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56 嫉妬の魔女

さて、リアトリス国に行くか。


シーニーに出かける旨を伝え、一緒に行きたいというブラウと共にリアトリス国の王城に向かった。


「ブラウ、今日は帰りに街に行こうと思っているの」


「それは楽しみですわぁ」


「色々買う予定だから、ブラウも欲しいものがあったら言ってね」


「いいんですのぉ? 私、リボンが欲しいですわぁ」


「リボン? 足にでも巻くの?」


「首ですわぁ。クインスとお揃いにしますのぉ」


ホワット???

クインスとお揃い? 照れてる?


「ま、まさか……クインスに惚れたの?」


「はっきり言われると恥ずかしいですわぁ」


「そ、そっか。クインス、優しいし物腰柔らかいもんね」


ポプルスの手紙を届けてもらっているから、その時に惚れたんだろうなぁ。

グースとポプルスが飛び抜けているだけで、確かにクインスとタクサスも男前の部類に入るんだよねぇ。

正統派男前って感じで、常識がありそうなところが、ポプルスよりも好感度高いと思うのよね。


ん? ポプルスよりも優良物件だと思う人間が他にいるのに、どうして私はポプルスと付き合っているのかしら?

ポプルスはポプルスでいいところはあるけど、面倒臭いと思う場面が多いのよね。

んー、私ちょっと考えることを放棄しすぎたのかもだわ。


王城に到着すると、顔を青くしている侍女たちが庭に集まっていた。

ブラウと顔を合わせながら首を傾げ、侍女たちの近くに降り立つ。

数人の侍女から引き攣ったような悲鳴が上がるが、気にせず背筋を伸ばしている高齢の侍女に声をかける。


「何かあったの?」


侍女が恭しく頭を下げ、表情1つ変えずに真っ直ぐ見つめてきた。

貫禄があるから、きっと偉い人なんだろう。


「嫉妬の魔女のアスワド様がいらっしゃっておりまして、アスワド様の不快にならないよう庭に集められました」


「アスワドさんが来てるのか。また後から来た方がいいのかも。教えてくれてあり――


「ノワール様ぁ!!」


斜め上からエネルギーを感じて、咄嗟に『サメチラス』と唱えた。

ノワールが編み出した結界の中で、1番弱い結界になる。


庭目掛けて降り注いできたのは大きな石だったようで、何個もの大きな石が結界に当たり続ける音が王城に鳴り響く。

石は結界にぶつかった衝撃で砕け、砂埃となって視界を悪くしていく。


泣いて尻もちをついたり、神に祈りはじめたりと、結界の中も侍女たちの怯えで少し騒々しい。


「なにこれっていうか、絶対にアスワドさんよね?」


「そうだと思いますわぁ。いきなり攻撃をしてくるなんて失礼ですわぁ」


やり返したいけど、やり返して王城壊してもだしなぁ。

そのせいで誰かを巻き込んで怪我させてしまうのも後味悪し。

まぁ、結界が破られることはないから、アスワドさんが落ち着くまで待つか。


「強欲の魔女ノワール様。守ってくださりありがとうございます」


さっき話した高齢の侍女が、深く頭を下げてきた。

体は震えているのに踏ん張って立っている侍女たちも、ゆっくりとだが腰を折っている。


「私は自分の身を守ったのよ。だから、あなたたちが感謝する必要はないわ」


高齢の侍女が何も言わずもう1度お辞儀をすると、他の侍女たちも頭を下げてきた。

泣き崩れていた侍女までも、お礼を伝えるように背中を見せてくる。

肩をすくめて呆れた素振りを見せてみたが、高齢の侍女は小さく微笑むだけで感謝を撤回しようとしなかった。


数分聞き続けた爆発音が落ち着き、煙が少しずつ晴れていくが結界を消したりはしない。

侍女たちには無闇に動かないよう事前に伝えている。


「やだー。誰も死んでないのー?」


視界が良好になると、小馬鹿にするような笑い声が聞こえ、黒目黒髪の1人の可愛い女の子が空に浮かんでいた。

黒い髪をツインテールにしている10歳くらいの女の子は、アイドルグループのセンターをはれるくらい可愛い。

御年515歳の嫉妬の魔女アスワドである。


ノワールの記憶から判断するに、信じられないくらい我が儘な魔女だと思うから、本当は関わりたくなかったんだけどなぁ。

何も返事しなかったら暇だと感じて帰ってくれるかな?


じーっと見上げたまま動かずにいると、アスワドさんの顔が少しずつ歪んでいく。


「ノワール!!! 何とか言いなさいよ! この裏切り者!!!」


えー、何の話ー?

私は何もしていないし、ノワールの記憶にも何もないよー。


と思うが、名指しをされたので諦めて会話をすることにした。


「アスワドさん、お久しぶりです」


「そうね。久しぶりね」


「お元気でしたか?」


「有り余るくらい元気よ」


「それは、よかったです」


うん、後は何も出てこないなぁ。

聞きたいことがあるにはあるけど、こんな大勢の前で聞くことじゃないし。


「って、他にないの!? わたしの攻撃素晴らしかったでしょ!」


「そうですね。結界が間に合っていなかったら死んでいました」


「そうでしょ、そうでしょ。もっと褒めなさい」


「すごい! 最高! 天才! 凄まじい威力! 殺傷力ハンパない! 可愛い!」


「そうでしょ、そうでしょ」


ん? もしかしなくても、褒めていたら大丈夫な人?


腕を組んで鼻高々とドヤ顔をしているアスワドさんは、攻撃こそ苛烈だったが、そこまで性格が悪そうに見えない。


褒め言葉が止まったからか、アスワドさんはつまらなさそうにノワールを睨んできた。


「結界消しなさいよ」


「もう攻撃しませんか?」


「しないわ」


いや、今ニヤついたよね?

消した瞬間、攻撃してくるパターンじゃないの?

「騙される方がバカなのよ」って平気で笑うタイプなのかな?

ノワールの記憶からは細かい性格は分からないからなぁ。


「私がそっちに行きます。どこかで落ち着いてお話ししましょう」


言いながら空に飛び立ち、結界から出ると、アスワドさんは舌打ちをしてきた。

何がそんなに腹立たしいと言うんだろうか?


「あなた、どうして人間のメスを助けるの?」


女の人をメスって言っちゃうのかー。

魔女以外は、動物と同じ扱いだったりするのかな?


「逆にどうして攻撃されるんですか?」


「決まってるでしょ。わたしを下に見るからよ」


「見られたんですか?」


「そうよ。子供だと思ったのか見下してきたのよ」


チラッと下を窺うと、数人真っ青な顔をして尋常じゃないくらい怯えている。


なるほどねぇ。

王様が代わって雰囲気がよくなったからって、働いている人全員が心を入れ替えるわけじゃないよね。


「男の人は見下してこなかったんですか?」


「まさか。いたわよ」


「どうされたんです?」


「魔物と交尾させてやったわ。メスも痛めつけてからそうするつもりよ」


うわっ、聞くんじゃなかった。

血も涙もなさすぎる。

悪寒は感じないけど、なんちゃってで体を震わせてしまいそう。


「ちっぽけな存在を、そこまで気にする必要ありますか?」


「ノワール。あなた、人間に偉そうにされてムカつかないの?」


「普通にムカつきますよ。でも、1秒にも満たない時間でさえ、そんな奴らに使うなんて勿体無いじゃないですか。今だってアスワドさんが相手じゃなかったら、私はすでに立ち去っていますよ」


本当はもう帰りたいんだけどね。

でも、話してしまったから開き直って、アスワドさんには聞けるなら聞きたいことがたくさんあるのよ。

だから、今は我慢。

結界をどうするかも決めたいしね。


「ふーん、いい心掛けね。だったら、あなたからこの国にわたしと契約するよう言いなさいよ」


「分かりました。ビデンス王のところに行きましょう」


ふんっと鼻を鳴らすアスワドさんを追いかけるように飛びながら、侍女たちに分かるように後ろ手を振った。

早く庭からどこかに逃げろと、合図を送るように手を払ったのだ。

アスワドさんにバレたくないので振り向いたりしなかったが、肩に留まっていたブラウが体を擦り寄せてきたので、侍女たちにも意図は伝わっていると感じた。




アスワドが登場しました。

1人また1人と魔女が登場していく予定です。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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