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42 ポプルスたちの宴

ノワールたちが立ち去ると、部屋を変え、ポプルス・グース・クインス・タクサスの4人だけの宴会が始まった。

まだ日は暮れていないが、久しぶりに4人集まれたことが嬉しくて、このまま飲み明かしてもいいほど気分が上がっている。


「「乾杯」」


蒸留酒が入ったグラスを軽くぶつけ、それぞれ1口飲み、顔を見合わせて笑い合う。

テーブルには、お酒の他に軽く摘めるナッツやチーズ、干し肉が置かれている。


「はぁ、懐かしい……この安酒……」


ポプルスが感慨深そうに呟くと、すかさずポプルスの隣に腰掛けているグースが突っ込んだ。


「は? ノワールの屋敷では上等な酒しかないのか?」


「そうだよ。さすが魔女だよね。娼館時代の高級なお酒ばかりだよ」


「ポプルスさん、いいなぁ。あの時僕がいたら、僕も絶対名乗りを上げたのにさ」


タクサスが悔しそうに言いながら、ナッツを1粒食べている。

タクサスの隣に座っているクインスが、コップを置きながら「ああ」と溢した。


「そういえば、ノワール様はお前の好みピッタリだもんな」


「兄貴ー! あの時に気づいてポプルスさんを止めてよー」


「いや、クインスには俺を止められなかったね。それに、誰にも譲るつもりないよ」


「お前の好みからは、ちょっとズレてないか?」


クインスとタクサスからすれば、女性と軽い言葉のやり取りしかしないポプルスに好みがあると思っていなかった。

ほのかに驚きの色を含ませた瞳でポプルスを見た。


「え? あんなに我が儘言ってたのに、好きじゃないの?」


「ポプルス、ああいうプレイとか言うのか?」


ポプルスは小さく息を吐き出して、グースの肩を叩いた。


「あれはプレイじゃなくて、楽しいからちょっと大袈裟にしてるだけだよ。それに、我が儘を言っても許してもらえるからいいの。ノワールちゃんを好みかどうかで言うなら好みじゃない。だって、甘い言葉言ってくれないし、俺からばっかりだし。俺の好みは、俺みたいに纏わりつくほど愛してくれる人だから」


「ちょっとじゃなくて真逆だったか」


肩をすくめるグースの二の腕を、ポプルスはもう1度叩いている。

拗ねているポプルスに対して、グースは楽しそうにクスクス笑っている。


「でも、愛するなら『絶対に俺より先に死なない子』っていう1番難しい条件は満たしているからね。可愛いし優しいし面倒見いいし正直者だしで、好きにならない要素ないよ」


突然、グースが、ポプルスの髪をグチャグチャにするほど、激しくポプルスの頭を撫でまわした。


「わっ! なに? やめてよ!」


「悪い悪い。急に触りたくなってな。銀色の髪が恋しかったんだよ」


「ほんと、グースは俺に惚れているよね」


「僕も触りたーい! ポプルスさんの髪で三つ編みするの楽しいんだよね」


「俺は遠慮しておくから、俺の分もタクサスに譲るぞ」


「やった! 兄貴、最高!」


「待て! 俺の意見は!?」


タクサスは口笛を吹きながらポプルスの側に行き、「気持ちいい」とポプルスの頭を撫で回しはじめた。

撫で終わったグースも、見守っているクインスも、声を上げて笑っている。

眉間に皺を寄せたポプルスはされるがまま、タクサスがする三つ編みを受け入れている。


「どうせなら女の子に触られたい」


「まぁまぁ、僕でもいいじゃない。本当に綺麗な髪だよね」


タクサスの鼻歌が聞こえてくる穏やかな空間だったが、グースが真剣な面持ちに変わった途端、空気が張り詰めた。


「ポプルス、ノワールは信じられるのか?」


「もちろん」


グースが鼻でフッと笑うと、再び楽しげな雰囲気に様変わりした。

ポプルスらしい自信満々の答えに、誰もが安堵したのだ。


「ノワールが気にしていた魔道具師のチェルナーは、魔女だと思うか?」


「そうだと思うよ。でも、ノワールちゃんが言ってたように態度を変える必要ないよ。魔女って気づいたってバレる方が危ないかもだしね」


「それは問題ないが、一体何の目的でよくしてくれているのか分からなくて、若干気持ち悪いな」


グースの言葉に、クインスとタクサスが頷いた。

ポプルスは、お酒を飲もうと傾けたコップに口をつけずに、斜め上を見ながらコップを並行に戻す。


「俺さ、ノワールちゃんのところに住んでから、魔女や魔法に関しての知識が増えてくんだけど」


「マジでポプルスさんが羨ましい……」


タクサスの呟きが聞こえなかったかのように、ポプルスは言葉を続ける。


「魔女って、結構単純なのかなって思うんだよね。最近も暴食の魔女っていう可愛い子供にあったんだけど、その魔女はノワールちゃんの森に実る果物を欲しがっただけだったんだよ。んで、その子が言うには、魔女は執着する生き物なんだって。だからさ、難しく考えなくても、チェルナーが執着する何かがグースにあるってことなんじゃない?」


ポプルスは、コップを再度傾けてお酒を口に含んだ。

クインスが体を小さく揺らし、グースを見つめる。


「グース、お礼に何でもするなんて言ってないよな?」


「俺が口にする言葉は、『俺の助けが必要な時は言ってくれ。俺ができる範囲で協力する』だな」


「そうか、よかった。ノワール様と話し合った時に、魔女に対して『何でも』は禁句だと言われたから心配になったんだ」


「言ったことないから安心しろ」


「逆にポプルスさんがベッドの中で言ってそー」


「残念だな、タクサス。俺がベッドの中で言う言葉は、『俺の全てで気持ちよくしてあげる』だよ」


「うわっ。聞きたくなかった」


真面目な話をしながらも笑いが絶えず、安いお酒でも美味しく飲める。


「まぁたぶんだけど、次チェルナーが来た時、ノワールちゃん動くんじゃないかな?」


「動くとは?」


「魔女かどうか確かめに来ると思うってこと。もしチェルナーが魔女なら、オレアの協力者はチェルナーで決まりだと思うしね」


「ってことは、ポプルスさんを取り戻して、報酬で髪の毛と目ん玉もらったってこと?」


「可能性としてはあるよね」


目がないポプルスでも想像したのか、タクサスが「うわー」と言いながら腕を摩っている。


「髪の毛と目玉って何かあるのか? ノワールも反応してただろ?」


「あの時、可愛かったよね。きっと俺の心配してくれたんだよ。本当に可愛かった」


「ポプルス」


話を変えるなと言うように諌めるグースに、ポプルスはおどけるように肩をすくめた。


「結構重要な何かはあるよ。だけど、言わないって約束したんだ。だから、言えない」


「重要な何かってだけで十分だ」


「グースたちも髪の毛とか、まぁ色々欲しがられてもあげないようにね」


頷いたグースの視線が、ポプルスの腰にリボンで結ばれている杖に移った。

クインスとタクサスもつられてポプルスの杖を見て、クインスが話しだした。


「手紙で読んだ時、驚きで声を上げたよ。魔法使えるようになったのか?」


「少しずつね」


ポプルスは杖を持ち、『ヒグモゼーロ』と唱えて、軽く杖を振った。

すると、空中に現れた水が、クインスのコップの中に落ちていった。


「おまっ! 馬鹿! あー、もう酒か水か分かんなくなった」


肩を落とすクインスを見て、グースは声を上げて笑っていて、タクサスは顔を伸ばして驚いている。


「すごいっしょ。でも、俺は風属性らしくて、練習すれば数メートルの結界を張れるようになるって教えてもらったよ。後、ノワールちゃんみたいに飛べるようにもなるって。ちょー喜んだよね。飛べるようになれば、こことノワールちゃんのとこを行き来できるようになるんだから」


「そうだな。早く習得してくれよ。お前がいてくれれば書類仕事が捗る」


「夜、飲みにしか来ないから」


「薄情な奴だな」


軽口を言い合う飲み会は、笑顔のせいで顔とお腹が痛くなるほど長く続いたのだった。




読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。

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