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58 ポプルスは許せる

「ふーん。ノワール、あなたとグースはどういう関係なの?」


探るような視線を投げながら問うてくるアスワドさんに、冷静に返事をする。


「ただの仕事相手ってだけですよ。グースのことは好きですけど、恋愛感情の好きじゃありません」


「そう、特別な関係になるつもりはないのよね?」


「ありませんよ。話しやすいから、なったとしても飲み友達くらいだと思います」


「わたしは、あなたが人間のオスに熱をあげていると聞いたんだけど」


「誰からですか?」


「さぁね、覚えていないわ」


「魔女の後ろ盾を得たグースが周辺国を攻めようとしている、と言った人物と同じ人物ですか?」


「そうね、そうだったと思うわ」


「じゃあ、それ全部嘘ですよ。私が保護した人間はいますが、まだ子供ですので熱をあげるなんてことはしません。それに、グースは自国で手がいっぱいで他国に目を向ける余裕はありませんよ。結界があったので被害はゼロでしたが、この前なんて魔物の群れが押し寄せてきて対応に追われていましたしね」


「そうなのね。興味はないからどっちでもいいわ」


つまらなさそうに肩をすくめるアスワドさんに、おかしな点は見当たらない。

私とグースの話を同一人物から聞いたというのは、きっと事実なのだろう。

では、なぜその人物は、わざわざアスワドさんに嘘を伝えたのだろうか?


「そうだ、アスワドさん。エッショルチア国との戦争は、縁談が絡んでいるって本当なんですか?」


「本当よ。元々ガーデニアの王女とエッショルチアの王子は結婚間近だったのよ。それなのに、エッショルチアの王子が『真実の愛を見つけた』とか言い出して婚約は破棄になったんだけど、ガーデニアの王女とはやることやっちゃってたのよね。お腹に子供もいるっていうじゃない。それなのに、自分の子じゃないって言い張ったらしいわ。それで、許せないからって軍の指揮を執ってほしいって依頼されたの」


おおう、次に聞こうと思っていたことまで答えてくれた。

ありがたや、ありがたや。


「では、アスワドさんは前線に出られないんですか?」


「出ないわ。魔女は戦争の攻撃に関与しない。暗黙のルールだからね」


「国が無くならないようでよかったです」


「クライスト国には関係ないことじゃない」


「それはそうですが、欲しいものが手に入りにくくなるのは嫌でしたから」


「あなたらしい回答ね」


鼻で笑われるが、嫌な感じはしない。

きっとこの上から目線が、アスワドさんの標準仕様なのだろう。


うーん、どうしよう。

珍しい男を探していることや、銀色狩りのことを聞きたいんだけどなぁ。

でも、セルシオおじいちゃんらの前で聞くことじゃないもんね。

銀色狩りのことは、今度シャホルさんが来た時に聞いてみようかな。

アピオスが掘った芋をプレゼントすれば教えてくれるかもしれないもんね。


「私は、そろそろ帰りますね」


勢いよく顔を上げたビデンスを睨むと、ビデンスは唇を強く引き結んだ。

さすがにあれだけ言えば、引き止められないと分かってくれたようだ。


「結界は消して帰ります」


誰の顔も見ずに、窓に向かいながら伝えた。


「ノワール様、今までありがとうございました」


セルシオおじいちゃんの声が聞こえ、頭を下げられたような気がしたので、右手を上げて応えておいた。


窓から飛び立ち、周りに誰もいなくなると大きな息を吐き出す。


「はぁ、面倒臭かったー」


「お疲れ様ですわぁ」


「一体何なんだろうね。色んな角度から見ると、ビデンスは魔女を侮っているんだろうなぁ」


「きっとそうですわぁ。私、ノワール様の相手にポプルスは許せても、あの男は許せませんわぁ」


「ポプルスは許せるの?」


予想もしていなかった言葉が面白くて、小さく笑ってしまった。


「許せますわよぉ。ポプルスはノワール様を大切に扱ってくださいますものぉ」


「そうね。軽いけど思いやりがあるものね」


「クインスも、ポプルスはいい奴だって言ってますからぁ」


「ん? それが全てなんじゃないの?」


「ち、ちがいますわぁ」


慌てるように激しく羽を上下に動かすブラウが可愛くて、笑みが漏れる。

魔物と人間だとしても、誰かを好きになることは素敵なことだなと思う。


そう考えると、ノワールには1人だけ愛した人がいたが、私には心底愛した人はいなかった。

付き合った人は数人いるが、告白をされたり体を繋げたから何となくでとかばっかりで、自分から気持ちを伝えたことはない。

そういう意味では、無鉄砲なビデンスは、私が持っていないものを持っている人間だったと言えるだろう。


まぁ、あそこまで空気が読めない馬鹿は嫌いだから、熱い愛を持てるという点でさえも尊敬できないけどね。


がむしゃらにその人だけを想うって、どういう気持ちなんだろうな。

ノワールと共に歩く、これからの長い長い人生で、私にも全てを捧げたいと思うほどの好きな人はできるんだろうか?

ポプルスがその相手に……うーん……今の時点ではないな。

人として好きだけど、これが愛だとは思えない。

愛って、本当に何なんだろう?




木曜日はほっこり回です。


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