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40 魔道具師

「グース、あなたに特別な人よ。いるの?」


「クインスたち仲間とかじゃなくて恋人ということなら、答えは『いない』だな」


「家族は?」


「いない。旅の途中で魔物に襲われて、全員帰らぬ人となった」


「そう。魔物に襲われた時、どうやって助かったの?」


「俺が倒したんだよ。無我夢中で剣を振るって魔物を倒した時には、もうみんな死んでいた。俺も怪我をして動けなかったけど、運よく乗り合い馬車が通ってな。そこにポプルスが乗っていて助けてくれたんだ」


「もう死んでると思ってたから、呻き声が聞こえてビックリしたよ。本当、助けられてよかった」


温かい雰囲気が流れたので、グースの照れたような笑みに、ポプルスが優しく微笑んだと分かった。

微笑ましい空間だが、そんなことよりも「特別な人はいない」という回答が気になって仕方がない。


うーん……深く話してみるって、こういうことじゃないの?

どっかに魔女が関わっているはずよね?

魔女……魔女……あ! そういえば!


「この街を譲ってくれた人って女性?」


「そうだ」


「どんな人?」


「魔道具師だよ」


開発はアスワドさんがしているけど、修理は請け負わないから、魔道具師と呼ばれる人たちが修理をしているんだったわね。

勉強するのに多額の費用がかかるから、主に貴族が就く仕事だって聞いたことあるわ。

まぁ、立派な街を建てた土地持ちだから貴族だとは思ってたけどね。

でも、もしかしたらがあるのかな?


「その人は何歳くらいの人?」


「何歳だろうな? 聞いたことないけど20歳前後じゃないか」


はい、違った。

もしかしたらアスワドさんかもと思ったけど、アスワドさんの見た目は10歳くらい。

子供じゃない時点で、完全に違うわ。


「あの人、すっごい色香撒き散らしてない? だから、20代半ばくらい、俺よりちょい下くらいだと思うけどな」


「言われたらそうかもな。惜しみなく支援をしてくれるから尊敬しているが、あっちの欲が強いところは少し苦手なんだよな」


「グース、今の言わなくていいことだから」


わざと怒っているというようなポプルスの強めの声に「どの口が言うか」と思ったが、グースがアピオスたちを見て気まずそうに視線を逸らした。


ポプルスの行動は鬱陶しいと思うことが多いが、確かに夜の営みを連想させる話を2人の前でしたことはない。

部屋以外でのイチャつき禁止令を出したからという理由もあるだろうけど、きっとポプルスの性格もあるはず。

だって、馬鹿みたいに「可愛い」「好きだ」「愛してる」は繰り返すのだから。


気持ちを伝えることは大切という点では褒められる行動だが、2人のためを考えるなら今首から離れて座るべきだろと言いたくなる。

でも、言っても無駄だと思うので言わない。

面倒臭いことはしたくない。


「その人とは、よく会うの?」


「数ヶ月に1回会うぞ。ふらっとやってきては、困っていることはないかと心配してくれる。もう十分だから何も言わないようにしているよ」


「ノワールちゃんが結界張ってからも会った?」


「会ったな。ポプルスがいなくなってから2週間、いや10日、まぁそれくらいだな」


それくらいなら、オレアさんはまだ森に侵入してないわね。


「ふーん、何か言われた?」


「酒の席にポプルスがいないから、理由を聞かれたくらいか」


「いつもグースに夢中だから、俺がいないって分かるなんて思わなかったよ」


「お前のことも結構気に入っていると思うぞ。銀色の髪が綺麗って褒められてたろ」


「そんなこともあったね。確か、髪の毛切ることがあったら欲しいって言われたんだった」


髪の毛!?


勢いよく振り返ると、驚いたのかポプルスは1歩後ろに下がったようだ。

間近だが、見つめ合える空間がきちんとある。


「髪の毛が欲しいって言われたの?」


「そうだよ。俺の髪珍しいでしょ。目も欲しいって言われたことあるよ」


「は? お前、そんなこと言われたのか?」


後ろから、グースの驚愕の中にも憤りが含まれている声が聞こえてきた。


「あー、なんて言うの、ほら、甘い時にちょっとね」


ポプルスが居心地悪そうに視線を彷徨わせているが、瞳に映っていても目には入っていない。

なぜなら、私の頭の中は「髪の毛と目……珍しいから本当に?」と考え事で埋まっているからだ。


「それでもだろ」


「んー、でも、髪の毛はよく欲しいって言われてたから。目を言うなんて珍しい人だなくらいにしか思わなかったよ」


私に問い詰められないことに安心したのか、ポプルスは戯れるように再び抱きついてくる。

思考が戻ってきて、無意識にポプルスの髪を撫でてから、座り直し姿勢を正した。


グースはわずかに不機嫌そうだった表情を隠して、私に視線を向けてきた。


「俺たちの恩人に変わりないから疑いたくないが、その人に何かあるのか?」


「魔女かもしれないって思っただけよ」


「……魔女?」


グースに、息を飲み込むように呟かれる。

グースの後ろに立っているクインスとタクサスの顔は強張ってしまった。


「魔女の可能性は高いのか?」


「会ってみないことには分からないわ」


「もし魔女だった場合、注意することはあるか?」


「ないわよ。何も不満を言われていないなら、今まで通りでいいはずよ。その関係が楽しくて会いに来ているんだと思うから」


「そうか」


「魔女と決まったわけじゃないんだから、気にしない方がいいわよ」


平坦な声で告げると、グースは体から力を抜いた。


「そうだな。違う可能性の方が高いしな」


軽く笑うグースの声に、クインスやタクサスは緊張から解き放たれたようだった。


私としては、魔女の可能性の方が高い気がするんだけどな。

髪の毛や目が欲しいなんて魔女なんじゃないかと……


でも、魔法使いでも欲しいと思うのかも。

魔法使いから聞いて、魔道具師の女性は珍しい色のポプルスに目が止まったのかも。


あ、そういえば……




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