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55 さっまいも勝負

朝食時にさっまいもの収穫に参加すると伝えると、アピオスとカッシアは諸手を挙げて喜んでくれた。


食事を済ませると、すぐに収穫をしようと胸を躍らせた2人を宥め、15分ほど休憩をしてから畑に向かった。


「みんな一緒で嬉しいね」


庭に出る時に、カッシアがアピオスに言っていた言葉だ。

頷くアピオスの顔にも笑顔が溢れていた。


寂しい思いをさせているのかもと感じたが、過剰にかまい倒すのはやっぱり違うなと考え直し、今までのように要所要所で一緒にいるようにしようと決めた。


アピオスとカッシアが可愛くて情は湧いているが、森に住まわせる期間を変えるつもりはない。

ここには、魔女の家と森しかないのだから。

この先、友達が欲しいと思うかもしれないし、好きな人との出会いを夢見るかもしれない。

それに、生きていくためには仕事をしなければいけない。

その全て、他人との縁は、森でいる限り手に入らないものばかりだ。


畑に到着すると、シーニーが配ってくれたスコップを手にさっまいもが埋まっている場所に移動する。

青々と茂っている葉っぱを見ながら、中腰で辛くなるだろう収穫作業を楽しむには? と考えを巡らせた。


「勝負しましょうか?」


「なんの?」


ポプルスが代表して聞いていた。

アピオスとカッシアも首を傾げている。


「誰が1番大きなさっまいもを掘り出せるかよ」


「楽しそう!」


「わたし、やる!」


「優勝者には何が出るの?」


1人だけ俗物がいてると思ったが、楽しそうに顔を輝かせている2人がいるので、あえて突っ込むようなことはしなかった。

それに、賞品がない勝負なんて面白くないから、きちんと考えている。


「シーニーが、優勝者だけにさっまいものスペシャルなスイーツを作ってくれるの」


全部丸投げでごめんだけど、さっまいも勝負だからさっまいもを絡めたいじゃない。

1番大きいさっまいもを食べられるっていうより、シーニーに調理してもらった方が嬉しいじゃない。

しかも、それが優勝者しか食べられないなんて特別感が半端ないと思うのよ。


「それってノワールちゃんが食べたいからじゃないの?」


バレてる。

そう、私はあっまーい外はカリカリ中は滑らかなスイートポテトが食べたいのよ。

さつまいもパイも魅力的だけど、やっぱりさつまいもと言われたらスイートポテトよね。

さつまいものモンブランっていう手もあるけど、私としてはモンブランは栗がいいのよ。


あ、さつまいもと栗の混ぜご飯食べたいな。

ご飯って、どっかにあるのかな?


「それがどうしたのよ。ポプルスは食べたくないの?」


「食べたいよ。シーニーの料理、本当に美味しいもん。じゃなくて、ノワールちゃん発案だから、魔女特有の何かをもらえるのかなって思ったの」


「私から出たら、私が参加する意味ないじゃない」


「そーだけどー。でも、副賞として何か欲しい! ちょうだい!」


これ、嫌だって言ったら面倒臭くなるパターンだわ。

駄々っ子を無視すればいいだけなんだけど、うるさいのよね。


「分かったわ。優勝した人に合わせて何か用意するわ。どう?」


「俺は、髪の――


「ほしいです!」


「わたしもほしい!」


アピオスとカッシアの声にかき消されたけど、ポプルスってば「髪の毛がほしい」って言おうとしてなかった?

あー、怖い怖い。どこまで真剣に髪の毛が欲しいのよ。

髪の毛を手に入れる手段を模索しないでほしいわ。


ジト目で見てきている気がするポプルスを無視して、気合いを入れているアピオスとカッシアの頭を撫でると、2人は幸せそうな笑みを浮かべた。


私が優勝するつもりだけど、可愛い2人にも優勝してもらいたいわね。


「たくさん収穫しましょうね。そして、お昼は焼き芋にして食べましょう」


「「はい」」


ジャッジはシーニーがしてくれることになり、どの場所を掘るかを先にアピオスとカッシアに選んでもらった。

次にポプルスが決め、3人から程よく離れた場所を掘りはじめる。


さつまいもを掘るなんて、小学生以来だなぁ。

確かその時も、焼き芋にして食べるまでがセットだったと思う。

家にも持って帰って、お母さんが褒めてくれた気がするな。

薄っすらとしか覚えていないけどね。


最後まで気丈に振る舞ってくれていた母の顔を思い出してしんみりしてしまった気持ちは、3人の「これ、大きいかも」とか、「やった! 掘れた!」とか、「負けないぞ」とかの賑やかな声が拭い去ってくれた。

3人の元気な明るい面持ちや世話好きなシーニーを見ていると、頬が自然と緩む。

小学生の時の記憶が薄れてしまった分、この景色はずっと覚えていようと思ったのだった。


最後のさっまいもをカッシアが掘り、第一回さっまいも収穫大会は、優勝者の発表と焼き芋の準備に移った。


「優勝者は……」


テレビ番組を知らないはずなのに、きちんと溜めるシーニーはさすがだ。

ドラムロールを入れたいところだけど、「ドゥルルルルルルル」なんて言い出したらみんなを驚かせると思うので、心の中だけで唱えておく。


ドゥルルルルルルル、ジャーン!


「アピオスです!」


「やったー!」


「わたしだと思ったのにー」


「えー、俺負けたのー」


飛び跳ねるほど喜んだアピオスの傍らで、カッシアとポプルスは項垂れている。

でも、その次にはアピオスに「おめでとう」と祝辞を述べていた。

もちろん私も負けたことは悔しいが、それ以上に和やかな空間に胸が温かくなる。


「アピオス、おめでとう。副賞、楽しみにしていてね」


「はい、本当に嬉しいです!」


満面の笑みで頷くアピオスの頭をわしゃわしゃと撫でたら、アピオスは楽しそうに声を上げて笑っていた。


余談だが、みんなで収穫したさっまいもは、甘くてねっとりしていてとても美味しかった。


優勝商品のスイーツは夕食時にさっまいもパイとして出てきたのだが、アピオスが「僕、お腹いっぱいで全部食べられない」と言って、結局は全員で頬っぺたを落としながら食べた。


食後にこそっとシーニーが教えてくれたのだが、アピオスが「みんなで食べられるような大きいスイーツをお願いしてもいいですか?」とシーニーに尋ねてきたそうだ。

だから、大きなさっまいもパイにしたと。


アピオスの優しい性格が分かるエピソードに、より喜んでもらえるような副賞を探そうと思ったのだった。




木曜日は1話のみの更新になります。

新しい魔女が登場します。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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