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66 裏切りたくない

翌日、シャホルさんに「魔法を教えているんだろ? 見せてみろ」と言われ、急遽授業の日程を変更した。

スイーツを食べながら終始楽しげに眺めていたシャホルさんは、「貴様は心配性だな。どんな魔法でも使い手次第だ。選ぶな」と言って、大量の食材と共に帰って行った。


夜のことをアピオスとカッシアに問うと、「難しい本を読んでくれた」と教えてくれた。

「昔、自然と話せる人がいて治癒魔法に優れていたんだって。その人はとても美人で、どんなに小さな怪我でも重たい病気でも治せるのならと、たくさんの人を治す優しい人だったの。それにね、人だけじゃなくて木や水や土にも治癒魔法が使えたんだって。でも、そのせいでその人を欲しいって人が出てきたんだけど断ったんだって。そしたら、自分のものにならないのならって殺されちゃったの。だから、自然が怒って、水が全てを流すほどの嵐が続いたっていう本」とのことだった。


「え? その後はどうなったの?」


「それで、お話は終わりました。シャホル様が言うには、『恩恵の素晴らしさが分からず欲の深さが招いた結果で、身の丈に合わない欲はかくべきではない』という教本だそうです」


「そっか。大切なことだね」


そう返したが、「そんな本、家にあったっけ?」と不思議で仕方なく、シーニーに尋ねても「見たことありません」と答えられた。

しかも、「魔女が欲深さを説くとはどういうことだろう?」と謎が深くなった。


そして更に翌日、アピオスたちが就寝するのを待ってから、ポプルスとクライスト国に赴いた。

「帰って来なかったら1泊したと思ってくれたらいいわ」とシーニーに伝えている。

シーニーに「一緒に行きます」と懇願されたけど、留守中にもしもがある方が怖いので、アピオスたちの側にいてほしいとお願いをした。

唇を引き結んだシーニーが、バングルのお礼に密かに作っていたというお守りを渡してきてくれたので、肌身離さず持っていることを約束している。


「こんな時間に来るなんて夜這いか?」


ポプルスの案内で、窓から直接グースの部屋に入った。

ちょうど入浴を済ませたところだったらしく、裸のグースと出会したのだ。


「違うしー。それに、ノワールちゃんに汚いもの見せたくないから隠してよ」


「ああ、悪かったな」


「どっちでもいいわよ。ただやっぱりお――


「ノワールちゃん、男が喜びそうな感想言おうとしないで。それに俺の方が立派なのに言ってもらったことないよ」


「どっちもどっちよ」


「負けてないならいいか」


「俺はよくないよ。グースに勝てるところ1つもないじゃん」


グースは、肩を揺らして笑いながらソファの背もたれにかけていたガウンを着ている。

頬を膨らませた顔をわざと近づけてくるポプルスを鬱陶しそうに見てから、サラサラと流れるポプルスの髪を触った。


「髪の毛は勝っているわよ。ポプルスより綺麗な髪、見たことないもの」


「やったー。うっれしー」


「よかったな。それより、ウイスキーでいいか?」


「飲めるなら何でもいいよ」


上機嫌のポプルスとソファに座り、グースは3人分のコップとウイスキーの瓶を机に置いてから向かい側に腰をかけている。

ポプルスとグースがお互いに入れ合い、私の分はポプルスが入れてくれた。


「で、こんな時間にどうしたんだ? 飲みに来たわけじゃないだろ?」


「俺はノワールちゃんの付き添いだよ」


グースの視線が、私に向いた。

引っ張るものでもないので、さくっと伝える。


「魔道具師は色欲の魔女のカーラーさんよ。どうしてグースを手助けしているかは分からないわ。だから、今から聞きに行こうと思ってるの」


「ちょっと待て」

「待ってよー」


2人から同時に待つように言われたので、とりあえず口を閉じることにした。

ポプルスとグースを交互に見ていると、今度は2人同時に息を吐き出している。


「ノワールちゃん、本当に待って。チェルナーが魔女って話は聞いていたけど、会いに行くなんて初耳だよ。どうして言ってくれなかったの?」


「ポプルス。お前の気持ちは分かるが、俺的には俺を連れて行ってもらえるのかどうかを確認したい」


「ダメに決まってんじゃん。グースは王なんだから行くなら俺が行ってくるよ」


「いや、王だからこそだ。それに、知りたいんだ。どうしてここまでしてくれるのかを」


真剣な顔を突き合わせて話している2人の間に、視界を遮るように手を突っ込んだ。

前のめりになりつつあった2人は、体から力を抜いて腰を深くしている。


「グース、意外に落ち着いているのね。相手は魔女よ」


「ノワールに『魔女の可能性が高い』と言われてから、すでに魔女だと思っていた。今更、驚かねぇよ」


「そう。でも、これは驚くんじゃない。色欲の魔女は交わった相手を操れるのよ」


目の前のグースは、わずかに顔を伸ばした。

隣のポプルスからは息を飲み込む音が聞こえたので、グース同様一驚しているんだと分かる。


「どのタイミングでグースを操りたいのかは分からないわ。もしかしたら、本気でグースに惚れているだけかもしれないしね。ただ2人は命を握られている。それは分かっていてほしいの」


ポプルスは解けているが、あえて教えるつもりはない。

だって、グースと関係をもつつもりはないのだから、ポプルスが自分自身を苦しめることになることは言わなくていい。


グースと寝てほしいと言われれば交わることはできる。

でも、それはポプルスと付き合っていなかった場合の選択肢で、いくら命がかかっていようがポプルスを裏切るような行為はしたくない。


だが、解く方法があると知れば、どんなに嫌だと思ってもポプルスは我慢をしてお願いをしてくるだろう。

ポプルスにとって、親愛している人たちの命よりも大切なものはないだろうから。




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