76 ガーデニア国へ出発
シーニーに旅行に行こうと伝えた日の夕食時に、ポプルスたちにも話した。
勉強をはじめて半年毎に2週間の長期休暇をとって、みんなで旅行に行こうと提案すると、旅行部分ではものすっごく喜んでくれたが、半年毎の長期休暇にはキョトンとされた。
どうしてこんなにも休みの概念がないのか、逆に首を傾げたくなる。
旅行に行くためには数日必要なこと、半年頑張っている自分を労うためには休みが1日じゃ足りないこと、また頑張るために自由時間は大切なことだと熱弁し、不思議そうにされながらも頷いてもらえた。
そして、今日、先週提案した旅行出発日になった。
アピオスとカッシアにはリュックを渡し、着替え等をシーニー監修の元、荷造りしてもらっている。
ちなみに、シーニーも2人とお揃いのリュックを背負っている。
ポプルスは斜めがけの鞄を肩にかけていて、私も似たような鞄を持っている。
ブラウたちに着替えは必要ないが、寝床となる親しんだクッションが必要らしく、シーニーがリュックに入れている。
「さぁ、ガーデニア国に行きましょう」
「「はい」」
魔法でみんなを浮かせ、高速飛行でガーデニア国を目指す。
道中、ポプルスが色んな場所を指して、アピオスやカッシアに説明をしていた。
2人は楽しそうに聞いていて、「あれは?」と気になった建物を質問したりしている。
なぜ旅行先を開戦前のガーデニア国にしたのかというと、ガーデニア国には海があるからだ。
海だけを目指すのなら国が建っていない森や崖や砂浜等に向かえばいいのだが、(結界を張れば魔物に襲われる心配はないので、案としても上がった)、でもキャンプよりも港町で美味しいものを食べたいし、ベッドで眠りたいという欲からガーデニア国になったのだ。
アピオスとカッシアもだが、ポプルスも海は見たことがないと言っていたので、この旅行で海を体験し、新鮮な魚介類を食べてほしいと思っている。
シーニーが考えてくれる献立は飽きがないように充実していて、食卓に川魚や貝が上がることはある。
だから、魚は食べられている。
でも、海の幸を食べたいし、みんなにも食べてほしいのだ。
お刺身あるかなぁ。タコもイカも食べたいなぁ。
他にもサザエやアワビやホタテとかさ。
あったらいいよねぇ。
ちなみに、シーニーたちも一緒に行くので、今日は変装というか髪や瞳の色を変えていない。
宿の予約はブラウが取りに行ってくれたので、先方には強欲の魔女が泊まりに行くことは伝わっている。
それに、難癖つけられないようにアスワドさんに手紙を送っている。
ガーデニア国はアスワドさんが結界を張っている国だし、此度の戦争でも指揮官として同行するほどの仲なのだ。
アスワドさんにお伺いを立てておかないと、勝手に侵入してくるなと怒られる可能性が高い。
後、きちんと銀色と金色の人間も一緒だということも記しておいた。
ポプルスを急に殺されても、アピオスたちを誘拐されても、先に伝えておかないことには「知らなかった」とシラを切られるかもしれないからだ。
怒った私を悪者にされたら困るし、保険として金色はシャホルさんのお気に入りと添えている。
まぁ、アスワドさんが探している珍しい色がアピオスたちとは限らないが、念には念をというやつだ。
アスワドさんからは「いい」とも「だめ」とも返事はない。
だから、勝手に「どうでもいい」と解釈をして、旅行先を変えずにガーデニア国にした。
という訳なんだけど、どうしてこうなった?
「本当に遅いわね。待ちくたびれたじゃない」
先に荷物を預けてから観光をしようと思ってホテルに着いたら、受付があるロビーでアスワドさんがジュースを飲みながら待っていたのだ。
ポプルスたち3人は、初めて会う魔女の登場に目を点にしている。
「アスワドさん、えっと、どうされたんですか?」
「は? ノワール、あなたが手紙を送ってきたんでしょ」
「えっと、はい、そうですね。今日から1週間ガーデニア国で遊ばせていただきますって送りました」
大きく頷かれるが、私は全くもって理解できない。
「私も一緒に遊んであげるわ」
ん? んん? どうしてそうなった?
「あなた、この国初めてでしょ?」
「あ、はい。ですので、海や海の幸を楽しみにしてきました」
「そうよね。私も大好きよ」
うん、だから、なに?
あれか? 私の手紙を読んで、自分も一緒に遊びたくなったってことか?
でも、一緒に遊びたいって言うのは嫌なんだな。
だから、遊んであげるなんだろうな。
「ノワールちゃん、あのかっわいい子も魔女だよね?」
あれ? ポプルスってば、もう私以外に可愛いって言わないとかなんとか言ってなかったっけ?
まぁ、アスワドさんが可愛いのは本当だから、どっちでもいっか。
「そうよ。嫉妬の魔女のアスワドさんよ。失礼なことしないでね」
「しないよ。ただ本当に魔女ってみんな可愛いんだってビックリしたの」
「は? そこの銀色、あなた死にたいの?」
「え? どうして?」
あー、やだ。深いため息を吐きそう。
「私が誰よりも可愛いのよ。だから、ふざけたこと言わないで」
「確かにアスワドちゃんは可愛いけど、俺はノ……ったい! ノワールちゃん、なんで殴るの?」
ポプルスを睨んで、胸を指で突っつく。
「いい? 誰よりもアスワドさんが可愛いの。分かった?」
「えー、俺はノ……痛いよー! 分かったから叩かないで!」
泣き真似をするポプルスを無視して、オロオロしているアピオスとカッシアの背中に手を添えた。
「2人は挨拶しましょうね」
笑顔で頷く2人を見て、挨拶をしていいのかどうか悩んでいたんだと分かった。
アピオスとカッシアは手を繋いでアスワドさんに数歩近づき、笑顔で頭を下げている。
「アピオスです。よろしくお願いします」
「カッシアです。一緒に遊べるんだよね? 嬉しい……えっと、です!」
アスワドさんは顔を上げた2人の頭から足の先まで視線を動かしてから、アピオスを見つめた。
「ノワール。シャホルさんのお気に入りはどっち?」
「2人ともです」
「そう、分かったわ」
あー、シャホルさん。ありがとうございます!
こんなにも行く先々で、シャホルさんの名前に助けられるとは思っていませんでした。
本当、感謝で涙が出そうだよ。
「それと、そこの銀色だけど」
「俺、ポプルス。よろしくね」
アスワドさんが鋭くした瞳に、心臓がバクバクする。
とりあえず、いざという時は結界を張ろう。
「貴様はこの世で一番嫌いな色をしているわ。死にたくなければ私に話しかけないで」
「えー……俺、シャホルちゃんにも嫌われてるのに、アスワドちゃんにも嫌われるの? 悲しい」
問答無用で殺されないだけマシでしょうよ。
「アスワドさん、本当に申し訳ないんですけど、荷物を部屋に置きに行かせてください」
「何を言っているのよ。そんなの運ばせればいいでしょ」
遠巻きに話に聞き耳を立てていただろうホテルの従業員の人たちが、ささっとやってきた。
深くお辞儀をしてくる姿に、「これ断ったらダメなやつだな」と荷物を預けることにした。
15分ほど部屋で休憩したかったけど仕方ない。
それに、やっと笑顔で頷いたアスワドさんに、早く遊びに行きたいんだと分かり、はちゃめちゃな展開なのに笑みが溢れそうになる。
アスワドさんは、確かに嫉妬深いし上から目線だし我儘だ。
でも、もしかしたらシャホルさんみたいに交流できるかもしれない。
自分が笑ってしまったことに気づいて咳払いをして誤魔化すアスワドさんを見て、そんな気がした。
今日からルンルン気分で投稿を再開する予定でしたが、あらびっくり! ストックを貯めることができませんでした_:(´ཀ`」 ∠):
ですので、月曜・木曜の12時に1話のみ投稿に変更します。
そのうち2話ずつ更新に戻れるように頑張ります(観測的希望)。
こんなマイペースな作者ですが、皆様今年も何卒よろしくお願いいたします。




