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79 狙われたアピオス

ホテルから近い海にみんなで向かい、砂浜に降り立った瞬間、アピオスとカッシアは目を見開いて足踏みをしていた。

そして、足をグリグリして砂浜に埋めたと思ったら、勢いよく引き抜いて足の上に乗っている砂が落ちる様子を面白がっている。


ポプルスはポプルスで、「こんなにも歩きづらいんだね」と興味深そうにしていた。


ブラウ・パラン・ランちゃんは、3匹で追いかけっこをしている。


そんな中シーニーだけはパラソルや椅子や机を設置していたので、ビーチボールや浮き輪を魔法で膨らませた。

手伝いになればと思ってしたのに、シーニーに「遅くてすみません」と泣きそうな顔で謝られ、今後は絶対に何もしないでおこうと心に誓ったのだった。


「ノワールちゃんは泳がないの?」


シーニー指導の元、アピオスが泳ぎの練習をしていて、カッシアはアスワドさんと2人で波打ち際で海の中を観察している。

何を話しているかは聞こえないが、時々カッシアの笑い声がここまで届いている。


「ポプルスはもういいの?」


ポプルスは、さっきまでパランとどっちが早く泳げるかの競争をして遊んでいた。

そのパランは今、ランちゃん専用のジェットスキー化している。

板の上に乗ったランちゃんが、糸でパランと自分を繋げ楽しんでいるのだ。

ちなみに、ブラウだけは海で遊ばずに私の隣で氷を突いて涼んでいる。


「ちょっと休憩。何度もパランに挑んで疲れたからね」


「ムキになって勝負するからよ」


「1回くらいは勝ちたいじゃない」


「無理よ」


「だね。もう諦めるよ」


水筒から果実水をコップに移して喉を潤すポプルスを眺める。


「ねぇ、ポプルス」


「なに?」


「あなた、こんなに明るい場所で見ても体イヤらしいのね」


「え? なに? 褒められているの? 貶されているの? どっち?」


「褒めているわよ。お腹ぷよぷよじゃなくて素敵ってね」


「褒められているならいいや。ドキドキする?」


「そこまではしないわ」


「ええ! ときめいてよー」


大袈裟に項垂れるポプルスに息を吐き出しかけた時、海の方から「お兄ちゃん!」というカッシアの大声が聞こえた。

少し視線を外している間に何があったのかと心配して顔を向けると、空中でシーニーがアピオスを抱えていて、アスワドさんが海の表面を殴って大きな波を起こしているところだった。


「カッシア!」


波に飲み込まれるかもしれないカッシアを魔法で引き寄せたのだが、パランとランちゃんが助けようとしていたようでカッシアと一緒に足元まで飛んできた。

どうやら、ランちゃんの糸がカッシアに絡んでいたようだ。


「びっくりしたッス」


「パランが失敗したと思ったやないの」


体を強張らせているカッシアの肩を抱き寄せながら、海の方を睨む。

カッシアは、しがみつくように腕を回してきた。


「さっさと出てきなさい! このバカ!」


アスワドさんの怒号が響く中、シーニーがアピオスを抱えたままゆっくりと戻ってきた。

降り立ったアピオスにカッシアは泣きながら抱きつき、アピオスもまたカッシアを強く抱きしめている。


「シーニー、何があったの?」


「グリューンです。グリューンがアピオスを連れ去ろうとしたんです」


聞こえてきた名前に目を瞬かせながらシーニーを見やった。


「グリューンが? どうして?」


「分かりません。アスワド様が怒っていらっしゃるので、アスワド様の指示ではないようですが」


「そうよね。シャホルさんのお気に入りだからって諦めてくれたものね」


「ねぇ、ノワールちゃん。グリューンって魔物? それとも名前なの?」


アピオスとカッシアの頭を撫でているポプルスに問われた。


「名前よ。マーメイドの魔物で、アスワドさんの眷属よ」


「マーメイドって伝説上の生き物だよね。見てみたいかも」


「見られるわよ。アスワドさんがアピオスに謝罪させると思うから」


「聞こえているわよね! 出てきなさいって言っているの! 殺すわよ!」


ポプルスが「あれ、大丈夫なの?」と指してきたので、「大丈夫でしょ」と返しながらしゃがんだ。

アピオスたちと視線を合わせてから、2人の背中を撫でる。


「2人とも大丈夫よ。グリューンがアスワドさんに歯向かうことはないし、もしもがあっても魔女が2人いるんだから海を消すこともできるわ。だから、安心して」


「海を消すって怖いから」


「うるさいわね」


突っ込んでくるポプルスを睨むと、ようやくいつもの雰囲気に心を緩められたのか、アピオスとカッシアの体から力が抜けた。


「突然足を引っ張られて怖かったです……」


「それは本当に怖いわね。謝ってもらって、もう二度としないと約束してもらいましょ」


小さく頷くアピオスの腕を撫でてから、立ち上がった。

怒っているアスワドさんの魔力が、段々と膨れ上がっている。


「シーニー、ブラウたちもアピオスたちから離れないでね」


「任せてください」


「もちろんですわぁ」


「了解ッス!」


「当たり前やないの、ご主人」


4匹それぞれを見て頷いてから、地面から飛び立ちアスワドさんの横に移動した。

我慢できなくなったであろうアスワドさんが、大きな魔法を放つ前に止めに来たのだ。

アピオスを海に引き込んだグリューンを許せないが、さすがに大きな攻撃魔法は街に迷惑がかかってしまう。

遊びに来ただけなのに、そんな問題を起こしたくない。


「アスワドさん、落ち着いてください。殺してしまったら理由が分からないままですよ」


「出てこないのだから仕方がないわ」


「呼び寄せればいいじゃないですか」


「あ、そうね。呼び寄せたところをもう一発殴るわ」


さっきの拳、きちんと当たってたのね。

それってさ、出てこないのって気絶してるんじゃないの?




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