50 グースの心配
ポプルスが作ったグースたちのお守りは、3日後にポプルスと一緒にクライスト国に届けに行った。
耳飾りに護りの魔法を付与する作業が簡単だと思っていたのは私の想像なだけで、実際は難しいらしく、ポプルスはなんとか用意できた3枚全て失敗をした。
この世の終わりかと思うほど項垂れ、床に蹲ってしまったポプルスを慰めるのには一苦労したが、ポプルスの頑張りによって魔法付与された耳飾りは完成した。
「ほんっとうに有り難いと思ってよね」
「恩着せがましいな」
「当たり前だよ。ものすっっっごく苦労したんだから」
王の執務室になっている部屋で、グースとポプルスと3人でいる。
クインスとタクサスは、警ら隊と一緒に見回りに出かけているそうだ。
「分かったよ。ありがとう、大切にする」
「ふん。分かればいいんだよ」
何だろう? 確かグースはポプルスより1歳年上だって聞いた気はするけど、大人と子供にしか見えないわ。
「タクサスじゃないけどポプルスが羨ましいな。俺にも魔力があれば、もっと国を守れそうなんだけどな」
「ん? タクサスも魔法に憧れがあるの?」
「タクサスも?」
グースに尋ねたのに聞き返された。
「ポプルスが勤勉なのよ」
「楽しいからね。それに、ノワールちゃんの力になりたいって言ったでしょ。あれ、本気だよ」
「そうだったわね」
「ふふ。ノワールちゃん、かっわいい」
横から抱きついてくるポプルスを気にせず、お茶を飲む。
対面のソファに座っているグースは、楽しそうに笑っている。
「タクサスは魔法に興味はあるんだろうが、ノワールがドストライクなんだよ。一目惚れに近いんじゃないか」
「ちょっ! グース! ノワールちゃんにそんな情報要らないの!」
「なるほどね。私、美少女だものね」
「ノワールちゃんは本当に可愛いよ。でもね、モテるのは俺にだけでいいの。分かった?」
「ウザいわよ、ポプルス」
「ウザくないよー」
「それに、もし乗り換えるにしても相手はグースよ」
「くっ……グース、耳飾り返して」
ポプルスがどれだけ恨めしそうにグースを睨んでも、グースは大口を開けて笑っている。
「光栄だ。いつでも乗り換えてくれ」
「本当にお守りなんてあげるんじゃなかった」
「心が狭い男はモテないぞ」
「うるさいよ。モテる数で言えばグースには勝つんだから」
「なんだか分かるわ。グースには本気の女の子しか集まらなさそうだものね」
「うううっ……どうせ俺は女の子と遊んでいると思われがちだよ。グースより俺の方が一途なのにさ」
泣き真似をするポプルスの背中を、面倒臭いと思いながら優しく撫でる。
なぜなら、撫でて欲しそうにチラッと見られたからだ。
放っておいたら、絶対に「ノワールちゃんもそう思ってるんでしょ」って騒ぎ立てられて、機嫌を取らなくてはいけなくなる。
「グースって遊び人なの?」
「待て、ノワール。それは語弊がある。俺は特定の人を作らないだけだ」
「それが遊び人ってことでしょ」
「同時に何人もと付き合ったりしないぞ。愛を囁いたりもしない」
「体の関係は持つんでしょ?」
「割り切ってくれる人だけな」
「泣かせているわけじゃないと……」
「ああ、泣かせることはしない。全てお互いが同意の上で、お互い相手がいない場合のみだ」
「うん、分かったわ。遊び人ではないわね」
「ええ!? ちょっ、どこが!?」
「うーん……裏切る人がいない割り切れる相手なら夕立にあったようなものだからよ」
激しいほど刺激が強いけど、やんでみればスッキリサッパリして体や心が軽くなっている。
うん、比喩にピッタリだわ。
「なに、上手いこと言ったみたいに得意顔してるの?」
「え? 言ったじゃない」
「言ってないよ」
「そう? 言ったと思うけどなぁ」
途端にグースが大声を上げてお腹を抱えて笑い出した。
グースはずっと楽しそうに笑ってはいたが、目尻に涙を溜めるほど笑われると、さすがに目を点にしてしまう。
「2人の相性は存外いいようだな。安心したよ」
「なんの心配してたの。ものすっごく相性いいよ」
ポプルスが拗ねるように言うが、グースは朗らかに「そうか、本当によかった」と溢して私を見てきた。
「ノワール、色々ありがとうな」
グースに「ポプルスを慰めてやってほしい」とお願いされたお礼のような気がした。
あの日からグースとポプルスが会うのは、今日が初めてだ。
もしかしたら、本来なら数日荒れたままだったのかもしれない。
だけど、今日会ったポプルスが、いつも通りの明るいポプルスで安心したんだろう。
グースの瞳には慈しみが溢れていて、本当にポプルスのことを親愛しているんだと分かった。
でも、「色々」とは?
荒れる以外のことを何かしただろうか?
そもそも、あれは荒れるというより病んでいるという方が正しい気もする。
不思議そうに私とグースを交互に見ていたポプルスが、何故が手を繋いできた。
「グース、俺は大丈夫だよ。だから、グースも大切にできる人探しなよ」
「んー、俺はいい。どうせ政略結婚をしなきゃだろうからな」
ポプルスが呆れたように息を吐き出した。
「国のためになら、しなくていいよ。それに、こんな弱小国家と縁結びしようなんて、国の乗っ取りを考えているだけだろうしね。そんなところ無視すればいい。だから、好きな相手を作って、その人とするんだよ」
「機会があればそうするよ」
2人の間には何かあるんだろうなと感じたけど、突っ込んで聞くようなことはしなかった。
次話は、結界の契約更新をどうするかでリアトリス国に行きます。
木曜日に3話更新予定です。
ブックマーク登録、読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。




