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6 奴隷紋

やっと帰れると喜びながら帰路についていると、城下町を越えるくらいのところで、物凄い速さで飛んできた青い鳥にぶつかられた。

痛くはないが、心臓が止まると思うほどびっくりした。


「ノワールさまぁ! お久しぶりですぅ!」


「驚かせないでよ、ブラウ」


ノワールの眷属である青い鳥のブラウは、綺麗な藍色の小さな瞳を見開かせた。


「まぁ! ノワール様が話してくださってますわぁ!」


「研究の副産物で性格が変わったのよ。受け入れてね」


「もちろんですわぁ。嬉しい変化ですものぉ」


パタパタと羽を激しく動かして喜びを表しながら、私の周りを飛んでいる。

ブラウの進行方向に手を差し込み、動きを止めてから、首を傾げるブラウの頭を撫でた。

幸せそうに瞳を細めるブラウに、私の頬も緩む。


「ブラウも一緒に帰ろっか」


「はいですぅ」


再び動きだそうとした時、奴隷の少年ケナフが急に苦しみだした。

一驚しながら見ると、息を詰まらせながら首を押さえている。

手をあてているだけだが、聞こえてくる呼吸音では自分で首を締め付けているように感じる。


「え? どうしたの?」


「ノワール様が籠もられてからですかねぇ。奴隷紋が改良されて、契約者からある程度離れると死んでしまうんですよぉ。離れなくても、死ねという命令もできるそうですよぉ」


「ええ? なにそれ、ひどい」


離れられる距離を越えたからか、はたまた王様か王女が死ぬように命令を下したのかは不明だが、奴隷紋が理由だということは分かった。

ならば、解除すればいいだけのこと。


ノワールは、魔法や魔術において勤勉というより、自分が知らないモノがあることが許せない性格だった。

その上、私と融合して魔力量を増やしたことで、どんな魔法や魔術にも対応できる魔力を有するようになった。


手のひらをケナフに向けて『サキテシ』と唱えると、ケナフの首周りが淡く青色に光りだし、黒色で奴隷紋の術式が浮かびあがる。


「うわー、複雑すぎる」


「編み出したのはネーロ様ですわぁ。レーマンニア国王からの依頼だったと思いますぅ」


この世界には7人の魔女がいて、ノワールもネーロもその1人になる。

ノワールは強欲の魔女、ネーロは傲慢の魔女。

魔女は全員黒目黒髪で、魔女以外で黒を持つ者はいない。


7人の魔女は、気に入った森にそれぞれ住んでいて、それぞれの国と結界を張るという契約をしている。

新しくできた国がクライスト国のみならば、この世界は8ヶ国になる。


元いた世界に比べて国が少ないのは、人が住める土地が限られているためだ。


「へぇ、ネーロさんがねぇ。凄いとは思うけど、こんなもの解除よ、解除。こんな紋ない方がいいしね。『サキヂロ』」


音階のソのような音が一定のリズムで鳴りはじめると、奴隷紋の術式が少しずつ青に染まっていく。

青一色になると、端からボロボロと崩れ落ち、粉になった光はそのまま消えていった。


術式の欠片までも綺麗に無くなると、ケナフの呼吸が落ち着いた。

気絶しているようで、力なくだらんと手足を投げた状態で浮かんでいる。


「さ、帰ってお茶にしよう」


頷くブラウと並んで飛び、森の中にある屋敷に戻ったのだった。


屋敷に戻ると、出迎えてくれたシーニーにケナフを任せ、ノワールは庭でお茶をした。

どこのお金持ち貴族だと思うような庭とガーデンテーブルやガーデンチェアに、「贅沢だー」と羽を伸ばす。

ブラウは、テーブルの上で小皿に入っている水を飲んでいる。


こんなにのんびりしたのって、初めてかもー。

スローライフってやつに憧れていたけど、私は忙しない性格をしてるからねぇ。

アレもコレも、あそこもこっちもって、ついつい動き回っちゃうんだよね。

まぁ、緑に癒しを求める日常を送っていたわけじゃないしね。


どっちかっていうと、映画のモデルになったらしい景色を見に旅行して、旅先を満喫してたからなぁ。

それが森やら滝やら旅館やらの時だけ、「これが癒しか」って感じになってたとは思う。

だから、スローライフいいかも脳になってたんだよね。


この世界娯楽が少なそうだから、スローライフにチャレンジしてもいいかも。


太陽を浴び、ボーッと背もたれに体重を預けていると、おずおずとシーニーがやってきた。

肩を落とし、重たい雰囲気を纏っている。


「どうしたの?」


「あの、お世話を任せてもらった子供なんですが……目を覚ましたのでお風呂に入れようとしましたが、怪我が酷くてですね……もし、よろしければ治していただけないかなと思いまして……」


「うん、いいよ」


「よかったです! ありがとうございます!」


自分のことのように喜ぶなんて、シーニーは優しいな。


立ち上がりながらシーニーの頭を撫でると、シーニーは自身の両手で撫でられた頭を触りながらニヤけている。

素直で可愛い反応に、目も頬も垂れてしまう。

部屋に向かう道すがら、どんな怪我なのか尋ねてみた。


「擦り傷と打撲ですが、服の下に肌色はほとんどありませんでした」


やりきれない気持ちを、息と一緒に飲み込む。

城での王女の対応を見たから不思議ではない。

ただ暴力を振るわれるのは、あまりにも可哀想で理不尽なような気がしたのだ。


胸糞悪いなとしか思わないのは、珍しくノワールと私の意見が一致したんだろうな。


「それと、状況が分かっていないようでしたので、簡単に説明しました」


「そっか、ありがとう」


嬉しそうに口元を緩ませるシーニーは、かすかにスキップしているように見えた。




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