77 浜焼き
強欲の魔女御一行様に、アスワドさんとアスワドさんの眷属である真っ黒な蛇のパッチャを加えて街にくり出した。
パッチャは、アスワドさんの首にマフラーのように巻き付いている。
ただずっと眠っている。
魔女会議で会った時もパッチャは眠っていて、たまに起きると緑色の瞳で周りを見渡していた。
話している場面を見たことがないので、パッチャに対してそれくらいの記憶しかないのだ。
「アスワドさん、浜焼きってありますか? 網で貝を焼く食べ方なんですけど」
「あるわよ。私はバターを乗せるホッタテ焼きが好きなのよ」
ホタテはホッタテなのか。
ってかさ、バターはバターなんだよね。
そこもさ、ターバとかにならないの? って、はじめの頃は思ってたけど、美味しさは変わらないから何でもいいよね。
「先生、この独特な匂いが海の匂いなんですか?」
「たぶんね。この磯の香りがそうだろうね」
「合っているわよ。これが海の匂いよ。明日にでも海に行きましょうね」
「はい」
笑顔で頷いたアピオスは、カッシアと顔を合わせて笑っている。
ポプルスもガーデニア国は初めてだからか、カッシア並みにキョロキョロと忙しなく顔を動かしている。
「ん? ノワール、海は明日なの? あなたが言った網焼きの店から海は見えるわよ」
「見えるんですか? 嬉しいです。ホテルも海が見えるってことであそこにしたんです。明日の海は、浜辺で砂遊びをしたり泳いだりするために行くんです」
「そういうことは早く言ってよね。水着を用意しないといけないじゃない」
いや、アスワドさんと一緒に遊ぶ予定じゃなかったので……
なんて、そんな心の声は言えないので、素直に「すみません」と謝っておいた。
ホテルから海が見えるだけあって、ホッタテ焼きが食べられるお店はすぐに到着した。
魔女が2人と眷属の魔物たち、珍しい色で杖を持った人間が来店したことに、お店は氷漬けになったかのように時間を止めていた。
しかし、アスワドさんの「なに?」という一言に、客だろう人たちは慌てて帰って行き、店員たちは顔を青くしながらも席に案内してくれた。
これが世間一般の反応よね。
私は色を変えるからこんな反応されたことなかったけど、毎回こんな反応されてたら心が病むだろうな。
ここに来るまでも、周りの人たちは驚いてたもんね。
もしかしたら、アスワドさんが今回の旅行に参加してきたのは、誰かと一緒に普通に過ごしたかっただけなのかも。
ん? でも、それは色を変えれば解決する問題か。
「アピオス、カッシア。適当に頼んでいい?」
「はい」
「うん、楽しみ」
「アスワドさん、苦手なものとかありますか?」
「ないわ」
だったら、アピオスたちにどんな食べ物なのか知ってもらうためにも手当たり次第頼もう。
「ノワールちゃん、俺には聞いてくれないの?」
「聞かないわよ。なんでも食べられるでしょ」
「そうだけどさー。そこは聞いてほしいじゃん」
項垂れるようにもたれてくるポプルスを無視して、定員を呼んだ。
青い顔をしている店員に、お勧めを尋ね、「カ、カ、カキーです」と言われた。
牡蠣のこと? だよね?
私は好きだけど、あの見た目だからなぁ。
まぁ、でも滅多に食べられるものじゃないからチャレンジあるのみよね。
牡蠣はもちろん、ホタテなどの貝類にタコとイカ、エビを頼んだ。
運ばれてくる食材たちにポプルスたち3人は物珍しさに顔を輝かせ、タコやイカが焼かれて踊る姿に「おお」と声を上げていた。
「これがそんなに楽しいの?」
「はい。こんな風にくねくねするなんて面白いです」
アスワドさんの素朴な疑問に、アピオスが視線を上げて笑顔で答えた。
カッシアは、興味津々な瞳を踊り焼きから外せないようだ。
「アピオス、カッシア。危ないから食べたいものは自分たちで取らずに、私やシーニーに言ってね」
席に案内されても座らなかったシーニーが、サッと2人の側に立った。
仕事がなくて手持ちぶたさだったかのように、手早くタコやイカをお皿に乗せている。
新鮮なので、タコやイカは炙るくらいでも食べられる。
「あ、シーニー。僕たちよりも先にアスワド様にお願いします」
「私は1人で取れるわよ」
「ごめんなさい。ただシャホル様は食べることが大好きだから、アスワド様もそうなのかなと思って。それに、ここまで案内してくれたのはアスワド様なので、僕たちが先に食べるのは違うような気がしたんです」
ええ子や。ホンマにアピオスは気を使えるええ子や。
嬉し恥ずかしそうに「そ、そういうことなら食べてあげるわ」と、シーニーからお皿を受け取るアスワドさんにもほっこりする。
特に喧嘩や言い争いもない朗らかな昼食が過ぎ、お店を出る時には店員は怯えることなく接客をしてくれるようになっていた。
昼食後は、貝殻で雑貨を作っているというお店や昆布や鰹の乾物屋に寄ったり、塩アイスを食べたりした。
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