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52 珍しい色の男

セネシオおじいちゃんは、唇を引き結ぶビデンスを微笑ましく見てから、私に視線を移した。


ビデンスは、今セネシオおじいちゃんにしごかれ中なのだろう。

そして、たぶんセネシオおじいちゃんの隣にいる青年は、次期宰相かなにかでビデンスの側近なのだろう。

そんな雰囲気を感じる。


「ノワール様、詳しく説明をいたします。実はアスワド様が来られた際に、結界の契約の話とは別にクライスト国の話をされました。クライスト国には後ろ盾になっている魔女がいる。グース王は魔女の力を借りて周辺国を属国にしようとしていると」


「それで、私がクライスト国に結界を張ったから、後ろ盾の魔女が私だと思ったの?」


「はい。クライスト国内でもグース王とノワール様の仲睦まじい姿が目撃され、一部では結婚が間近とも噂をされていますから」


うわー、どこからそんな話になってるんだろう?

これ、ポプルスの耳に入ったら発狂するんじゃないの?

こわっ! 抱き潰されて、髪の毛渡すまで追いかけ回されそうだわ。


「ないわよ。全部デタラメよ。クライスト国には確かに援助してくれる誰かがいるみたいだけど、それは私じゃないわ。それに、まだまだ自国で手がいっぱいのように見えるから他国侵略もしないと思うわよ。そもそもグースはそんな性格の男じゃないわ」


「さようですか。だとしたら、アスワド様が嘘を仰ったということですね」


「アスワドさんが何をどう判断して言ったのかは分からないけど、私から見れば嘘にしか思えないわね」


「お答えくださりありがとうございます。もう2点教えていただきたいことがございます」


「はぁ、なに?」


「グース王とは、どのような経緯で仲良くなられたのですか?」


「どうって、普通よ。契約する相手が好みだった。それだけよ」


何かしら?

何かを探っているようにしか思えないけど、それが何か分からないわ。


「なるほど。グース王が目鼻立ちが整った男性という噂は真なのですね。では、最後にもう1点。アスワド様の提案を断る場合、我々は報復されたりするのでしょうか?」


「どうかしら? そんなことで怒らないとは思うけど、相手は魔女だものね。もしかしたらがあるかもね」


「そうですか」


肩を落とすセルシオおじいちゃんに首を傾げる。


「私は契約を破棄していいわよ。アスワドさんと契約すれば問題解決するじゃない」


「それが、結界の報酬に関してはノワール様にお渡ししていた分の1.1倍ということですので問題ありませんが、陛下を治療してくださった報酬に珍しい色をした男を差し出せと言われまして困っているんです。しかも、来訪された際に侍女数人が重傷を負いまして、皆萎縮してしまっているんです」


珍しい色の男?

もしかして、アピオスを狙ってた?

私が連れていったって知らない?


ってかさ、その話、私には関係ないことだし、治療の報酬は契約の報酬と別物じゃない。

アスワドさんが報酬欲しさに勝手に治したんだとしても、それは払わないと暴れられると思うわよ。


「まぁ、魔女相手だものね。そういうものよ」


「しかし、ノワール様は冷静に話をしてくださいますから、可能ならノワール様と契約をしたいと我々は考えているのです」


本当に?

もしかして、冒頭の「つい先日、嫉妬の魔女であるアスワド様が我が国と契約をしてもいいと申し入れてくださったんです」っていうのは、「それでもノワール様と」って続いたってこと?

いや、でもなぁ、言い方が気に入らなかったから違うと思うのよねぇ。


「そう言われるのは単純に喜ばしいことなんでしょうね。でも、私にできることは何もないわよ。どっちと契約するかは、あなたたちが決めることなんだから」


私が契約するんだから! っていうような喧嘩なんてしたくないからね。

喧嘩をするくらいなら、お金や食料の備蓄がなくなった時に他の手段を考えればいいのよ。

今は喧嘩を売ってきている相手を特定して負かせることに集中したいし。

それに、本来なら喧嘩を買うことも面倒だからしたくないんだからね。


「さようですね」


そんなに落ち込まれると、ちょっと胸が……痛くならないから不思議だわ。

こっちに来て、もうすぐ6ヶ月かぁ。

あっという間だったな。


「今決まらなさそうだから、また来週来るわ。半年の約束だったからね。それまでに決めておいて」


立ち上がると、ビデンスが勢いよく腰を上げた。


「お待ちください! 私はノワール様と良い関係を築きたいのです。どうか機会をいただけないでしょうか?」


ビデンスから胡散臭かった笑顔が初めて消え、真っ直ぐな瞳で見つめられる。


「悪いけど、そういう関係には絶対にならないから」


「しかし、私が王になれたように未来は分かりませんよね」


「分かるわよ。私、好みには五月蝿いの。あなたみたいな青二才はお断りよ」


手を軽く振って、バルコニーに向かって歩き出す。

ドアから出るよりもバルコニーから飛び立った方が幾分か楽できる。


「ノワール様、奴隷の少年は元気でしょうか?」


セルシオおじいちゃんに心配げに投げかけられ、余裕たっぷりの笑みを見せた。


「元気に走り回っているくらい健康になったわよ」


「よかったです」


柔らかく微笑む真意は分からなかったけど、「アスワドさんが言った珍しい色の男がアピオスかもしれない」という気持ちが膨らんだような気がした。




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