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60 日頃の感謝

「次は、ポプルスの『頑張ったで賞』ね」


「嬉しい。俺にもあるって信じてたよ」


組んだ両手を顎横に持っていき小首を傾げるポプルスに、ため息を吐いてしまった。


「なんで? 傷つくんだけど」


「ごめんごめん。アピオスとカッシアの可愛さからのポプルスだったから、なんだかなぁ感が強くて」


「ひっど! 俺、傷ついた! 目から血の涙出そう!」


「うるさいわねぇ。もうあげないわよ」


「ううん、いる。ごめんなさい。ください」


「ったく」


一連のやり取りを聞いていたアピオスとカッシアは、クスクスと笑っている。

そして、体を弾ませながら手を差し出してくるポプルスを見て、笑い声を大きくしている。


「はい、どうぞ。よく頑張りました」


「ありがとうございます」


持っている中くらいの紙袋の半分くらいの袋を、ポプルスに渡した。

大袈裟なくらい恭しく受け取っているのに、その姿が様になっていて、「これだから顔がいい奴は」とジト目で見てしまう。

ニヤけ顔で中身を取り出したポプルスは、私とプレゼントを交互に見てきた。


「俺にペットになれって言ってる?」


「そうよ」


「ワン」


「お座り!」


「ワン!」


本当に犬のようにお座りをするポプルスに、アピオスとカッシアはキョトンとした。

ただのノリでやってしまっただけだからこそ、2人の戸惑っている顔に胸が痛くなる。

それはポプルスも同じだったようで、「わざとだからね!」と慌てて立ち上がっていた。


「そう、ただの冗談よ。首輪じゃなくて当て布だから」


ポプルスが今首に巻いている黒い布を指すと、アピオスとカッシアは合点がいったというように数回頷いた。


そうよね。人間をペットなんて悪ノリしすぎたわ。

もしかしたら、奴隷だった時のことを思い出させてしまったかもしれないのに。

ダメダメな大人だわ。

ちゃんと人を傷つけない冗談を見極めないとね。


「これ、ホックがついてる。便利」


「毎日結ぶのは大変だと思ってね。それに、洋服と一緒でおしゃれしてもいいでしょ」


「うん、ありがとう。さっそく明日から付けるよ」


当て布にキスを落とすポプルスが幸せそうに微笑んでいて、今のところハズレなしのプレゼントたちに胸に安堵が広がる。

さて、後は静かにこの場を見守っている、シーニーへのプレゼントを渡すのみだ。


「シーニー」


笑顔で手招きすると、シーニーはすぐに側まで来てくれた。


「ノワール様、荷物を片付けてしまってよろしいんでしょうか?」


「違う違う。シーニーにも『いつもありがとう賞』があるの」


「え? わわわたしにですか?」


アピオスやカッシアは、他の子供に比べて群を抜いて可愛い。

でも、やっぱり素直すぎるシーニーが1番可愛くて、ほっこりさせてくれる。

今だって、瞳が落ちそうなほど目を見開いて慌てふためている。


泣きながら受け取ってくれるか、頑なに拒まれるかのどっちかと思っていたけど、後者だったか。


「そうよ」


「いいいいただけません!」


「シーニーのために用意したのよ。もらってくれないと悲しいわ」


「え、あ、でも、私はノワール様と一緒にいられるだけで十分ですので」


「私もシーニーといられて幸せよ。でも、それとこれとは別。だって、『いつもありがとう賞』という賞品なんだもの」


「で、でも……」


「遠慮しないで。ブラウとパランは受け取り済みよ」


何度も瞬きをするシーニーを笑うと、シーニーは恥ずかしそうに俯いた。

そして、小さく拳を振ってから顔を上げた。

すでに瞳は濡れている。


「いただきます」


「よかった。はい、シーニー。いつもありがとうね」


「はいっ」


大きな瞳から涙をボロボロと流しながら、シーニーは小さなプレゼントを受け取ってくれた。

袋を見つめてから抱きしめている。


「ありがとうございます。宝物です」


「うん、喜んでもらって嬉しい」


「私は幸せ者です」


うんうん。そう言ってもらえるなんて、私こそ幸せ者だよ。

でもね、シーニー。

中身を確認して欲しいなぁ。

シーニーならどんな物でも喜んでくれると思っているけど、これじゃないって思われて箪笥の肥やしになったら悲しいからさ。

いや、この世界はクローゼットか。

どっちでもいいけど、私の心の平穏のためにも中身を確かめてほしいなぁ。


「シーニーは何をもらったの?」


ナイス! カッシア!

無邪気に聞ける性格は、純粋な子供限定の最強の武器だよ。


誰よりもゆっくりと噛み締めるように開けたシーニーは、震える手で中から青い宝石が嵌め込まれている黒色のバングルを取り出した。


「うわー! シーニーのプレゼントも綺麗だね」


瞳を輝かせているカッシアとは正反対に、シーニーはバングルを持ったままずっと泣き続けている。


「シーニー、二の腕にはめてみて。手首だと家事をする時に邪魔かなと思って、二の腕に使えそうな腕輪にしてみたの。もし大きかったら魔法で調整するわ」


腕で涙を拭ったシーニーが、左の二の腕にバングルをはめた。

シーニーが執事のような格好をしていればネクタイピンやカフスなどの選択肢もあったが、シーニーはTシャツとズボンスタイルなので、それらの装飾品は使わない。

イヤリングと悩んだが、激しく動いても失くさないものと考えてバングルになったのだ。


「うん、似合ってるよ、シーニー」


「ぴったりです。ありがとうございます。もう2度と外しません」


「ありがとうが貯まったら、またプレゼントするよ。だから、その日の気分でつけてくれていいんだよ」


「はい。でも、2度と外しません」


こんなにも喜んでもらえるなら、1年に1度は何かプレゼントしてもいいかもなぁ。

うん。勝手に勤労感謝の日を決めて、みんなを労うことにしよう。

狸のカーちゃんと狐のキューちゃんには、会えた時に纏めて何を渡さないとな。

もうすぐっていっても、後数年あるけど、会えるからね。

早く会いたいなぁ。


アピオスたちのお互いもらったものを褒め合うという、私には嬉し恥ずかし空間が少し続き、勉強組と別れて遅めの昼食をとることにした。


「ノワール様、ブラウたちには何をあげたんですか?」


「ブラウにはリボンで、パランには寝床用のクッションよ。ランちゃんには香水を買ったわ。ブラウが『ランは花が好きなんですぅ』って教えてくれたから」


「それは喜びそうですね。体にはふれませんが、ランの巣にはふれますから」


「うん、ブラウも同じこと言ってたわ」


シーニーたち同様、きっと喜んでくれるだろうランちゃんを思い浮かべながら、料理を運んできてくれるシーニーを眺めていた。




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