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54 しこり

5日に1度のお休みの日。

朝起きると、気持ちよさそうに眠っているポプルスの顔が目の前にあった。


いつもなら私よりも早く起きているのに、今日は珍しいな。

最近夜遅くまで本を読んでいるらしいし、疲れていたのかな?


ポプルスの瞼が1度ピクつき、そしてゆるゆると開いた。

綺麗な銀色の瞳が姿を現し、艶やかに細められる。


「おはよう。起こしてくれてよかったのに」


「私も今起きたところなの」


「そっか。次からは起きたらすぐ起こしてね。少しでもノワールちゃんを見ていたいから」


「はいはい」


2人とも目覚めたのだから、朝食に間に合うように支度をはじめたい。

それなのに、体に巻かれているポプルスの腕が解かれないので起きるに起き上がれない。


「ねぇ、ポプルス」


「まだ起きないよ。もう少し引っ付いていたいからね」


「私が言いたいこと、よく分かったわね」


「伊達にノワールちゃんを観察してないよ」


キスをしてくるポプルスに応えた後、微笑み合いながらポプルスの髪を耳にかけた。

擽ったいのか、クスクスとおかしそうに笑っている。


「ノワールちゃんは今日何をするの?」


「まだ決めていないわ」


「じゃあさ、一緒にさっまいもを収穫しようよ」


「今日収穫するのね。この前収穫したじゃいもはよくできていたから、さっまいもも期待できるわね」


「そうなんだよね。アピオスとカッシアが毎日頑張って育てているからか、本当に美味しくて実も大きかったよね」


「収穫後のシーニーの料理教室も2人に人気なんでしょ。シーニーが嬉しそうに話していたわ」


「それ、俺も参加したけど、分かりやすいし簡単にできるものばかりだったよ」


「さすがシーニーね」


「うん、ノワールちゃん自慢の家族だもんね」


言われた言葉に心嬉しくなり、ポプルスの頬に手を伸ばすと、ポプルスは顔を傾けて手のひらに吸い付いてきた。


「すぐキスするんだから」


「好きだからね。仕方ないよ」


「どうしてそんなに私を好いているの? 一目惚れでも何でもなかったでしょ」


本当に謎なんだよね。

ビデンスみたいに一目惚れなら、まだ理解できる。

美少女すぎて引力の強さは半端ないと思うから、少しでも好みなら落ちちゃうと思うのよ。

しかも、想像していた魔女と比べて、魂が融合した分人間味が足されちゃっているから、「いい魔女」という好印象が勘違いを引き起こすだろうしね。


でも、ポプルスの場合、いつの間にか闇深くなるまで好きになってくれていたってことだから不思議なのよね。

知れば知るほど優しい魔女だとしても、好意と愛情は別物でしょ。

惜しみなく伝えてくれているけど、やっぱりどこか奇妙に感じるのよね。


私が、そう思いたいだけなのかな?


「んー、一目惚れではないけど、でもあの時にはすでに惹かれてはいたよ。オレアを殴った後のノワールちゃんの横顔が、目を逸らせないほど魅力的だったんだよね」


「じゃあ、いつ好きだって気づいたの?」


「そうだなぁ、ここっていう場面はなくて、ノワールちゃんに侵食されたような感じなんだよね。あっという間に占領されてた」


「私の支配下にいるってことね」


「忠実な犬だよ。いつも尻尾振ってるでしょ」


「だから、可愛がってあげているじゃない」


「足りないよ。もっともっと撫で回して」


甘え上手だよね。

自然と手が伸びて可愛がっちゃうんだもん。


ポプルスの髪の毛をぐちゃぐちゃにするように頭を撫でると、頬を緩ませて体を擦り合わせてくる。


「ねぇ、ポプルスがここに住んでいるってことはクライスト国では有名なの?」


「どうだろう? 俺はクインスやタクサスと違ってグースと宮殿にいることが多かったから、街を彷徨いていなくても国にいないって国民は思わないんじゃないかな。宮殿に仕えている人や警ら隊の人は知っていると思うけど。一時期オレアが騒いでたわけだし」


「知ろうと思えば、すぐに分かることなのね」


「そうだね。何かあった?」


「何かあったってほどのことじゃないわ。ただ人間が3人、ここにいるってことの違和感は相当なんだって改めて思っただけよ。勝手に色々想像する人たちばかりだからね」


「勝手に色々ねぇ。うーん……意味がないと怖いのかな? 俺からすれば何がそんなにおかしいのって思っちゃうけどな」


「どういうこと?」


「魔女・魔物・人族って人種が違うだけでしょ。意思疎通ができて一緒に笑ったり泣いたりできるんだから、同じ時間共有できるよね? 嫌な思いをしないから、一緒にいて楽しいから、長い時間を共に過ごすってだけなのにさ。そこに無理やり意味を見つけ出そうとするのって、否定したい何かがあるのか、知らないから怖いのかのどっちなのかなって。自分と違うってだけで排除したくなるとか悲しいよね。知れば大切な人になるかもしれないのにさ」


言いながら顔を擦り合わせてくるポプルスの背中に腕を回した。


チャラいし軽いし馬鹿っぽいのに、きちんとした考えを持っていて、その考えが人を傷つけない内容だなんて、いい男だわ。

差別のない世界ってことでしょ。

叶うのは難しいけど、理想の世界よね。


「ポプルス、あなたって本当に優しい人ね」


「えー、かっこいいじゃないの?」


「はいはい、かっこいいわよ」


「違うんだよなぁ」


拗ねるように唇を尖らすポプルスの首に強く吸い付いた。


まぁ、私の言った言葉の意味としては、あなたたち3人が私のせいで狙われているかもってことだったんだけどね。

クライスト国で杖を持っていることに気づかれただろうから、余計に変な憶測を呼んだのかもなって。

3人のためにしていることが、3人を窮地に追いやっていたら嫌だなぁって思ったのよね。


「朝からしていいの?」


「していい合図じゃないわよ」


「えー、残念」


「ねぇ、ポプルス。奴隷紋消したい?」


「……考えたことなかった。だから、今はこのままでいいかな」


柔らかい声はいつもと変わらない。

でも、引っ付いていたからこそ分かる程度に体を揺らされた。

だからか、胸にしこりのようなものを覚えたのだった。




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