしよう。何回頭を悩ませるんだ。鬱陶しいぞ。だもんね。
「アスワドさん」
「なに?」
「旅行が終わったら森に案内してください。できるかどうか分かりませんが調べてみます」
「……分かったわ」
「ノワールしゃま! ありがと、ぅ、ごじゃ……ま……」
言いながらパッチャは、また眠ってしまった。
アスワドさんが、どこか寂しげな瞳でパッチャは撫でている。
「あのー、もういい?」
遠慮がちなポプルスの声が聞こえ顔を向けると、シーニーが軽くポプルスのズボンを引っ張っていた。
まるで「声をかけられるまで待つんですよ」と注意しているみたいで、笑いそうになってしまった。
「銀色は話さないで」
「はーい、ごめんなさい。お口閉じます」
軽快なポプルスの謝罪と怒らずに呆れた面持ちをしたアスワドさんに、少し重たかった空気が一気に軽くなった。
ずっと静かに待ってくれていたアピオスとカッシアが、もう笑っていいんだと石化の呪いが解けたように2人で顔を寄せ合って声を上げている。
「待たせてごめんね。さぁ、遊びましょう」
「はい」
「うん」
元気よく頷いてくれるアピオスたちと共に、全員で浜辺でピーチバレーをしたり、砂でお城を作ったり、ランちゃんがしていたようにパランとシーニーにジェットスキーをしてもらったりと、日が暮れるまで大いに遊んだのだった。
次話から、物語の舞台はアスワドの森に移ります。
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