63 楽しい会話
目は覚めたが、体がダルくて瞼を開けたくない。
このまま2度寝したいと思い、ゴロンと寝返りを打った。
「ねぇ」
ポプルスの声が聞こえる。
「起きたよね?」
そういえば昨日魔法式を書き換えたせいで、自室に戻るのが面倒臭くてポプルスのベッドで眠ったんだった。
「ノワールちゃん、起きて。俺と話をしよう」
「……うるさい」
「うるさいじゃないよ。俺、結構怒ってるよ」
怒っているという割には緩く頬を突いてきたり、髪の毛をすくように撫でてきたりと、手つきは優しい。
「私、まだ魔力が回復してなくてしんどいの。邪魔しないで」
「ええ? なに!? 何があったの? 怪我してない? ねぇ、大丈夫だったの?」
「うるさい!」
唇を触ってきたので、ポプルスの指を思いっきり噛んでやった。
不満気に睨むと、ポプルスは悲しそうに眉尻を下げている。
「痛いよ」
「痛いように噛んだのよ」
私が噛んだ指を舐めたポプルスは、「おはよう」と微笑みながらキスをしてきた。
「怒ってないじゃない」
「怒ってるよ。今回ばかりはノワールちゃんが泣いて謝っても許してあげないんだから」
「別にいいわよ。謝らないし」
欠伸をしながら起き上がると、ポプルスも体を起こしてきた。
そして、すかさず頬にキスをしてくる。
「違うよー。そこは、『どうしたら許してくれる?』『ノワールちゃんから愛情たっぷりのキスがないと無理かな』『分かった。これでいい』って仲直りするところー」
いつだったかパランのモノマネが上手だとは思ったけど、私のモノマネまで完璧だなんて。
しかも、1人2役までするなんて……世が世ならモノマネ大賞とかで天下取れるんじゃないかな。
「キスすればいいの?」
「違う、そうじゃない」
くぅ! ここが異世界じゃなきゃ歌うところなのに。
いや、でも喧嘩の時に歌うと、もれなく大炎上してたから止めておこう。
ポプルスはキレたりしないだろうけど、感情的に言い合うのはしんどいからやりたくない。
って、分かっているのに何回か歌っちゃったんだから、私ってダメな人間だわ。
ん? 今、歌わずに済んだのってノワールと融合したからってこと?
ありがとう、ノワール。融合がノワールで本当によかったよ。
「ねぇ、ノワールちゃん。俺、本当に心配したんだよ。気づいたらベッドの上で驚いたし、横でノワールちゃんが苦しそうに寝てて気が気じゃなかった。ノワールちゃんが強いって分かってても不安になるの。だから、ノワールちゃんに触れて生きているって実感したいの」
頬を撫でられ、真剣に見つめられる。
ポプルスの顔が近づいてきたから手で押し返した。
「もー! なーんーでー!」
「だから、私、本当にしんどいの。動けそうにないから、また今度ね」
「ヤろうとしてないよ。キスだけだよ」
「それも、また今度」
拗ねるかな? と思ったけど、ポプルスは心配そうな顔をしながらおでこや首を触ってきた。
「眠っている時も触診したけど熱はないよ。魔力切れ? っていうの? それは、病気とはまた違うんだよね? 何か俺にできることはある?」
「ないわ。自然に戻るのを待つだけ。ポプルスもどれだけ使えば魔力切れするか試しておかなきゃだよ。家で起こるならいいけど、外だと危険だからね」
「そうだね。アピオスたちにも伝えておくよ。でも、今は俺らのことより、ノワールちゃんが昨日何をしたのかだよ。魔力切れを起こすほどのことがクライスト国であったってことだよね? やっぱり魔道具師のチェルナーが魔女で戦ったの?」
「昨日グースと一緒にいたのが例の魔道具師なら、彼女は色欲の魔女のカーラーさんよ。でも、見つかっていないから戦っていないわ。魔女かどうか確認しに行っただけで、すぐに帰ってきたもの」
「じゃあ、どうして魔力切れなんて起こしているの? もしかして、結界をさらに強化したとか? 大丈夫なの? ノワールちゃんの負担になってない?」
心許なさそうに聞いてくるポプルスの手を握った。
「本当に何かあったわけじゃないから安心して。ちょっと珍しい魔法を使ったら、思いの外魔力が必要だっただけよ」
「珍しい魔法?」
「ちょっとね。まだ秘密」
「どうして?」
「秘密ったら秘密なの」
空いている方の手でポプルスの鼻を摘むと、自分から顔を左右に動かしてきた。
手を離して「本当、馬鹿なんだから」と小さく笑うと、微笑んだポプルスが繋いでいる方の手にキスを落としてくる。
「分かったよ。もう魔法のことは聞かない。色欲の魔女のカーラーさんのことを教えて」
「教えてって言われても、私が逆に教えてほしいわよ。ポプルスってカーラーさんと寝たことあるんでしょ? 何回寝たの?」
「い、いやぁ、ね、寝たかなぁ? どうかなぁ?」
「そういうのはいいから。昔のことで怒ったりしないわ」
「そう? んじゃ、正直に言うけど、何回ヤったかは覚えてない。両手両足で足りるくらいだとは思う」
思っていたよりしてるわね。
しかも、その回数で特殊魔法をかけていないとかある?
「本当に怒ってない?」
「怒ってないわ」
「怒ってくれていいんだよ。むしろ嫉妬してほしいんだよ」
「嫌よ。面倒臭い」
「もう! ノワールちゃんはいつもいつも俺の欲しい反応をくれない!」
「分かったわ。不満があるのなら距離を置き――
「ないよ! 怒られなくて本当によかった。昔のこと怒られても何もできないもん」
「ったく」
ペチッとポプルスのおでこを叩き、やれやれという風に息を吐き出すと、ポプルスは可笑そうに笑っている。
「色欲の魔女に注意することってある? グースたちに教えてあげたいんだ」
「体を重ねないことだけど、これに関してはもうしちゃってると思うから、どうしようもないのよね」
「あー、うん、そうだね。グースは大のお気に入りだからね」
「後は他の魔女と一緒よ。怒らせないこと」
「そこに関しては問題ないと思うから、色欲の魔女だって教えるだけでいいか」
「そうね。元気になったらグースに会いに行こうと思っているしね」
突然勢いよくポプルスに両肩を掴まれた。
「俺も一緒に行くからね。絶対一緒に行くからね」
「浮気しないわよ」
「分かっているけど、俺も一緒に行くの」
「はいはい」
呆れたように言うと、にんまりと笑ったポプルスが目尻にキスをしてくる。
「ノワールちゃん、大好きだよ」
「聞き飽きた」
「新しい返し!」
なんでもかんでも楽しい会話にしてくれるポプルスに声を出して笑うと、ポプルスは幸せそうに頬を緩めて抱きしめてきたのだった。
このままラブラブだけが続けばいいのになぁ……いや、ほのぼの回も必要だった。←作者心の声が漏れる。
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