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70 嫌われ者

「チェルナー、いや、カーラーと呼んだ方がいいか?」


恐れも怯えも動揺も感じられない、しっかりとした声がグースから放たれた。


「好きな方でよろしくってよ」


「じゃあ、ノワールに合わせて、ここではカーラーと呼ばせてもらう」


カーラーさんが微笑みながら頷き、グースもまたゆるく顔を縦に動かした。


「どうしてポプルスを狙うんだ? ポプルスに何がある?」


「グース、そんなことより俺としては、どうしてグースに協力してくれたのかの方が気になるんだけど」


「それはお前の番になった時に聞けばいいだろ?」


「俺のことは俺の時に聞くから、グースは自分のことを気にしなよ」


言い合いをはじめた2人に2人の足を同時に叩いてみようかなと思いついた時、カーラーさんが小さく笑った。


「特別に両方答えてあげるわ。だからね、ポプルス。あなたがノワールの物になったという証明を何かくれないかしら?」


「証明? んー、証明かぁ。ここでキスするとかでいいなら全然するんだけど、渡せるものって無いかなぁ。ねぇ、ノワールちゃん、何かある?」


「無いわよ。それに、キスもしないわよ」


「いいじゃん、キスくらい」


「嫌よ」


まぁ、キスするしないなんてどうでもいいのよ。

問題は、どうしてそんな証明が欲しいのかよ。


「カーラーさん、そんな証明をどうするんですか?」


「決まっているでしょ。気に食わない魔女に見せるのよ」


「気に食わない魔女?」


カーラーさんに呆れたように息を吐き出される。

分からないことを責められてもどうしようもない。

本当に誰のことなのか想像すらできないのだから。


「シャホルさんから聞いていないのかしら? あの人なら知らないことなんてないと思うわよ」


「私が生まれる前のことは教えてくれますが、生まれてからのことは調べられるだろと話してくれません」


「そう、きちんと一線は引いているのね」


「はい。ですので、自分の足で尋ねてみようと思ったんです。カーラーさんはグースと特別な仲のようですから、犯人じゃない場合でも何か知っているんじゃないかと思って」


カーラーさんは瞳を三日月にしている。

きっと扇子で隠している口元も弧を描いているのだろう。


「最近退屈していたのよね。あなたがアレを泣かせてくれるなら協力するわよ」


「アレですか? 魔女の1人なんですよね?」


「アレで十分よ。あなた以外全員嫌いだと思うわよ」


え? そんな嫌われ者がいるの?

魔女同士交流がないと思っていたのは私の思い込みなだけで、みんなそれなりに交流していたのね。


「まぁ、それでね。グースに協力をしたのはただ単にグースの体を気に入ったというのが半分、ポプルスを目の届く範囲に置いておきたかったというのが半分ね」


「グースの体に惚れたから、あそこまで協力をしたんですか?」


「そうねぇ、たぶんね。私自身ここまで気に入るとは思っていなかったから、よく分からないわ」


少し悲しそうに微笑んだカーラーさんを見て、本当は体云々ではなく本気で惚れているんじゃないだろうかと思った。

でも、自分が好きなことを、ましてや愛してしまっていたとしたら、それらを言いたくはないんだろう。

魔女に愛されたとなれば、魔女を殺すことができる。

信用したくても殺されるかもしれない恐怖が付き纏うことになる。


それに、魔女を最後まで愛してくれる人間がいるとは思っていない。

どうせは捨てられる。

そう心に根付いていて、気持ちを打ち明けることも、認めることもしたくないんだろう。

でも、だからといって諦められるわけでもないから側にいることを選んでいるんだと思う。


グースが何を感じとったのかは分からないが、柔らかい笑みをカーラーさんに向けた。


「俺を気に入ってくれているのは単純に嬉しいよ。それだけでここまで協力をしてくれてありがとう、カーラー」


「いいのよ。私が抱いてほしい時に甘く溶かしてくれればね」


「ああ、任せてくれ」


これも1つの形ってことでいいんだろうなぁ。

グースがカーラーさんを恋愛の意味で好きじゃないにしても、2人が恋人のような関係であることは変わりないんだし。

まぁ、そういう風に伝えると「違う」って訂正されるだろうから言わないけどね。


でもさ、もしグースに好きな人や結婚相手ができたらカーラーさんとの夜の関係は終わるんじゃないのかな?

そうしたら、立ち位置が変わるわけでしょ。

カーラーさん怒らない? 大丈夫なの?


そう考えると、本当にこのままでいいのかなぁとは思うけど、カーラーさんは明確に好きだと言っているわけじゃないもんね。

私の考えだけで口を挟むのは違うだろうからなぁ。

それに、なるようにしかならないんだし、気にしないでおくのが1番だな。

うん、恋愛事に巻き込まれるのが、1番面倒臭いからね。


「ふふ、本当にグースのことは半分なのよ。それなのに得をした気分だわ」


カーラーさんの独り言だと思う呟きに、ポプルスが反応した。


「それって、さっき言った俺を目の届く範囲にってことだよね? どうして? 俺、珍しいだけじゃないの?」


「珍しいだけだったのよ、本来はね」


「どういうこと?」


「心底嫌いな魔女があなたを好きなのよ。面白いでしょ」


おかしそうに瞳を細めたカーラーさんに、目を点にしてしまった。


シャホルさんが言っていた魔女の執着心が、ポプルスへの恋心のことだとしたら?

でも、そこまで好きなら、どうして今頃になってなんだろう?

欲しいと思った時に手に入れればよかったはずなのに。

それなのに、どうして行動していないんだろう?


答えを求めれば求めるほど、疑問が増えていく気がしてならない。




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