53 銀色狩り
屋敷に戻ると、帰りを待ってくれていたポプルスに庭で抱きしめられた。
ポプルスの背中をやんわりと叩くとすぐに離れてくれ、「昼食の時に」と伝え、ポプルスと別れて屋敷の中に入っていく。
掃除をしてくれているシーニーに声をかけ、シーニーと共に自室に向かった。
窓からブラウを呼び、シーニーとブラウとで会議を始める。
「ねぇ、シーニー。ランちゃんから、アスワドさんかガーデニア国の情報ってあった?」
「アスワド様ですか」
シーニーは、魔法で空中に呼び出した紙の束を手に取り高速で捲っている。
「ありました。えっと、150年ほど前から森の一部が腐りはじめたそうです」
「え? 森が腐る? そんなことあるの?」
「外から確認しただけですけどぁ、確かに一部腐っていそうな場所がありましたわぁ」
ブラウの言葉に、シーニーが緩く頷いている。
「今のところアスワド様の森でのみ起こっているみたいです。次にガーデニア国ですが、近々エッショルチア国に進軍する予定だそうです」
「それに、アスワドさんがかんでるの?」
「かんでいるかどうかは不明です。進軍理由は、ガーデニア国とエッショルチア国の縁談がエッショルチア国の不義理によって破棄されたからだそうです」
「恋愛のいざこざでなんて傍迷惑な話ですわぁ。信じられませんわぁ」
呆れたように頭を横に振るブラウに、シーニーも肩をすくめている。
「アスワドさんが、珍しい色の男を集めているみたいなの。何か分かっていることはある?」
「もしかして、ポプルスを探しているんですか?」
アピオスじゃなくてポプルスという言葉に、目を瞬かせてしまう。
そういえば、グースとの関係を聞かれたけど、ポプルスがここに来ていることを知らないからポプルスに触れなかったのかしら?
でも、グースとの仲睦まじい姿を見たという情報を持っていたくらいだものね。
ポプルスのことを知らないなんてあり得ないと思うわ。
もしかして、家庭教師をしてもらっているという言葉を引き出したかったのかしら?
何のために? ポプルスに何かあるの?
「どうしてポプルスなの?」
「私も生まれていなかったので詳しくは知りませんが、銀色狩りを主導したのがアスワド様だそうです」
「ええ? どうして?」
「それが、銀色狩りに関しては何も残されていないのです」
「知っている人に話を聞くしかないってことね」
「はい」
「私もシーニーと同じことしか知りませんのぉ。お力になれず悲しいですわぁ」
頭を垂らすブラウの体を優しく撫でると、嬉しそうに頬を緩ませブラウの方から体を擦り付けてくる。
「ってかさ、ポプルスって相当珍しいってことよね。よく今まで無事に生きてこられたわよね」
「そう言われればそうですね。どの魔女にも見つからず過ごせてきたんですからね」
「あ、違うわ。クライスト国を支援している魔道具師が魔女かもしれないんだったわ。ってことは、その人に守られてきたってこと?」
「ポプルスを守る魔女ですかぁ? でも、グースと仲がいいんですよねぇ?」
「そうだったわね。んー、なーんか全部がチグハグで『それね!』みたいにならないわね」
シーニーとブラウと一緒に首を傾げて唸ってみる。
「それに、私はアピオスを探しているんじゃないかと思ったのよね。アスワドさん、リアトリス国で言ったみたいだから」
「アピオスなら金色ですわねぇ」
「オレアさんと同じ村出身ってことは、アピオスたちの故郷はサラセニア国よね」
「はい、そうなるはずです。アピオスたちが売られたのが書類からの情報のみですが4年前になります。カッシアはすぐにレペスデーザ公爵家に買われたようですが、アピオスは何件かたらい回しにされ最後に王宮に辿り着いたようです」
「そっか。私たちからは貴重だとしても、人族にとったら気味が悪いのかもね」
「私、その村を見てきましたけどぉ、誰もアピオスたちの話はしていませんでしたわぁ」
「ランからの情報でも、まるでいなかったかのように誰も話さないとなっていますね」
「いなくなってよかったとでも思っているのかな。まぁ、でももう4年前のことなんて誰も口にしないか。殺人事件の話だもんねぇ」
「はい。そのせいか、オレアのことも手詰まりになっています」
背中を丸めるシーニーに「気にしないで」と告げる。
オレアさんがいつどこで魔女と接触したのかは、やっぱり分からないか。
記憶が消され……ん?
「ねぇ、その村の人たちって、アピオスたちの記憶が消されているなんてことあるかな?」
「どうでしょうか。あったとしても、そこまでする必要があるのかと思いますが」
そうだよねぇ。
もし消すなら、オレアさんの記憶からも消していればよかったんだもんね。
「そういえば、銀色が相当珍しいってのは分かったんだけど、金色は? アピオスたち以外の金色の人って、どこかにいるの?」
「金色も銀色もあの3人以外見たことないですわぁ」
書類から顔を上げたシーニーにしっかりと頷かれる。
「流れに身を任せただけだけど、なんか絶滅危惧種を保護した気分ね」
「3人は幸せだと思っていますよ」
「シーニーの言う通りですわぁ」
「ありがとう。ここには嫌な奴がいないからね。シーニーとブラウも優しいものね」
照れる2人にほっこりする。
胸にあった重たいものが軽くなった気分だ。
「何か知っておいた方がいいような情報はある?」
「いいえ、小さないざこざばかりですので特には……あ、侵略されそうなエッショルチア国ですが、魔女のカーラー様が力を貸すようです。ですので、もしガーデニア国にアスワド様が協力をされていたら大規模な戦争になると思います」
「そっかー。2国とも遠いからここまで被害はこなさそうだけど、巻き込まれる人たちは本当に可哀想ね」
目を皿のように丸くしたシーニーとブラウが、小さく笑い出した。
「私の主人がノワール様で本当によかったです」
「私もそう思いますわぁ」
誇らしげに微笑んでいる2人にむず痒くなり、恥ずかしそうに視線を逸らした。
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