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4 結界と報酬

中の様子を見た感じだが、くたびれている誰かが王様に会いに来て、その場にお偉いさん方が集まっているように思える。


挨拶している人が終わるのを待つとしたら、どれだけ時間がかかるのか分からない。

魔女が何歳まで生きるのかノワールも知らないから分からないけど、時間は有限だ。

嫌らしく笑っている王様に使いたくない。


「窓1枚くらい割ってもいっか。3年分の報酬に比べれば、断然安いんだしね」


窓から少し離れ、手のひらを向けると、青く光るノワールの文字が浮かび上がる。


「『スクシモク』」


次の瞬間、窓ガラスが割れた。

粉々になった破片は飛び散らず、全て下に落ちていく。


悲鳴や怒号が飛び交う中、のんびりと窓から中に入った。

途端に声を失い、目を剥いて見てくる人たちの時間が一時停止した。


謁見していただろう人の少し後ろに降り立ち、口を半開きにして間抜け面になっている王様に話しかける。


「初めまして。魔女のノワールです。結界の契約の破棄に来ました」


「ま、ま、まじょ?」


どうにか声を絞り出した王様に、「ええ」と呆れたように頷いた。


「ままままってくれ!」


腰を浮かせる勢いで前のめりで焦る王様に、わざとらしく首を傾げる。


「待ってくれ? 正気? 3年待ったわよ。これ以上待つなんてしないわ」


あ! なんかスルッと言葉が出たけど、これ確実に私じゃなくてノワールの部分だよね。


そもそも私なら窓を壊さないし、こんな敵だらけと思う人たちの前に出ることなんてできない。

だって、批難や攻撃されたら怖いもん。


でも、全然恐怖を覚えない。

ノワール、すごいわー。


「失礼。少しよろしいですかな?」


両脇で整列していた人たちの中で誰よりも早く復活した、髪と瞳が灰色の初老の男性に声をかけられた。

周りが「魔女に話しかけていいのか?」と固唾を飲んで見守っている、と肌で感じる。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


小さく頭を下げた初老の男性に、私も下げ返した。

条件反射みたいなものだ。

ただそれだけなのに、「おお」という仰天の声が上がる。


「ノワール様。3年待ったとは、どういうことでしょうか?」


「言葉足らずだったわね。250年ほど前に契約を結んだの。それは知ってる?」


「もちろんでございます。私どもの国を守ってくださる結界を張っていただく代わりに、金銭と食料をお渡しするという契約ですよね」


「そう、それ。その報酬が3年支払われていないの」


大きなどよめきが起こり、皆口々に囁きはじめた。

そして、注目が私から王様に移動している。


「よ、よは知らぬ!」


「いやいや、知らなかったら第一声が『待ってくれ』にならないでしょ。馬鹿なの? アホなの? 脳みそないの?」


あれ? また無意識に出てきた。こんな言葉小学生以来かも。

あれかな? 面倒臭い雰囲気に私が嫌だってなっているから、ノワールの方が強くなってるのかな?

うーん、まぁ、どっちでもいっか。


「な! 貴様! 余は王だぞ!」


真っ赤になって怒る王様に怒鳴られても「うるさいなぁ」としか思わない。


「知っているからここに来たのよ。ってか、私に文句を言う人を助ける必要ないわよね。心置きなく契約破棄できるわ」


「「お待ちください!」」


さっきの初老の男性と、もう1人、体格がいい髪も瞳も焦茶色の男性に声を上げられた。

見ると、片膝をついている。


「結界が無くなってしまうと、多くの民が魔物に殺されてしまいます。恐怖で眠れぬ夜を過ごすことになります。どうかご慈悲をいただけないでしょうか?」


「団長の言うとおりです。必ずや3年分の報酬は支払わせていただきます。ですので、契約を続けていただけませんか?」


体格がいいと思ったけど、あの人騎士団長なんだ。

で、あのおじいさんは結構偉い人なんだろうな。

じゃなきゃ、ここで支払うなんて明言できるわけないもんね。


「うーん……でも、私、あの王様嫌いみたいなの。だから無理だわ」


「な! 小娘! 生意気すぎるぞ! それに、契約を破棄するならば、この国から出て行ってもらう! 森からな!」


分かりやすく、わざと「はぁ」と言葉にして重い息を吐き出した。

周りに視線を走らせると、3分の2くらいの人たちが頭を抱えている。


「絶対に頭の中空洞よね? そもそも私はこの国に住んでいないし、世界にある7つの森は魔女たちのものよ。どの国にも属していないわ」


いやいや、そんな「ん?」みたいに顔に皺を寄せられても。

当たり前の知識がないのに、よく王様になれたな。

この国は終わりだな。


「いい関係を築けそうにないから、契約を破――


大きな音を立てて、謁見室のドアが開いた。


「魔女はここね!」


振り返ると、7歳くらいの豪勢なドレスを着た少女が、シンプルな服を着た痩せ細っている少年の背中に座っている。

少年は、少女を乗せたまま四つん這いで近づいてくる。


「まぁ! 本当に黒目黒髪だわ! なんて不気味な色なの!」


誰だろう、この可愛くない少女は。

後ろに控えている侍女は真っ青で身震いしているし、少年は限界なのか小刻みに震えている。


「アンノーナ王女殿下! 危険です! お下がりください!」


どこからともなく声が上がるが、誰もアンノーナ王女に駆け寄らない。

ここにいる人たちは、私が窓を壊して飛んでやってきたことを知っている。

下手に動いて魔女の怒りを買いたくないんだと、丸分かりだ。

というか、それくらいの忠誠心しかないということになる。


「あら、何が危険なのかしら? 魔女といっても小娘じゃない。王族の私より偉くはないのよ」


なるほど。

この父にして、この娘ありってことか。




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