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73 怒り

胸を痛ませていたはずなのに、いつの間にか眠ってしまっていたようで、起きたら目が赤いポプルスと視線がぶつかった。

明らかに泣いていましたという顔をしているのに、柔らかく微笑んでくる。


「おはよう」


「おはよう。目が赤いけど、どうしたの?」


「赤い? 本当? ずっとノワールちゃんを見ていたから赤いのかも」


「怖いし、気持ち悪いわね」


「ひどい! 喜んでくれたっていいのに!」


いつも通りの軽口ようで、やっぱりポプルスはどこか悲壮感を纏っている。


「ねぇ、ノワールちゃん」


「なに? というか、そろそろ起きるわよ」


「髪の毛ちょうだい」


呆れたように小さく息を吐き出した。


「この前のやり取りを、またするの? 本当に面倒くさいわね」


「ううん。そうじゃなくて、髪の毛もらえたら俺と別れていいよ」


綺麗に微笑まれて、悲しいというよりムカついてきた。


「分かったわ。私が別れたいと思った時にあげるわ。その時になって追い縋らないでね」


「え?」


驚いているポプルスの腕を退けて起き上がると、ポプルスも動揺しながら体を起こしている。

ベッドから降り、体をほぐすように伸ばした時、困惑していると分かる声で話しかけられた。


「ノワールちゃん……俺と別れられるチャンスなんだよ? それを棒に振るの?」


冷めた瞳でポプルスを見やる。


「ポプルス」


名前を呼びながら手招きすると、吸い寄せられるようにポプルスが近づいてきた。

瞳を揺らしているポプルスににっこりと微笑んで、勢いよく頬を叩いてやった。

乾いた音が部屋を支配する。

そして、顔を伸ばし頬に手を当てているポプルスの胸ぐらを掴んだ。


「私の行動にケチをつけるなんて、あなた何様のつもり?」


「……だって、ノワールちゃん、俺のこと鬱陶しいんでしょう?」


「そうね。ものすっごく面倒くさいし、めちゃくちゃ鬱陶しいわ」


「そこまで言わな――


掴んでいる胸ぐらを引っ張って、ポプルスに抗議させないようキスをした。

目を見開かせながら見てくるポプルスの視線を、射抜くような鋭い瞳で受け入れる。


私は怒っているのよ。

ルクリアのことを話してもらえなかったことにも、きっと私よりもルクリアを好きなんだろうことにも、私の髪の毛を受け取ったら姿を消そうと考えているだろうことにも、私をネーロさんより弱いと思っていることにも、全部全部怒っているのよ。


「……ノワールちゃん、なに? どうしたの?」


「ポプルス、あなたはもう私のものなの。髪の毛1本、涙1粒、血1滴さえ、あなたのものじゃなくて私のものなのよ。あなたが生きている間も死んだ後もそれは変わらないの。そして、あなたは生きている限り、私を喜ばせ続けなければいけないの。分かった?」


唇を結び瞳を潤ませたポプルスが、腕を震わせながら抱きついてきた。


「ノワールちゃん……でも、俺……」


「なに? はっきり言いなさいよ。鬱陶しいわね」


「……俺、ノワールちゃんを失ったら生きていけない。だから、ノワールちゃんを失いたくない」


「どうしてそんな考えになるのよ。まぁ、あり得ないことだけど、もし私が死んだら、その時にポプルスも死ねばいいじゃない。というか、死になさい。私のものだけが生きている必要ないわ」


「なにそれ、ふふふ」


どこかおかしそうに笑い、でも縋るように腕に力を込めるポプルスの頭を撫でる。


「あなたは強欲の魔女ノワールの持ち物よ。あなたを生かすも殺すも実験体にできるのも私だけよ。いい? あなたの意志は関係ない。私の命令に従っていなさい」


「嬉しいけど、全部は聞けないよ。だって、今キスしたいんだもん。許してくれる?」


「許さないわよ」


「ええ? 今の流れって、どエロいキスをしてベッドに戻るとこだよー」


体を離して両肩を掴んでくるポプルスに白けた視線を向けるが、ポプルスは頬を膨らませながら唇横にキスをしてきた。


「ねぇ、いいよね? お願い」


戯れるように顔中にキスを落とそうとしてくるので、思いっきり足を踏んでやった。

声にならない声を出し、足を触りながらベッドに1人倒れ込んだポプルスが、眉尻を下げた顔で見てくる。


「しないって言ったでしょ。本当にそういうところ直しなさいよ」


「もう大人になっちゃったから無理だよ。それに、ノワールちゃんが可愛すぎるせいなんだからね」


「あー、やだわ」


吐き捨てるように言い、昨夜ソファに置いた服に着替える。


「ポプルス」


「んー、なにー?」


大の字で寝転がり、天井を見ているポプルスの表情は窺えない。


「あなたが死ぬ時に髪の毛をあげるわ。だから、死ぬ時は私の側にいるのよ」


「……うん、ありがとう。俺、ノワールちゃんの持ち物になれて幸せだよ」


「本当バカよね」


着替え終わると、ポプルスの腕を引っ張って起こし、支度させた。

着替えている合間に「ノワールちゃん、好きだよ」と囁かれ、「知ってるわよ」と返しておいた。


キスをされる時は何も思わなかったのに、「好きだ」と言われると胸が苦しくなった。


ポプルスの好きを疑っているわけじゃない。

でも、やっぱり自分が1番じゃないことや、戦う相手がもういない人物ということに、口に苦いものが広がっていた。




来週から一旦ほのぼのした回が戻ってくる予定です。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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