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49 魔法陣

「ノワールちゃんって目立ちたくない魔女なの?」


「そうね。静かに暮らしたいからね」


「そっかー。俺、クインスから強欲の魔女と話したって聞いた時、耳を疑ったんだよね」


「どうして?」


「魔女の噂って、結構飛び交うんだよ。でも、強欲の魔女の話は聞いたことがなかったんだ。本当は魔女は5人じゃないかって言われているくらいだったし」


「5人? 私の他に誰が引きこもっているの?」


「えー? 誰だろう?」


ポプルスが、斜め上を見ながら思い出すように、ゆっくりと言葉を吐き出す。


「俺が聞いたことあるのは、傲慢の魔女と嫉妬の魔女と……憤怒と色欲と暴食の魔女かな」


「ああ、怠惰の魔女のムスタさんね。納得したわ」


「怠惰の魔女? のんびり屋さんな人なの?」


「のんびりっていうより、絶対に自分で動かないのよ。私は他の魔女と4回しか会ったことがないんだけど、ムスタさんは毎回椅子に座ったままで、食事も全て人の手から食べていたわ」


「命令だけする人ってこと?」


「そうね。まぁ、でも、噂にならないんだったら、突拍子もない命令はしない魔女ってことよ」


「優しい魔女ではあるってことだね」


何気なしに言うポプルスの鼻を摘むと、わずかに仰反るように驚かれた。


「その考え、本当にダメだからね。魔女が優しいわけないでしょ」


掴んでいる鼻を左右に強く動かしてから放すと、ポプルスは顔に皺を寄せながら鼻を摩っている。


「えー、だってノワールちゃんは言うまでもなくだけど、シャホルちゃんだってケーキ大好きな可愛い子だったじゃん」


「マジでやめて。シャホルさんなんて、この世界壊せるほど強いんだから」


「ノワールちゃんよりも?」


「まさか。私の方が強いわよ」


自信満々に告げると、「かっこいい」と飛びつくように腕を回された。


「はいはい。話してばかりだと時間なくなるわね。さっさと作ってしまいましょ」


「ちぇ、今からがいいところだったのに」


唇を尖らせながらも離れていくポプルスに、ようやく闇は鳴りを潜めたんだと胸を撫で下ろした。

もう出てこなくていいぞと願っておこう。


「見本を描くわね」


空気の流れでポプルスが静かに頷いたと分かった。


変哲もないインクで、真っ白な紙にポプルスの名前を組み込んだ魔法陣を描きはじめる。


描いているところを近くで見たいのだろう。

身を乗り出してきたポプルスの右手は、ノワールが座っている椅子の背もたれにあって、まるで肩を抱かれているような格好になっている。


「……綺麗」


ボソッと呟かれた言葉だったが、ポプルスの顔が真横にあったのできちんと聞こえていた。


ペンを真っ直ぐに上に持ち上げて描き終わると、ポプルスは興奮したように机の上の紙を覗き込んできた。

覆い被されて少し重たいが、どこか心地いいと思うほどには、ポプルスの体温に慣れてしまったようだ。


「意味が分かるの名前だけなんだね」


「そうね。法則性が分からないように文字と絵を並べているからね」


「同じように描けばいいの?」


「こっちのインクに血を入れてから描いてね」


使わなかった方の赤黒いインク瓶を、ポプルスの前に移動させる。


「やっぱり自分の何かが必要なんだ」


「ないと魔力が通らないのよ」


ポプルスは緩く数回頷きながら、果物ナイフで指先を切り、インクの中に数滴入れた。

傷を治してあげると「ありがと」とキスをされ、肩に顔を押し付けられたので頭を撫でておいた。


「さ、頑張って綺麗に描いてね」


「歪んだりしたらダメなの?」


「ダメよ。少しでも失敗があれば発動しないもの」


「分かった。頑張る」


握り拳を作って気合いを入れたポプルスは、深呼吸してから魔法陣に取り掛かった。

何枚も失敗している姿を紅茶を飲みながら眺め、時には描き方を指摘しながら、午前中いっぱい過ごした。


ようやく発動しそうな魔法陣が3枚でき、ぐでーっと背もたれに体を預けるポプルスの腕を、労いの意味を込めて軽く叩く。


「つかれたー」


「お疲れ様。いい出来よ。まだこれを耳飾りに入れる作業が残っているけどね」


「うっ……もう無理……休憩する」


「そうね。シーニーが昼食を並べるのを待っているから、残りは夜にでもしましょう」


「うわっ! ごめん! シーニー!」


厨房に続く扉の前で息を潜めるように立っていたシーニーは、勢いよく体を起こしたポプルスに向かって両手を突き出し激しく左右に振っている。


「いいえ! 大丈夫です!」


「ううん、すぐに片付けるよ。だから、シーニーの美味しいご飯で俺を癒して」


「美味しい……はい! 昼食も自信作なので、たくさん食べてください」


幸せそうに顔を緩ませ、シーニーは厨房に消えていった。


ポプルスは失敗作を集め、綺麗に整理された束にしている。

トントンと辺を合わせようとするところに、ポプルスの性格が滲み出ているなぁと見ていた。


「魔法陣を耳飾りに入れるのは簡単なの?」


「魔法陣の真ん中に耳飾りを置いて魔力を流すだけだから、あっという間よ」


「簡単ならよかった。あ、1個疑問なんだけど、俺の名前なのにいざという時に発動するの?」


「もちろんよ。耳飾りに付与する作業ができるのがポプルスだけだってことだからね。付与された耳飾りは、誰でも使える魔道具みたいなものよ」


「誰でもなんだ」


「守る人物を特定させるとなるともう1段階複雑な魔法陣になるし、今のポプルスの魔力操作では難しいの」


「本当に魔法って奥が深い! でも、俺頑張るよ!」


「そんなに魔法に憧れていたの?」


「それもあるけど、ノワールちゃんの足手まといにはなりたくないから。肩を並べられなくても、力になれることはあるかもでしょ」


本当に、隙あらばキュンってするようなことを言ってくるんだから。

ポプルスの何がすごいって、誰にでも平等にこういうことを言えるところよね。


可愛らしく小首を傾げなら微笑むポプルスの頬を引っ張ると、「なーんーでー」と悲しそうに目尻を下げられたのだった。




来週と再来週ですが、木曜日のみの更新となります。

11月11日以降は月・木更新を再開いたしますので、今後ともよろしくお願いいたしますm(_ _)m


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます!

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