表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/125

43 魔物の襲撃

朝のんびりと過ごしてからポプルスを迎えにクライスト国に行くと、グースだけがソファで眠っていた。

ポプルスはもちろん、クインスもタクサスも見当たらない。


「ねぇ、グース。起きて」


「ぅん……」


「色っぽい声出してないで起きて」


グースを起こそうと軽くお腹を叩いて、目を見開いた。

手に伝わってきた感触に感動して、筋肉を確かめるように撫でてしまう。


お腹カッタ! カッチカチやないかい! じゃない。

これ、何個に分かれてるの? シックスパック? もしてして、エイトパック?

見たーい! こんな間近で見られることないよ!

ポプルスもいい体しているけど、ここまでじゃないのよね。


いそいそと服を捲り上げようとしたら、しっかりとした大きな手に手を掴まれた。


「ノワール、何やってんだ?」


「あ、おはよう」


「おはよう」


大きな口を開けて欠伸をするグースは、相当眠たそうだ。


「で、俺を襲おうとしてたのか?」


「違うわよ。お腹を見せてほしかったの」


不思議そうに見られるが、グースは肩をすくめると自ら服を捲り上げてくれた。

彫刻のような肉体美に「おお」という声が漏れ、グースにクスクスと笑われる。


「触ってもいい?」


「どうぞ」


硬いし、腹筋をエイトに分けちゃうこの溝が最高にいい!

ほんのり、本当にほんのりと柔らかいところも触り甲斐がある。


「寝込みを襲われるのかと思った」


「ポプルスと付き合ってなかったらやっていたかもね」


「そうか、残念だ」


全然残念そうに聞こえない声にグースを見やると、グースは天井を見たまま朗らかに微笑んでいた。


「ポプルスのこと、よろしく頼むな」


「付き合っている間は仲良くしようと思っているわよ」


「十分だ。それにしても、触り方イヤらしくないか?」


「そう? こんなものでしょ」


「どこがだよ。俺が普通の男ならキスして脱がせてるぞ」


「グースが外も中もイイ男でよかったわ」


吹き出すように笑ったグースのお腹を軽く叩いて、触るのを止めた。


余は満足じゃ。満足。

はー、朝からなんて素敵なご褒美。

特段筋肉に思い入れがあるわけじゃないけど、最高の肉体美は至高なんだって気づかされたわ。


グースが起き上がって、固まっている体を解すように上半身を伸ばしている。


「ポプルスはどこなの?」


「朝から街で診療してもらってる」


「そういえば、元医者だって言ってたわね」


「まだ常駐してくれる医者がいなくてな。ノワール、知り合いにいないか?」


「ポプルスを返すわよ。家庭教師はクインスでもいいんだし」


「やめてくれ。ポプルスに殺される」


確かに「俺を捨てるの!?」ってゴネるかもしれないけど、重要度合いでいったら街のお医者さんだと思うのよね。

風邪だって死ぬ可能性があるんだからバカにできないじゃない。


ストレッチしながら立ち上がったグースに、柔らかく微笑まれ軽く頭を叩かれた。


「薬はたくさんあるし、月1で往診に来てくれる医者はいるから大丈夫だ。変なこと言って悪かったな」


「どこが。命は1つしかないんだから心配して当たり前よ」


「魔女が命を説くとはな」


可笑しそうに笑いながら歩き出すグースに続いて、部屋から出た。

歩みを止めないグースの隣をついていくように並んで歩く。


「医者、本当にいいの?」


「ああ、問題ない。それに、本当はポプルスに頼っちゃいけねぇんだ」


「どういうこと?」


「ポプルスは、医者である自分に絶望して医者を辞めたんだ。万能じゃねぇからな。治せない病気にぶちあたって自暴自棄になって荒れた。まぁ、その頃に奴隷にもなったから、本当に壊れるんじゃないかと思ったよ」


ポプルスが元医者だと打ち明けてくれた時、淡々と「辛い」とは言っていた。

だから、まさか自暴自棄になって荒れていたとは露にも思わなかった。


でも、そういえば「治癒や薬の研究をしている」と話した時、「俺らも恩恵もらえる?」と食いついてきていた。

もしかしなくても、助けたくても助けられなかった人たちのことが、今もずっと消えない傷や痛みとして心に残っているんじゃないだろうか。


ポプルスはチャラいし我が儘だしふわふわしているように見えるが、本当は大人で優しい。

誰かを大切にすることができる心を持っている人だ。


そんな人だから、たくさんの気持ちを割り切ることができなくて荒れたんだろう。

それに、きっと医者に戻りたいと思っているんじゃないだろうか。

ただ今は、まだ昔の気持ちを消化できていなくて、休憩しているだけなんじゃないだろうか。


「今日も俺が無理なお願いをして、ノワールが迎えに来るまでならって行ってくれたんだ。風邪が流行ってなきゃ頼まなかったんだけどな」


「そう」


「だから、あいつ今日の夜荒れると思うから慰めてやってくれ」


「そんなになの?」


「そんなになんだよ。フラッシュバックするんだろうな。だから、頼むな」


目の奥に痛みや寂しさを携えた瞳で微笑まれ、仕方がないというように息を吐き出した。

ポプルスには、オレアの時に気持ちを掬い上げてもらっている。

お返しに、ポプルスの痛みを和らげる手伝いをしてもいいだろう。


「ところで、どこに向かってるの?」


「ポプルスのとこ。ノワールが来たのに行かなきゃ拗ねるだろ」


肩をすくめるグースに「そうね、あれ鬱陶しいのよね」と溢すと、グースはお腹を抱えて笑いながら背中を叩いてきた。


「陛下!!!」


首に赤い布を巻いた人たちが慌ただしく駆けてきた。

瞬時に笑みを消し緊張を纏ったグースに、跪いている。


「どうした?」


「魔物です! 魔物が集結しています!」


なぜかグースに顔を見られたので、首を傾げた。

何かを確認するように見られた意味が、本当に分からない。


「襲われる心配はないだろ。結界があるんだぞ」


あ! 結界を張っているのに? と、私を見て安心したかったのか。

それとも、もしかして張っていないと思われたのかな?


「はい。100近い魔物が結界を壊そうとしているのです!」


見なくてもグースが一驚したと分かった。

私は腕を組み、あり得ない状況に眉を顰める。


「奇妙ね」


「なにがだ?」


「私の結界は特殊なのよ。侵入を防ぐのはもちろん、近づけさせないように認識阻害を組み込んでいるの。だから、気づかないうちに踵を返すはずなのよ。結界を壊そうとするはずがないの」


顔を強張らせたグースが、警ら隊に問いかけた。


「本当に100近くの魔物が結界を壊そうとしているんだな?」


「はい!」


「どういうことだ……何が起こっているんだ?」


「まぁ、見に行けば分かるわよ」


「そうだな」


「ん? グースも行く気なの?」


「俺がこの国を守らないといけないからな」


笑顔のグースに手を取られ、「俺も飛んでみたかったんだ」と言われた。

まぁ、みんな1回は飛ぶことを夢見るのかもね。と、悟りを開いたような笑みを浮かべてしまった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ