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51 ビデンスの求婚

「ノワールちゃん、どこか行くの?」


庭に出たところでポプルスに声をかけられた。

アピオスとカッシアと一緒に畑仕事をしていると思っていたのに、今日は1人庭で教材を作っていたようだ。


「リアトリス国よ。そろそろ契約をどうするのか決めなきゃいけないからね」


「王様を代えるなら云々ってやつだね」


「クインスに聞いていたのね」


「そりゃあね。クインスは『いい気味だ』って笑ってたよ」


まぁ、私が割り込む前も感じ悪そうな雰囲気だったものね。

嫌味でも言われてたんだろうな。


近くにきたポプルスに手を取られ、頭にキスをされる。


「大丈夫だと思うけど気をつけてね」


「要らない心配よ」


「うん、それでも心配なの」


「はいはい」


繋がれている手を空いている方の手で柔らかく叩くと、ポプルスはもう1度キスを落としてから離れていった。


「いってらっしゃい」


軽く手を上げて応え、指を鳴らして魔法で空を駆けていく。


ランちゃんたちからの報告で、1ヶ月前にリアトリス国の王様が変わったことを知った。

即位したのは、ビデンスというオレンジ色に近い黄色の瞳と髪の青年だそうだ。

ビデンスは、前王チランジアの甥とのこと。

といっても、チランジアは当時王様だったビデンスの父であるユリオプスを毒殺し、ビデンスを病弱設定で閉じ込めて無理矢理王位を奪ったらしい。


謁見室に乗り込んだ時に堂々としていたおじいちゃんは、ユリオプス王の時の宰相なんだと。

本当に偉い人だった。

名前は、セネシオ・ダスティミラ侯爵。

このセネシオおじいちゃんが、ビデンスを探し出して王位を正当な後継者に戻したとのこと。


で、あの時にもう1人、場を仕切っていた騎士団長はキナラ・ヘリアンサス伯爵で、ビデンスの母の弟だそうだ。

ビデンスの後ろ盾になるべく、努力して騎士団長までのし上がったらしい。

でも、チランジアのせいで会うことすら叶っていなかったそうだ。


「権力やお金に目がくらむと、本当に愚かになるよね」


ビデンスを閉じ込めていたという理由でチランジアはすでに罪人だが、ユリオプスを毒殺したことは発覚していないから処刑は免れているらしい。

元王女アンノーナを人質にしているので、大人しく牢屋で過ごすだろうとのことだ。


アンノーナはいまだ現状を把握しておらず、与えられた離宮に前王妃と一緒に閉じこもっているそうだ。

癇癪を度々起こしているらしいが、侍女たちは彼女に冷たく当たり、雑に扱っているとのこと。

可哀想だが、今まで侍女に親切にしていたら優しくしてくれる人はいただろう。

これを機に、人にしたことは自分に返ってくると学んでくれたらと思う。


王宮の上空に着くと、きびきび動いている騎士に大声で呼び止められ、丁重に出迎えられた。

今日行くとは伝えていなかったのに、いつ来てもいいように準備していたようだ。


応接室と思われる1室に通され、すぐに好青年風の2人とセネシオおじいちゃんが現れた。

好青年風の1人がオレンジ色に近い黄色の色合いをしているので、平凡凡な彼が現王ビデンスだろう。

それを裏付けるように平凡凡な青年だけが、向かい側のソファに腰をかけた。


「初めまして。王に即位しましたビデンスと申します。お会いでき光栄の極みでございます」


「私は強欲の魔女ノワールよ。契約をどうするか話し合いに来たの」


「はい。詳しいことはダスティミラ侯爵から聞いております。この度はご迷惑をかけてしまい、誠に申し訳ありませんでした」


「そういうのはいらないわ。国のいざこざに介入するつもりはないの。私はただ結界の契約をどうするか決めたいだけだから」


3年の報酬としてアピオスを連れ去っているし、代替わりをきちんとしてくれたしね。

だから、もうこれからのことだけでいいのよ。

どうせ謝られたところで関係性は変わらないんだから。

契約するかしないか、それだけよ。


「わだかまりはないと仰ってくださって感謝いたします」


そういうことじゃないけど、もうそれでいいわ。


「さっさと話を進めてもいいかしら?」


「はい。契約について、実はこちらからもお話ししたいことがありまして……よろしいでしょうか?」


「なに?」


ふーん。この子、見た目はモブ中のモブだし、監禁されてたくらいだから弱っちいと思ってたけど、癖が強そうだわ。

ずっと笑っているようで笑っていないもの。


「つい先日、嫉妬の魔女であるアスワド様が我が国と契約をしてもいいと申し入れてくださったんです」


「だったら、私とは破棄でいいわね」


「え? あ、ちょっとお待ちください」


立ち上がろうとしたら、僅かに慌てた様子で呼び止められた。

訝しげに見るが、ビデンスは笑顔を貼り付けたままだ。


「なに? アスワドさんが結界を張ってくれるんでしょ。私、必要ないじゃない」


「まだアスワド様と契約をすると決めたわけではありません」


ほーん。結界を張ってやってもいいって言ってくれている魔女がいるのに、より好条件はどっちかって天秤にかけたいのね。

予算がある国家としては正しいことをしているんだろうけど、魔女に対しては悪手よね。

こっちがお願いをして結界を張っているわけじゃないんだから。


「何が言いたいの?」


「ノワール様とはこれまでの関係があります。それなのに、アスワド様にすぐに乗り換えるのは誠意に欠けるかと思いまして」


「私は気にしないわ。この国と仲良くしたいわけでもないし。お互い害にならない相手ってだけで十分じゃない」


「それは、仲良くされたい国がクライスト国だからですか?」


「あそこは関係ないわよ」


「本当ですか? クライスト国の王グースと親密な関係なんでしょう?」


ん? 急に何を言い出すんだろう?

面倒臭い匂いがプンプンしだしたんだけど……


「確かにグースは私の好みよ。だからといって男女の関係じゃないわ」


「では、私と結婚してくださいませんか?」


「ないわ。好みじゃないもの」


えええ!? 国のためにってこと?

魔女を取り込んだら強くなれるとか、そういうこと?

本当に魔女を下に見てるのね。


「グース王に申し込まれれば結婚されるのですか?」


分かりやすく息を吐き出して不快感を露わにした。


「あのさ、さっきから何? 私は結界の契約をどうするのかを話しに来たの。グースの話をしに来たんじゃないの」


「ノワール様、大変申し訳ございませんでした」


ビデンスの後ろに立っていたセネシオおじいちゃんが、深く頭を下げてきた。

セネシオおじいちゃんと一緒に立っていた青年も、慌てて腰を折っている。


「ビデンス王は性急しすぎたようです」


「ダスティミラ! 私は!」


「陛下、落ち着いてください。ノワール様に一目惚れされたのは理解しましたが、支離滅裂されては困ります」


お、おう。ここにもノワールの美少女ぶりに惚れてしまった男性が現れるとは……私っては罪な魔女だわ。




3ページ更新のため、続きの52話を12時10分に、53話を12時20分に投稿します。

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