59 プレゼント
ブラウと街で買い物をし、帰宅する途中で大気に大きな魔力を感じた。
アスワドがようやく結界を張ったんだと分かり、逆に今まで話し合いをしていたのかと少し呆れもした。
結界が消えている時間が長いほど、魔物の脅威は上がる。
分かりきっていることなのに、ここまで時間をかけるとは尻が重たすぎる気がする。
もう関わることもないからいっか。
この時は軽くそう思っていた。
帰宅すると、全員に出迎えられた。
ちょうど昼食が終わったところで、これから授業がはじまるそうだ。
「待って。副賞を買ってきたの。アピオスに今渡してもいい?」
アピオスが困惑したようにポプルスを見ると、ポプルスは柔らかく微笑んでアピオスの頭を撫でた。
「俺も気になって授業できそうにないから、先にもらっちゃお。だから、俺にも見せてね」
「はい!」
元気よく頷くアピオスの瞳は、期待に胸を躍らせていて輝いている。
喜んでもらえるのは嬉しいが、期待に応えられなかったからどうしようと少し緊張する。
「じゃあ、改めて、アピオス優勝おめでとう!」
「ありがとうございます!」
持っていた大きな紙袋を床に置いて渡すと、アピオスは丁寧に袋を開けて中を確認している。
どんな反応をするだろうと楽しみにしながら待っていると、アピオスは目を瞬かせて、首を傾げながら見てきた。
「あの……えっと……」
「ん? なになに? 俺にも見せて」
ポプルスが横から袋の中を覗き込み、「ええ!?」と声を上げた。
「マジで? ノワールちゃん、いくら使ったの?」
「そんなに使ってないわよ」
「は? え? だって、これって……」
「先生、これって何をする道具ですか?」
あ! そっか。
微妙な反応だったのは、何の道具か分からなかったからか。
初めて見るのね。
そりゃ分からないわよね。
「アピオス、これは薬を作る時に使う道具だよ」
ポプルスの言葉にようやく何か分かったアピオスは、勢いよく私を見てきた。
少しずつ潤んでいく瞳に、あげたのは私なのに自分の方が幸せをプレゼントしてもらった気持ちになる。
「大切に使います。ありがとうございます」
紙袋ごと抱きしめるアピオスの頭を撫でてから、優しく叩いた。
「ポプルスからオッケーが出たら薬の勉強をはじめましょうね」
「そうだなぁ。きちんと基礎はあった方がいいから、後半年は我慢してもらうことになるかな」
「僕、大丈夫です。しっかり勉強してから薬作りを頑張ります。大切な薬ですから」
「うん、その気持ちは大事なものだよ。薬は病気を治すために必要なものだけど、配合を間違えれば苦しめることもできる。責任を持って作れるよう、ちゃんと勉強しような」
「はい」
泣かないように我慢しながらも大きく頷くアピオスの顔には、幸せと希望が溢れている。
「お兄ちゃん、よかったね」
「うん。カッシアがいつしんどくなってもいいように、薬作れるように頑張るね」
「嬉しい。お兄ちゃん、ありがとう」
可愛い兄妹のほのぼの姿に目を垂らしそうになったが、まだ全ての目的を達成していないことを思い出しハッとした。
いかんいかん。今を逃すと渡しづらくなる。
アピオスを見習って、私もみんなに笑顔になってもらうんだから。
「カッシア。実はね、カッシアにも『頑張ったで賞』として賞品があるの」
「ええ!? いいの?」
「『頑張ったで賞』だもの。頑張った可愛い子はもらえるのよ」
「やったー!」
斜め前から穴が開きそうなほど見られているけど、今は無視無視。
きちんとポプルスの分もあるけど、先にカッシアよ。
「カッシア、よく頑張りました」
「ありがとうございます!」
カッシアは、元気な声でお礼を言った後、手のひらを上に向けて両手を差し出してきた。
ワクワクしていることが分かる面持ちに、吹き出してしまいそうになる。
中くらいの紙袋から小さな袋を取り出して、カッシアの両手のひらの上に乗せた。
先ほどのアピオス同様、ゆっくりと包装を剥がすのかと思ったが、カッシアはいそいそと開けている。
「こういうところって性格でるよねぇ」と、どうしても笑みを溢してしまう。
「可愛い! いいの!?」
カッシアにあげたのは、宝石の屑石が散りばめられている細いバレッタだ。
楕円形の大きいものは値段がはったが、この細いバレッタは本物の宝石を使っているのに良心的な値段だった。
購入時に「イミテーションじゃないのになぁ」と驚きを隠せなかった。
「きっと似合うわよ」
「お姉ちゃん、ありがとう。たいっっせつにするね」
その笑顔だけで、余は満足じゃよ。
本当に可愛いのう。
王城で可愛くない人たちを見た反動だろう。
いつもよりも2人を愛らしいと思う気持ちが大きいような気がする。
「ノワールちゃん?」
はいはい、分かってるよ。
大人しく待っていてくれてありがとう。




