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44 サクッと倒す

警ら隊に言われた場所にグースと飛んで向かうと、空からでも魔物が押し合うように結界に体当たりしている様が見えた。


魔物たちの数メートル手前、人が数人いる場所に降りると、飛んできた私たちに目を見張っていた。

そこにはクインスとタクサスもいて、すぐに声をかけられる。


「グース! ノワール様!」


「ええ!? いいな! 俺も飛びたい!」


「ああ、最高だったぞ」


二者二様の反応に、グースの緊張感がない返しに、その場に残っていた警ら隊の人たちの顔から力が抜けていく。


「ノワール様、来てくださりありがとうございます」


クインスに軽く頭を下げられるが、今はお礼を言われている場合じゃない。

集まっている魔物が、エティン・タイタン・トロールと巨人族ばかりなのだ。

魔物同士で縄張り争いをしてもおかしくない集まりなのに、協力をして認識阻害を施している結界を破ろうとしているなんて明らかにどうかしている。


「ねぇ、ここって結構な街外れよね。いつもここまで巡回ってしているの?」


「ううん、してないですよ」


答えてくれるタクサスを一瞥だけして、警ら隊の様子を窺う。


「今日は街の人が木の実を取りに来たらしくて、その時に魔物を見つけてくれたんです」


タクサスの言葉を引き継ぐように、クインスが木の実を指しながら教えてくれた。


誰かが協力をして街の中に魔物を入れようとしたのかと思ったんだけど、違うのかな?

何か魔物を誘き寄せるものを、ここに放置しているとか……


「まぁ、いいわ。サクッと倒しましょう」


「あの数をさくっと?」


唖然と問うてくるグースに軽く頷き、魔物目掛けて指を鳴らした。

至る所にかまいたちが発生し、魔物を切り刻んでいく。

阿鼻叫喚している魔物を眺めていると、グースに左肩を掴まれる。


「あれは、ノワールがしたのか?」


「そうよ。数体調べようと思ったから火は止めて風にしたの」


「なぁ、魔女はあれくらい簡単にするのか?」


「するでしょ。魔女なんだから」


「そ、そうか」


グースの唾を飲み込む音が、はっきりと聞こえた。

周りを見ると、青い顔をしたクインスたちの視線は死んでいく魔物から逸らせないでいる。


「魔女に逆らわない方がいいって理由分かった?」


「ああ、死んだのも気づかないうちにあの世にいってそうだ」


「同じ死ぬなら、そっちの方が幸せかもね」


「言われてみたらそうだな」


可笑しそうに笑い出したグースに、背中を軽く叩かれる。

誰よりもすぐに自分を取り戻すグースだから、王に選ばれたのかもと思った。


周りの魔物が殺されても逃げる素振りはなく結界を攻撃し続ける様子はまさに地獄絵図で、最後の絶叫が聞こえるまで5分もかからなかった。


これほどまでにノワールと融合していてよかったと思う場面は、きっとないだろう。

ゾンビやホラーやミステリーの映画が好きだったけど、映画と現実は全く違う。

現実は、気持ち悪さが半端ない。

それなのに、心が波風立たずに平穏なのは、ノワールが魔女だったからという理由以外にないと思う。


気持ち悪さはあるから、見なくていいなら見ないを選択するけどね。


空を見上げて、晴れ渡った綺麗な青で瞳を休ませる。


「シーニー、来て」


呟き程度の声だが、シーニーはノワールの眷属。

どこだろうと言葉通りすぐに飛んできてくれる。

隕石が落ちるような速さで空から現れたシーニーに、色んなところから息を飲む音が聞こえた。


「ノワール様、お待たせしました」


「待ってないよ。アピオスとカッシアを頼んだのに、急に呼んでごめんね」


「いいえ、大丈夫です。2人には屋敷から出ないように伝えてから来ました。パランにもお願いしています」


「さすが、シーニー。ありがとう」


嬉しそうに頬を緩めるシーニーに、心が癒される。


「それでね、本当に悪いんだけど、あそこにある残骸から数体地下に運んでおいてほしいの」


シーニーは、魔物の死体の山を見て小さく頷いた。


「分かりました。残った残骸はどうしますか?」


「燃やすわ」


「では、そちらも私がしますよ。すぐに終わりますから」


「いいの?」


「もちろんです」


「シーニー、ありがとう」


シーニーの頭を撫でると、シーニーは両手で顔を隠してしまった。

見えている尖っている耳は真っ赤になっている。


「さて、ポプルスをつれて帰ろうかな」


「そうだったな。案内しているところだった」


隣に立っていたグースに笑顔で手を取られたので、握られた手に視線を送ってからグースを見上げた。


「また飛ぶんだろ。置いていかれたくないからな」


「はいはい」


グースと一緒に浮かび上がると、タクサスの「ズルいー」という文句が聞こえてきた。

愉快そうに声を上げているグースと一緒に、空高く飛び上がる。


「街に戻ればいいのよね?」


「ああ。でもその前に……ノワール。何がおかしいんだ? 教えといてくれ」


真剣な顔で真っ直ぐ問われ、誤魔化さない方がいいなと小さく息を吐き出した。


「まだ何も分かっていないわ。ただ魔物の種類に違和感があったのと、操られていたのかもしれないことと、さっきの場所に魔物を誘き寄せる魔道具があるのかもと思ったくらいよ」


「それが本当だったら、誰かがこの国を潰そうとしているんだな?」


「可能性としては高いわね。もしくは助けて恩を売りたいのかもね。他にも考えれば出てくると思うわよ」


「そうか。魔女の仕業なのか?」


「直接じゃなくても関わっているんじゃないかな。たぶんね」


考え込むように目を閉じたグースは、繋いだままの手に力を込めてきた。


「何も返せるものはない。それでも、助けてくれないか?」


「強欲の魔女の私より欲深いわね」


吹き出すように笑うと、目を開けたグースは頼りなさそうに微笑んだ。


「悪いな。体で返すって言うとポプルスが五月蝿いだろうからな」


「それもそうね。グースと絶交するって騒ぎそうだわ」


顔を合わせて笑い合い、ポプルスを迎えに行った。


この国を助けたいとは思っていないけど、知り合った人たちが死んでいくのは気分がいいものじゃない。

必死に頑張って生きている人たちだ。

どうせなら幸せになってほしいと思う。


ポプルスの帰る場所だし、アピオスやカッシアの移住先になるかもしれないしね。


それに、きっと犯人はオレアを差し向けた黒幕と同じ実物だろう。

だとしたら、許せる相手ではないし、はじめから喧嘩をして勝つつもりだった。

結果的に国を助けるという行為になると思うから、グースのお願いに明確な発言をしないでおこう。

優しい魔女という印象をつけたいわけじゃないのだから。




木曜日の更新は12時の1話のみになります。


読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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